第6話 温泉宿の朝食


「ふう……とてもおいしかったです」


「お粗末さま。口にあったようでよかったよ」


 それにしてもこの天使さん、見た目は細身なのに結構な量を食べたな。少し多めに作っておいたのだが、すべて完食した。俺よりもポエルのほうが食べていたくらいだ。


「なるほど……確かに温泉宿というものの魅力が少しわかったような気がします。人の身であればなおのこと、この温泉と食事の良さがわかるのでしょうね」


「少しでも温泉宿の魅力が分かってくれたみたいでよかったよ。温泉は従業員も使って大丈夫だから、毎日仕事が終わったあと自由に入っていいからね」


「わかりました」


「それと天使は食事を取らなくてもいいって言ってたけれど、俺もひとりで食べるのなんだか寂しいし料理の感想も聞きたいから、もしポエルが良ければ食事は一緒に……」


「よろしくお願いします」


 はええな!


 俺まだ最後まで言ってないんだけど。まあ、それほど俺が作った料理をおいしいと思ってくれたのならなによりだ。


「え~と、それじゃあ食事は一緒に食べるってことでいいね。温泉宿の営業が始まったら昼は順番に休憩を取るようになると思うけれど、朝ご飯と晩ご飯は決まった時間で一緒に食べることにしよう」


「わかりました」


「明日は温泉宿の細かい装飾なんかを準備したりしていこう。それじゃあお休み」


「はい、明日もよろしくお願いします」


 さて、俺は今からゆっくりと温泉を楽しむとしよう。なにせ温泉の泉質をワンタッチで変えられるのだ。


 元の世界では遠くて簡単に行くことができなかったあんな場所やこんな場所にある温泉の泉質を楽しむことができるんだからな、ひゃっほー!


 このあと滅茶苦茶温泉に入った。






「やっぱり夢じゃなかったか……」


 目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった。むしろ俺の部屋よりも綺麗な天井だったのが、なお悔しいところだ。


 そういえば昨日はいろんな温泉を楽しみまくっていたら、少しのぼせ気味になってそのままベッドへとダイブしたんだっけな。


 ここは温泉宿の客室だ。従業員用の部屋も作る予定だが、営業が始まるまでは客室に泊まってみて足りないものがないかを確認する。


「しかしいい部屋だよな」


 クリエイトで作った客室は俺の思った通りの間取りや壁を作ることができるため、この宿のそれぞれの客室はうちの実家の宿よりも大きな部屋にしてある。今俺が寝ている部屋は4~5人が寝られるくらいの広さとなっている。


 ポエルに聞いたところ、この世界の冒険者達は複数人のパーティが基本らしいので、ひとつのパーティがこの客室に泊まれることを想定している。


 そして温泉宿のベッドや布団はとても大切である。だからこそ寝具に関してはかなり良いものを購入した。そのため昨日はぐっすりと眠ることができたみたいだ。


「よし、今日も頑張りますかね!」




「おはようございます」


「おはよう、ポエル」


 朝ご飯を作っていると厨房へポエルがやってきた。今日は朝から最初に見た時と同じメイド服である。浴衣もいいけれどメイド服もいいよね!


 意外と温泉宿とマッチしているんだよなあ……まあメイド服も給仕服と言えば給仕服だからな。う~ん、温泉宿の制服とかはどうしよう。


「ちょうど朝ご飯ができたところだよ。運ぶのを手伝ってくれ」


「わかりました」




「これがこの温泉宿で出そうとしている朝食だよ。ご飯が駄目な場合にはパンと合わせた洋食系も考えているから、今度の朝食は洋風のものにしてみるかな」


「この白い穀物がご飯ですよね? 薄い味ですが、噛めば噛むほどほんのり甘くて、他の料理と合わせればとてもおいしいと思いますよ」


「俺の世界のほうでは朝食はご飯派とパン派に分かれるんだ。どちらかが合わない人もいるだろうし、うちの旅館でもどちらか選べるようにしようと思っているんだ」


「なるほど」


 最近の宿やホテルの食事はビュッフェスタイルが多かったりもするが、そこまでの規模の宿にする気はないので、朝食は人数分の食事を部屋に持っていく予定だ。


「豪華絢爛というわけではないですが、とてもおいしいですね。それにこちらの世界では見慣れない食材や調理法を使っているので、泊まりに来てくれたお客様も満足してくれると思いますよ」


 今日の朝食はうちの温泉宿の和風の朝食そのままだ。ご飯に味噌汁、焼き魚、焼き海苔、卵焼き、煮物、豆腐、おひたし、漬物。ポエルの言う通り、豪華絢爛と言うわけではないが、様々な料理を少量ずつ食べられるようにしてある。


 その分手間はかかるから、料理は他の従業員にも手伝ってもらう予定だ。


 天使であるポエルはご飯も味噌汁も大丈夫なようだが、この世界の人達の口に合うかは気になるところだな。


「さて、今日はフロントや客室の内装や装飾なんかを進めよう」


「はい」






「よし、最初はこんなもんでいいかな。豪華に見えるようにしながらも、予算的にはこんなところが妥当だとは思うけど」


「ええ、十分だと思いますよ。フロントや客室にある絵画や掛け軸、壺、花瓶などはこちらの世界にはないものなので、こちらの世界のお客様にはとても珍しく美しいものに見えるでしょうね」


 ストアで購入した日本独自の芸術品などは当然レプリカのような安い物だ。本物だったら何百万円もするような品物なんてザラにあるからな。


「さて、まだ細かく詰めるところはあるけれど、とりあえず営業ができるくらいの形にはなった。次は従業員を雇いたいと思う」

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