第7話 従業員の募集
「従業員ですか?」
「ああ。規模的にはそれほど大きくない温泉宿にする予定だけど、さすがに俺とポエルだけじゃお客さんをさばききれないだろうし、まともに休みも取れなくなって……」
「それは断固として拒否します」
……遮られてしまったが、正直に言って俺もそれは断固として断る!
うちの実家の温泉宿もそうだったのだが、基本的に温泉宿の休みはほとんどない。普通の人が祝日となるGWや盆や正月がむしろ一番の稼ぎ時になるから仕方ないと言えば仕方ない。
そして深夜にもお客様が急病になった場合なんかにも備えておかなければならない。それに料理も俺ひとりでは回せない可能性が高いので、間違いなく人手が必要だ。一応この宿自体も週に2日ほどは休む予定である。
「休みの他にもひとつ大事なことがあるんだけど、ポエルって戦闘はできる?」
「いえ、まったくできません」
「やっぱり戦闘はできないか……」
「むしろ、私のような美しい女性が戦闘をできると思っているヒトヨシ様の感性を疑ってしまうのですが?」
「………………」
この天使さん結構口が悪いよなあ……
自分のことを自分で美しい女性とか言っているし……
まあ否定はしないけど。
「まあそういうわけで、何かあった時のために戦闘のできる従業員がほしいんだよ。従業員兼用心棒みたいな感じかな。しかもかなり強い人じゃないと務まらない気もする」
「確かにそういった従業員は必須ですね。ですが、それほど強い人となると、雇うならそれなりの金額が必要になるかと思いますよ」
「そうなんだよなあ。特に最初はポイントも貯めたいところだから、それほど高額な給料は出せないし……」
「とりあえず駄目元で求人を出してみてはいかがでしょうか。しばらくして誰も来ないならその時に条件を考え直してみればよろしいのでは?」
「そうだな。とりあえず求人を出すだけはポイントもかからないっぽいし、求人を出しながらまだ残っている細かい作業をして、しばらくしても人が来ないなら改めて考えるとしようか」
「ええ、それでいいと思いますよ」
というわけで従業員の求人を出すことにした。だが、この温泉宿にいながらどうやって求人を出すのかという疑問がある。
そもそも温泉宿はこの異世界とは別の空間にあるらしい。温泉宿のまわりには俺が最初にやってきた白い空間が広がっている。ポエルに聞いたところ、この温泉宿を中心に正方形の空間になっているらしい。
そんな中でどうやって求人を出したり、お客さんを集客するのかというと、答えはこの温泉宿の入り口にある。
「これでいいの?」
「はい。そうやって両手を入り口の引き戸に触れて想像してください」
「了解」
この温泉宿の入り口はうちの宿をイメージしたものなので、うちと同じで温泉マークが入ったのれんの先に木とガラスでできた和風の引き戸となっている。最近では自動ドアの入り口が多いが、うちの宿は昔ながらの手動なんだよね……
とはいえ逆にこちらの世界には自動ドアなんてものはないだろうから、逆に手動の引き戸のほうが良かったかもしれない。
両手を引き戸に添えて頭の中でイメージすると引き戸が少し光った。
「もう大丈夫です。これでこの世界の様々な場所にこちらの温泉宿へとつながる入り口が現れました」
そう、この温泉宿の入り口は俺が指定した条件に合う人達がいる場所へ自動で繋げてくれるという魔法の入り口となっているらしい。某青いロボットもビックリするようなドア……じゃなかった引き戸である。
ただし、その引き戸は街のど真ん中や人通りの多い場所に現れることはないらしい。ひっそりとした森の中や洞窟、山の上みたいな場所に現れるとのことだ。
「それじゃあ、呼び出しベルが鳴るまでは細かい作業をしていようか」
「承知しました」
温泉宿の入り口へ入ってすぐの場所にはストアで購入した呼び出しベルが設置してある。それと合わせてこちらの世界のほとんどの地域で使われている共通語でこのボタンを押してくださいと書いてある。
俺の感覚的には日本語で文字を書いているだけなのだが、現地の人には共通語に見えているらしい。そして文字の読み書きができるだけではなく言葉も話すことができるようだ。接客をするには言葉が通じないと厳しいからとても助かる。
「条件的には悪くないと思うのですが、一定以上の強さを持っているという条件がどうなるのか読めないところですね」
今回の温泉宿の求人条件の書いた紙を表側の引き戸に貼ってある。
給料はこちらの世界の通貨で約30万円相当に設定している。ちなみに俺のストアの能力で、ポイントをこちらの世界の通貨に変換することが可能だ。
ポエルによれば給料的にはかなり高いらしい。しかしこちらの世界では冒険者という命の危険はあるが、その分リターンの大きい職業も存在する。とはいえ、そこそこ安全な護衛の仕事を求める人もいるはずだ。
こちらのウリとしては住み込み可能で食事は3食付き、そしてなにより温泉に入り放題という点だろう。従業員として働きつつも、温泉を楽しめておいしい料理が食べられるという点に惹かれてくる人も多少はいるとは思うんだけどなあ。
「一定以上の強さが具体的にどれくらいかわからないからな。まあ気長に数日は……」
ガラガラガラッ
数日は待とう、そう言おうとしたところで、引き戸が勢いよく開いた。
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