第4話 大浴場


「おお、これはすごい!」


 ウインドウを操作することによって、目の前の温泉のお湯の色が次々と移り変わっていく。


 実家の温泉宿を元にして宿の簡単な設計図を書いてから、クリエイトを使って温泉宿のフロアを次々と作っていった。


 予算の関係上、温泉宿に必要なものから順番に揃えていく。このクリエイトという能力はあとから新しいフロアを簡単に増設できるから便利な能力だ。


「くっくっく、しかも主役となる温泉の湯は様々なお湯に切り替えられるのか、最高じゃないか!」


 クリエイトで作ったこの大浴場フロアには温泉がある。フロントや他の客室をクリエイトした時に付属する装飾品はついてこなかったのだが、この大浴場に関しては大きな大理石でできた湯舟と蛇口とシャワーが付いていた。


 しかもちゃんと蛇口をひねれば水もお湯も出る仕組みになっている。そして何より素晴らしいのがこの温泉だ。なんとこの温泉は湯舟の湯をウインドウによって切り替えることができるようだ。


 一口に温泉と言っても、その泉質は様々なものがある。二酸化炭素泉、炭酸水素塩泉、硫黄泉、ラジウム泉などなど、それぞれの泉質で湯の色や匂いや効能などがそれぞれ異なる。


 この大浴場ひとつでいろいろな温泉を楽しめるとか最高すぎるだろ!


「女湯で高笑いしている男……完全に事案ですね」


「やかましい!」


 たまたま女湯のほうだっただけだし! てか天界にも事案とかあんのな!


 どうやら天界も平和で安全な世界というわけではないらしい。


「しかもこの温泉には治癒効果や魔力回復効果があるとか、いろいろとすごいな」


「魔力の回復には多少の時間が必要ですからね。魔力を使い切った者達に喜ばれることは間違いないでしょう」


「ふむふむ。ただ温泉が素晴らしいというだけじゃなくて、そっちのほうもこの温泉宿の売りにできそうだな」


 それがどのくらいすごいことなのか俺にはわからないが、この温泉にも付加価値がつけられそうならなによりだな。


 そしてありがたいことに自動でお湯は供給されるうえに、浴槽の清掃もいらないそうだ。


 実際のところ大浴場の清掃ってかなり大変なんだよ。少しでも放っておくとすぐにカビが発生するし、排水溝とかのぬめりを取ったり、髪の毛を捨てたりと地味に面倒な作業をしなくてすむのは本当に助かる。


「あの駄女神にしてはいい仕事をしてくれるな。特にこのお湯を切り替えたり、自動で清掃してくれる機能とか素晴らしいよ!」


「そのあたりを調整したのは私達天使ですね。お湯を切り替えるのは結構複雑な仕組みなので、この短い期間にしてはよくできたと思います。私達もサービス残業をして頑張ったかいがあります」


「本当にありがとうございます!」


 あの駄女神マジで仕事しろよな!


 あと天界にもサービス残業ってあるのね……天界なのに思ったよりもブラックでびっくりだわ……


「とりあえず温泉宿としての最低限の施設は確保できたかな」


 理想を言えば大浴場に追加で露天風呂や他の浴室なんかもほしいところだが、それを作るにはポイントが足りない。少しずつ追加で施設を増やしていくとしよう。


「おっと、もうこんな時間か。今日はここまでにしておこう」


 ポイントで購入した時計を見ると、すでに17時を回っている。温泉宿を作るのに夢中すぎて、休憩も取らずにひたすら作業をしていた。


 自分の理想の温泉宿を自分で考えて作るなんて楽しくてしょうがなかったから、ついつい時間が経つのを忘れてしまったようだ。


「それでは今日の仕事はここまででよろしいですね」


「うん。ポエルも休みなく働かせてごめんね。明日からはちゃんと休憩時間も決められた時間に取るようにするから」


「いえ、これくらいでしたら大丈夫ですよ。それに本日からはしっかりと残業代も出るのでお気になさらず」


「あっ、そうなんだ……」


 今日からはちゃんと残業代も出るらしい。とはいえ、明日からは就業時間にも気を付けないといけないな。


「それでは今日はこれで失礼しますね」


「あっ、ちょっと待って。残業代が出るなら、今日だけはもう少し付き合ってくれない?」


「はい?」




「さてと、気合を入れて作るとしますかね!」


 ここは温泉宿の厨房だ。うちの温泉宿の厨房を元にクリエイトで作ったが、今後のことを考えて少し広めに作ってある。


 最低限の調理道具もすでにストアで購入済みだ。


「せっかくならポエルにも温泉宿の良さを分かってもらいたいからな」


 ポエルにはもう少しだけ残ってもらって、今日できたばかりの温泉宿を実際にその身で体験してもらうことになった。


 実際に試してみて、その感想を聞かせてほしいという名目だが、単純に温泉宿の魅力を味わってほしいと思っているだけだ。せっかくここで働いてもらうのなら、温泉に入る気持ちよさと、食事の楽しさの両方を知っていてもらわないとな。


 ポエルは今温泉に入っているので、その間に俺は晩ご飯を作る。板前さんに何かあった時のために、俺は調理師免許を取っている。一応温泉宿の息子として接客から料理まで一通りのことはできるように学んできた経験が役に立ちそうだ。


 さて、何を作ろうかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る