第3話 不機嫌な理由
「さて、予算の上限が決まっているのなら、まずは温泉宿に必須のものから考えていかないとな。とりあえず今必要なものはと……」
ストアの能力により現れたウインドウを操作して必要なものを探していく。
「……よし、まずはこれとこれだな。購入っと」
ウインドウの購入ボタンを押すと、俺の購入した商品であるソファとテーブルは俺が思った場所に現れた。どうやらストアで購入した時には俺の思った通りの場所に配置されるようだ。
「初めからこんなに高級そうなものを購入してもよろしかったのですか?」
ポエルは俺が購入したソファとテーブルに対して疑問を持ったようだ。
「ああ。温泉宿やホテルのフロントはその宿に入って最初に目に入る場所になる。多少高価でもフロントにはできるだけ見栄えのいい物を置いておきたいんだ」
「なるほど」
温泉宿やホテルの外見やフロントはいわゆるその宿の顔だ。うちの温泉宿もフロントについては力を入れてきたつもりだ。
30万ポイント近くを使ってこの温泉宿の雰囲気に合うソファふたつとテーブルをひとつ購入した。それと合わせて100ポイントずつを使ってノートとペンを購入する。
ポエルとテーブルを挟んでソファに座った。さて、これから温泉宿の設計をするわけだが、その前にいろいろと確認したいことがある。
「ポエル、いくつか聞きたいことがあるんだ」
「はい、何でしょう?」
ポエルにこの異世界の文明レベルや存在する種族の情報、通貨、ポイントを増やす方法などといった必要な情報を確認していく。異世界のお客さんを相手にし、温泉宿をこの世界に広げていくとしたら、いろいろと考えていかなきゃならないことも多いからな。
「これでだいたい聞きたい情報は聞けたかな。そうだ、もうひとつ聞きたいんだけど、俺の補佐ってことは基本的にこの宿の従業員として働いてくれるってことでいいんだよね?」
「はい、そうなりますね」
「ふむふむ。ということは従業員1名は確保できているわけだな。給料とかってどうすればいいの?」
「不要です。私の給料は天界からいただいているので、ヒトヨシ様が支払う必要はありません」
どうやらポエルの給料をこちらで支払う必要はないらしい。つまりは無給で働く従業員をひとり手に入れたことになる。はっきり言ってこれはかなりデカい。
人件費というものは温泉宿を運営していく上で、どうしてもかなりの部分を占めているからな。……いや、もちろん無給だからと言って、そこまで働かすつもりはないよ。うちの温泉宿はホワイトな職場を目指しているからな。
……あと天界にも給料とかあるのね。時間のある時に天界がどんな世界なのか聞いてみたいところだ。
「それじゃあこれからポエルにはいろいろとお世話になるね。よろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします。はあ……」
「………………」
またもやため息である。ポエルはずっと無表情だから感情が読みにくいんだよな。だけど接客をしてもらうのなら、お客様の前でため息などは論外である。
不機嫌っぽいのはたぶんここで働くことになったからだろうなあ……
「やっぱりいきなりこんな場所で働くことになって、あんまり気乗りしない感じ?」
「それはそうですよ!」
「うおっ!?」
ポエルがいきなり俺のほうに詰め寄ってきた。ってか顔が近い!
「私はこれでも天界ではかなり上の立場にいたんですよ! それなのにこんな訳の分からない仕事を押し付けられて! いつもいつもあの駄女神は何も考えずに好き勝手に動いて……少しは現場の天使の身にもなれってんですよ!」
「な、なるほど……」
どうやらだいぶあの幼女の駄女神に不満がたまっていたらしい。美人が無表情なまま怒っていると、なんだか一層怖いんだけど……
「現場は忙しいのに、あの駄女神は別の世界のアニメとか漫画とかいうものにハマって全然仕事をしないし、今回も思いつきで別の世界の温泉宿とかいうものを作るとか言い出したくせに、なにからなにまで全部丸投げですよ! いつか絶対に訴えてやりますからね!」
あの駄女神、マジでアニメにハマってんのかよ……
アニメや漫画好きの俺としては、一度見始めたら止まらない気持ちも分からなくはないが、仕事はちゃんとやってから見ろよな。
「天界のほうもいろいろと大変なんだな……」
「……失礼しました。不満があるのはあの駄女神に対してだけなので、ヒトヨシ様に思うところはございません。仕事のほうはきちんとやりますので、ご安心ください」
とりあえず俺に不満があるというわけではないらしいので、少しほっとした。人間は誰でも愚痴を言いたくなる時はあるよな。
……まあ人間じゃなくて天使なんだけど。天使の仕事もいろいろと大変らしい。
「ちなみにポエル自身は温泉宿に泊まったことはあるの?」
「いえ、ありません。そもそも天界では水浴びをする必要はありませんからね。それに天界の者は食事もする必要はないのです」
「なるほど。食事は味を感じないってわけじゃないんだよね?」
「はい、味覚はありますよ。ですが食事を取る必要がないので、お祝いでもない限り食事はしませんね」
う~ん、風呂に入る必要も、食事を取る必要もないのか。確かにそれなら温泉宿にまったく興味がわかず、いきなりこの仕事を手伝えと言われたことに対して不満を感じるのはしょうがないか。
よし、まずはポエルに温泉宿の良さを分からせてやるとしよう!
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