第2話 銀髪の天使


「……あれっ、ここは?」


「ようやくお目覚めですか?」


「うおっ!? 誰だ!」


 目が覚めて飛び起きると、そこにはとても綺麗な女性がいた。もちろん膝枕みたいなことをされているわけではなく、気が付いて身体を起こしたら後ろから声をかけられたのだ。


 キラキラと光り輝く銀色の髪は後ろでひとつにまとめられ、宝石のように透き通ったエメラルドグリーン色の瞳と整った顔立ちをしている。そして白いフリルの付いた黒色のシンプルな、いわゆるクラシカルメイド服を着た女性が俺の目の前に立っていた。


 ……というかなぜにメイド服?


「初めまして、ポエルと申します。この度はヒトヨシ様の補佐を務めさせていただくことになりましたので、よろしくお願いします。はあ……」


「………………」


 なんか初対面でいきなりため息をつかれたんだが……


 それになんとなくだが不機嫌そうな表情をしている。そういえばさっき神様が部下を送るとか言っていたな。


 それはそうと次にあの神様に会ったら一言物申したい。人の大事な人生をアニメのリアタイと同列に語らんでほしい……


「あなたが神様の言っていた部下の方でしょうか?」


「はい。普段は天界のほうで働いておりますが、当分の間はヒトヨシ様の仕事の補佐をするようあの駄女神から申し付けられました」


「………………なるほど。草津人吉くさつひとよしと申します。どうぞよろしくお願いします。」


 初対面でため息をつかれたし、一応は上司である神様を駄女神扱いしたぞ、この人。まあ駄女神については完全に同意するが……


 それに挨拶の時も自己紹介の時も、まったくといいほど無表情であった。頭に輪っかや背中に羽はないが、普段天界で働いているということは天使ということになるのだろう。


「ボエルさん、それでここはどこなんでしょうか?」


 だが今は目の前にいるポエルさんのことよりもこの空間のことが気になっている。


 今俺とポエルさんは真っ白い空間の中にいる。左右も上下も一面真っ白で、遠近感がバグってきそうだ。異世界に来たわけじゃなかったのか?


「私に対して敬語は不要ですよ。名前も呼び捨てでお願いします」


「あっ、はい」


 確かにポエルさんは若くて俺よりも年下っぽいけれど、基本は実家の宿の手伝いでずっと敬語だったからつい敬語を使ってしまった。初対面の女性を呼び捨てで呼ぶのは少しためらいがあるな。


「ここはヒトヨシ様の温泉宿を作る空間になります」


「えっ、こんな場所に温泉宿を作るの!?」


 異世界に温泉宿を作ると聞いたら、どこかの街の中か街と街を繋ぐ道に温泉宿を建てるのだと思っていた。


「それではヒトヨシ様、まずは温泉宿の入り口となるフロアを想像して創造クリエイトと唱えてください」


 温泉宿の入り口……ってことは宿に入ってすぐのフロントってことだよな。まあうちの宿のフロントを想像すればいいか。


「……創造クリエイト!」


 ポエルに言われたとおりに唱えると、いきなり周囲が俺の宿のフロントへと切り替わっていった。


「おおっ!」


「これがヒトヨシ様に与えられたひとつ目の能力であるクリエイトです。大きさには限りがありますが、ヒトヨシ様が考えたフロアを自由に創造することができます」


「マジ!?」


 この能力があれば、大工に建物を建ててもらう必要もない。それにこんな一瞬で部屋を構築できるなんてすごすぎる。


「ですが基本的にクリエイトで作れるものは部屋の内装のみとなっており、装飾品や付属する物までは作れません」


「なるほど」


 確かに俺はフロントを想像した時に、フロントに飾ってある花やお客さん達が待つためのソファやテーブルなども想像していたが、それらは創造されておらず、本当にただ寂しいフロアになってしまっている。


「今度は商店ストアと唱えてみてください」


商店ストア! おおっ、なにか出てきた!」


 俺がストアと唱えると、目の前に半透明のウインドウが現れた。そしてそこには元の世界で見慣れていた家具やら雑貨などが表示されており、タッチパネルのように操作をすることができた。


「それがヒトヨシ様のふたつ目の能力となるストアです。今出ているはずの半透明のウインドウはヒトヨシ様しか見えません。ストアではヒトヨシ様の世界にあるものが購入できるようになっております」


「なるほど。元の世界の物を購入できるのは助かるな」


 ざっと見たところ、このストアの能力は様々なものが購入できる。家具やホームセンターで売っているような物、衣服や雑貨に食料品まで様々な物が購入できるようだ。当然温泉宿に設置するものも多くある。


「購入するのはこのポイントってやつを消費するわけだね」


「はい、理解が早くて助かります」


 ウインドウの商品にはそれぞれ何ポイントといった数字記載されており、ウインドウ右下には残高1400万ポイントという数字が表示されている。基本的な商品の値段はアバウトに1ポイント1円換算で問題なさそうだ。


「最初が1400万ポイントと半端なのはどうして?」


「先ほどこのフロアをクリエイトしたからですね。新しいフロアをクリエイトすると一律100万ポイントを消費するようです」


「なるほど。それならこのフロントを作る時にもう少しちゃんと考えておけばよかったかなあ……」


「一度作ったフロアは半分の50万ポイントで作り直したり消去することが可能となっております」


「ふむふむ」


 なるほど、一度作ったフロアの作り直しや消去も可能なわけか。元が1500万円だが、1フロアをたった100万円で作れるのならこれだけあればなんとかなりそうかな。


「というかこれ、どう考えてもシミュレーションゲームなんだけれど……温泉宿を作るなら予算とか気にせずに最高の温泉宿を作らせてくれればいいんじゃない?」


 予算も決まっているとか完全に元の世界のゲームをやっているみたいだ。温泉宿を作れと言うのなら、予算なんて関係なく作らせてくれればいいのに。


「それにつきましては駄女神から伝言があります。『人は少しずつ苦労して自分の力で作り上げていくからこそ、より良いものを作ることができるんだよ。考えたり悩んだり試行錯誤して、その先に失敗を重ねることによって成長していく。人吉くん、そうは思わないかい?』」


「うぐっ……」


 くそ、駄女神だと思っていたら、ものすごくまともなことを言いやがって。確かに人は考えて失敗を重ねて成長するものだ。いきなり完璧なものや解答を与えられては成長できない。


 くやしいが、神様の言っていることのほうが正論だ。よし、わかった。限られた予算の中で最高の温泉宿を作ってやるぜ!


「……なんて偉そうなことを言っておりますが、単純に天界から予算が下りなかっただけだと推察します。あの駄女神はしょっちゅう無駄遣いをしているので、そう高額な予算なんて下りませんから」


「………………」


 やはり駄女神は駄女神だったようだ……


 そして天界にも予算とかがあるらしい……

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