第10話
移動要塞ネクロドゥーム、グアンザを首領とするグアンザ軍が第14次元からエネルギーを奪取するための臨時基地であり、次元神などから見つからないようにするため亜空間にその身を潜ませている。
そのネクロドゥームの内部にある一室、その中にあるコンピューターを一人の女が四苦八苦しながら操作していた。
彼女の体からは鋭利な爪や大きな尻尾、頭から突き出る角にギザギザとしたキバ、瞳孔が縦に裂けているのに加え、所々に鱗が散りばめられており人間らしからぬ特徴を備えていた。
「このスパイビートル?とか言う機械仕掛けの虫使って地道に探すのってホント神経すり減らすわ!何でグアンザはこんなみみっちい役目を私に回しやがるのよ!ああイライラする!」
女がリモートコントロールで操っているのはスパイビートルと言い、第14次元に潜入させ新たなエネルギー源を探し出すための小さな虫型ロボットだ。
スパイビートルの操作をしていると懐に入っている通信機からアラームが鳴り響き、取り出し目を向ける。それはグアンザからの着信であった
『ファフニル、こちらグアンザだ。直ちに吾輩の元へ来るのだ』
要件を伝えたグアンザは一方的に通信を切断した。
「全く何だってんのよ!私がエネルギーを探してやってるって時にあの野郎は世間話でもしようっての!?」
嫌々とした表情を浮かべながらファフニルはグアンザがいる部屋に歩いていった。
扉を開け部屋全体を見渡す。
そしてその部屋の中心部にある玉座に腰掛ける少年のような風貌の男、グアンザ。
ファフニルはその男から醸し出される邪悪なオーラに目を細める。
「よく来たなファフニル、待っていたぞ我が忠実なる魔王よ」
「言った筈よ、私はお前と手を組んだだけで部下になったつもりなんて無いとね」
グアンザとファフニル、視線を交差する二人の間には仲間意識と言った絆はまるで無かった。
「貴様が地に足をつけられるのは誰のおかげだね?吾輩は勇者によって倒された可哀想な貴様を生き返らせ、膨大な魔力を与えてやった。しかし貴様の方はまだ約束を果たしてはいない」
グアンザのその言葉を聞いたファフニルはムっとなるが、すぐに冷静な表情に戻る。
ファフニルはかつてはこの世界の魔王として君臨し、魔王軍を率いて世界征服を目論んでいた。
だがあらゆる悪党の例に漏れず彼女はこの世界の勇者によって志半ばで討ち倒されたのだ。
しかし幸運と言うべきか、異次元からやって来たグアンザの超魔力によって彼女は強化蘇生され、見返り代わりとして手を組んでいると言う訳だ。
「ディストワールド‥‥次元神どもで言えば第666次元に残った吾輩の軍団は、この次元へ突入し攻め込む時を待ちわびている。そして何より必要なのは蛆の生えた神々との戦いで失ってしまった肉体の復活だ。そのためにこの次元にあるエネルギーを奪い取る必要があるのだ」
「知ってる、前も聞いたことよ」
魔力を与えられた後、配下として迎え入れられた時にも同じ話を聞かされファフニルはうんざりとした顔になる。
「吾輩の肉体が復活すれば、こんな小さな星の一つや二つ一瞬で滅せるのだ。この世で吾輩に敵う者などいない。それが例え次元神であってもだ」
「私を含めてね、だから私はお前を簡単に信用しないのよ」
「貴様が自ら吾輩を裏切らない限り、吾輩も貴様を裏切らない。エネルギーを集めるためには人手は多いに越したことは無いのだからな」
グアンザの物言いにファフニルがピクッと反応し、鋭い視線で睨みつける。
「私はお前の言うことを聞く義理はあっても義務は無いのよ」
「吾輩の軍を抜けたいと言うのなら好きにするがいい、だが今この次元には吾輩を追って次元パトロールどもが彷徨いている。貴様が悪事を働けばきっと見逃さないだろう、そいつらをたった一人で相手にすることが出来るか? 」
「チッ」
ファフニルは心底気に食わなそうに舌打ちをする。ファフニルは確かに破格の強さを持っている。もともと魔王として高い実力を持っていたファフニルはグアンザの魔力を与えられ、より強い力を自分の物として敵などいないほどに力が増した。
だがそれはあくまでこの世界での話。
次元の均衡と秩序を守る次元神と異次元から来た未知の戦士たちを一人で迎え撃つのは無謀と言ってもいいだろう。
「で、私を何のために呼び出したのよ?」
「早速だが貴様にも新たにエネルギーを収集して来てもらうぞ」
そう言うと懐から杖を取り出し、ファフニル目掛けて投げ渡す。ファフニルはキャッチした杖をまじまじと見る
「それは『テイムケイン』、それを使えばモンスターや魔物を制御下に置けるという代物だ」
「知性の欠片も無い獣を支配してどうすんのよ?目的はエネルギーの回収でしょ?」
「最後まで聞け。テイムケインは魔物を支配し、更にその魔物の生命力を奪う機能もある。つまりエネルギーを蓄積する効果があるということだ」
「成る程、つまりこの妙な杖を使って魔物どもからエネルギーを集めてくればいいって訳、私にかかればそんなの朝飯前どころか昨日の夜飯前よ」
「そして貴様には2人の部下をプレゼントしてやろう。出てこい!」
グアンザが指を鳴らすと部屋の奥から2体の人影が現れる。片方は猪に似た顔を持ち武器を構えた筋骨隆々な、力自慢であろう男。もう片方は頭が竜のような形で肌が鱗で包まれており、手足からは鋭い爪が生えていた。
「サングベク、そしてドラーグスだ。コイツらと共にエネルギーの収集へ向かえ」
ファフニルはサングベクとドラーグスを一瞥する。佇まいから分かる限り、そこらの魔物などなら軽くひねれる程度の戦闘能力は持っているだろうと予想出来る。
「ついに、私が指揮官としての機能を発揮する時が来たようだ!サングベク、ドラーグス!グズグズせずにさあ行くよ!」
「了解しましたファフニルの姉御!」
「フフフ、よろしくお願いしますよ」
ビシっと敬礼の姿勢を見せ返事をするサングベクと会釈をするドラーグス。自分に忠誠を見せる2体の姿に気を良くするファフニルはグアンザに渡された転送装置を使い地上へ向かおうとする。
「あ、それともう一つ。操ったモンスターを嗾けてこの魔帝王グアンザをやっつけようなんて思わないことだ」
グアンザの言葉を聞いたファフニルが思わずギクッ!と反応し振り返る。
振り返り視界に映ったグアンザの手には自分に渡した杖よりも豪華な装飾が施された杖が握られていた。
「見ろ、吾輩もテイムケインを持っているのだ。貴様に渡したのよりずっと強力な奴をな」
もしファフニルが操ったモンスターをここに連れて来てグアンザを襲わせても逆に支配下に置かれてしまい、返り討ちに遭ってしまう結果になる。
「貴様の考えは分かっておるぞ?吾輩を倒して頂点に君臨するつもりだ。だがそうはいかんぞ小娘」
思わず息が詰まる。しかしグアンザはファフニルのそんな態度に対してどこか含みのある笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「これは子供をお使いに行かせるのとはワケが違うのだ。星一つすら満足に支配できない貴様などに我が軍のリーダーが務まるものか」
どこまでも見透かすようなグアンザの言葉に、ファフニルは顔をしかめて唇を噛んだ。
「あぁ、畜生‥‥!」
ファフニルの悪企みは始まる前から破綻してしまったのだ。しぶしぶとファフニルは転送装置を使い任務へと向かい、サングベクとドラーグスも追うように転移して行った。
◆
第14次元の地球、その中でも数多くのモンスターが生息する山々にファフニル、そしてサングベクとドラーグスが来ていた。山の景色を一瞥しながらテイムケインを握ったファフニルが呟く。
「私は必ず王になってみせるわ。この世界の帝王にね」
「ファフニルさん。私たちのボスグアンザ様は絶大な権力の持ち主。あの方に取って変わることなんか不可能ですよ?」
「いやこの世に不可能なんてありはしないわ。誰にだって弱点の一つや二つは必ずあるものよ!そこを突く!」
「でもグアンザ様は違いますよ?」
「まぁいいわ。さっさとここら一帯のエネルギーを回収してグアンザに私の凄さを分からせてやろうじゃないのよ」
言い終わったファフニルが魔物たちが蔓延る巣窟へと足を進める。
こうしてこの次元で暮らす者たちに知られることが無いまま、秘密裏に行われようとしていた。果たしてエリーゼたちが立ちはだかるのはいつになるか、まだ分からない。
◆
「三人とも集まったわね」
ナル美ハウス。
ダスパーダとの戦いから暫く経ってから、ついにと言うべきかグアンザ軍の動きがあったのだ。
エリーゼが立つ隣の空間に映像が浮かんでおり、立ち並ぶ山々映されている。
前に座る三人へ映像を用いながら今回の任務について説明をする。
「この山の上空に次元の歪み、グアンザ軍がこの次元に侵入した形跡があったわ。皆には私と一緒に現場に赴いてもらって、グアンザ軍のエネルギー強奪を阻止してもらいたいわ。ただ、前のダスパーダのように強力な敵がいるでしょうから十分に注意してね」
いつも以上の真面目な雰囲気を醸し出すエリーゼを尻目に、三匹は荷物を弄りながら言い合いをしていた。
「ノーベル翔ォォォォォォォォ!!」
「何だてめぇコノヤロォォォォォォォォ!!」
憤怒の形相で叫びをあげるオコワがノーベル翔に突っかかる。
「てめぇそれ三百円軽くオーバーしてるじゃねえか!!お菓子は三百円までって言ったろうがド畜生!!」
「断る!そんなケチくさい値段で俺様が満足する訳ねえだろ!せめて5億円にしろ!!それにお前だって水筒にオレンジジュース入れてたじゃねえか!水かお茶以外は禁止やろがい!!」
「パセリっておやつに入るだわよ?」
「アレはただ色がついて味があるだけの水なんだよ!!ナル美の親戚みたいなもんだ!はい論破!論破を超越した何か!!」
「ねえ!パセリっておやつに入るだわよ!?」
「遠足気分か!早く行くわよ!」
なんやかんやでグアンザ軍のエネルギー強奪を阻止するべく、エリーゼたちは行動を開始したのだった。
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