第9話

 前回のあらすじ


 オコワはグアンザ軍一番隊隊長ダスパーダを撃破した。


 ノーベル翔とナル美と言う尊い犠牲と引き換えに‥‥。


 ありがとうノーベル翔、さようならナル美、君たちの勇姿は忘れない。


 5分ぐらい。


「死んでねえッ!!俺たち死んでねえぞ!?」


「勝手に殺すんじゃねえだわよ!!」






 ダスパーダを討伐したオコワたち、エリーゼから賞賛の言葉を貰っていた。


「貴方達の力も予想を大きく上回っていたし、これなら戦闘面の心配は無さそうね」


「ねえアタシの大活躍見ただわよ!?アタシこそが最強だわよ!アタシがいたから勝てたようなものだわよ!」


「はぁ〜?ふざけんなよ、俺様がいなきゃダスパーダと戦えたもんか。戦えたのは俺様の力だ!俺がいなきゃお前ら今頃ミンチだぜ?」


「寝言ほざくんじゃねえだわよ!」


 エリーゼたちがこの次元に来た目的は、次元を超えて侵略行為をするグアンザ軍からこの次元を守護すること。

 だがこの先にはまだまだ人知の及ぶ範囲を超えた強者たちが襲いかかってくるだろう。


「グアンザ軍にはダスパーダ以外にも常軌を逸した超パワーを持った強豪たちが存在する。きっとこれからもその刺客たちがこの次元に襲いかかってくるわ」


「そりゃぁおっかねえもんだな〜」


「それに注意するべきなのはグアンザ軍だけじゃないからね」


 エリーゼの言葉にオコワたちは首を傾げる。彼らの疑問に答えるようエリーゼは説明を続ける。


「グアンザはこの世界に蔓延る暴徒たちも自分の配下にして、戦力に加えているのよ」


「オコワちゃんたちはそいつらも相手にしていかなきゃいけないわけか」


「ええ、ここから先はますます戦いも激化していくことは間違い無いわ‥‥」


 あらゆる願いを叶えることができる究極の神器エレメンジェムの奇跡によって喚びだされたため、召喚されるに値する資格は持っている。

 しかしエリーゼはまだまだオコワたちと付き合いも短いため知らないことが多く判断材料も乏しい。

 そんなエリーゼの心内を察したのかオコワがニッと笑いかける。


「心配するな、エリぴっぴ。グアンザが闇の大魔王だろうが外宇宙の邪神だろうが元グリーンベレーの刺客を送り込んで来ようが全員ぶちのめしてこの次元の未来を救ってやる!お前らもそうだろ!」


「おう決まってんじゃねえか!」


「だわよー!」


 改めて二体の決意が籠った返事を聞くとオコワは身を乗り出し高らかに声を張り上げる。


「戦って笑ったり泣いたり怒ったり!生きたり死んだり爆発したり体が消し飛んだりそこのいたりすればいい!!いや、むしろそこのけェーーー!!」


「リーダーの言う通りだ!そこのいて行こうぜ!!」


「ヒャッハー!そこのけそこのけぇ!!」


「そこのけって何‥‥」


 エリーゼが呆れたような視線で三人を見るのを尻目に、オコワたちは馬鹿騒ぎしまくる。ハイテンションから一転、オコワは真面目な顔で口を開いた。


「エリぴっぴの言った通り、これからグアンザ軍との戦いはより一層激しくなっていくだろう‥‥そこで俺ちゃんたちの拠点を作ろうと思う!」


「拠点?」


「ついて来な」


 オコワはそれだけ言って歩き出した。その背中を追うようにエリーゼ達はオコワについていく。

 しばらく歩き続けオコワが立ち止まったのは十分な広さがある草原であった。そこは人の気配がまるで無く、疑問に思ったエリーゼはオコワに問う。


「オコワ?貴方の言う拠点ってどこにあるの?」


 オコワはナル美の隣に近づいていき合図をする。


「頼むぞナル美」


「オッケーだわよ!スラモルフォーゼェ!!」


 掛け声と共に両手を広げたナル美が眩しい光に包まれる


「うわ!なに!?」


 光が収まると、かつてナル美が立っていた場所には、オコワたちが見上げるほど巨大化したナル美が顕現していた。


「巨大化したーーーー!?!?」


 ただ巨大化した訳ではない、よく観察して見ると目の所は窓になっていて口の部分は入り口の扉になっている。


「コイツがオコワちゃんたちの拠点、ナル美ハウスだ」


「ナル美って家だったの!!?」


「ちなみにィ、宿泊料はたったの2億円だぜェ〜?」


「無駄に高いわね!?!」


 アンファンス街東エリア、今年の冬ぐらいに建設予定!最高の安らぎをあなたに‥‥


「(す、住みたくねええええええ‥‥しかも何か垂れてるし‥‥)」


 妙な広告が自分の頭の中に流れ、エリーゼは心の中で呆れて文句を言った。エリーゼが注意深くみてみると開いている入り口の上方からは変な液体がボタボタと垂れている。

 入り口の場所が場所なせいでナル美のよだれにしか見えなかった。


 だがそんなエリーゼの心中を知ろうとせず、オコワとノーベル翔は初めての異世界で疲れた体を休めるべくナル美ハウスへ入っていく。


「あら皆おかえりなさ〜い!ココア淹れてあるだわよ〜」


 扉を開けるとナル美。ハウスに変身した筈のナル美がいた。


「「わーいココア大好きー」」


「ナル美の中にナル美がいる!!?」


 家に変身した筈のナル美の中で、オカンな格好のナル美がココア両手に出迎えたことにエリーゼはまたまた驚きの声をあげる。子供のようにはしゃぐオコワとノーベル翔がナル美からココアを貰いそれを一気飲みした。エリーゼがまだココアを貰っていないことに気づいたオコワはエリーゼに話しかけた


「どうしたエリぴっぴ?お前も早く入れよ、神だってココア好きだろ?」


「いや、私はいいや‥‥」


「遠慮せずに入れよォ〜、ちょっと変な臭いするけど中々快適だぜェ〜〜〜?」


「変な臭いがする時点で入りたくないわよ!!」


 よくよく嗅いでみると妙な生臭さが室内に蔓延しており、ノーベル翔に勧められるがエリーゼは嫌悪感を剥き出しにした。自分の意見をはっきり言うとオコワが口を尖らせる。


「なんだよ〜この家のどこが不満だって言うんだよ〜」


「隅から隅まで漏れなく不満よ、食べられそうだし‥‥ていうかコレ家じゃなくてナマモノじゃない‥‥」


「じゃあアッチの家はどうだ?」


 そう言ってオコワが指差す先にはナル美ハウスと全く異なる平凡な住居がある。さっきまで無かった筈の物体があることにはエリーゼはもう突っ込まない。

 オコワらバーカーサーの周りでは神が言うのもなんだが一般常識など通じないからだ。


「何だ、ちゃんと普通の家があるじゃない」


 エリーゼの視線の先にはアンファンスで頻繁に見かけたような昔ながらの木造建築の家があった。

 ナル美ハウスよりはまともな家に歓喜しながら駆けて行きエリーゼは扉を開く。だがその安心感はすぐ裏切られることになる。


「さぁ、ジョニー、カルロス、たくさん食べて美味しいチキンになるんだぞー」


「ニワトリがニワトリに餌あげてるううううう!!?」


 開いた家の中では二足歩行のニワトリが普通のニワトリ達を養鶏していた。


「おおっ、嬢ちゃん、君もニワトリに餌あげてみるか?」


 ニワトリの餌やりの誘いをシカトしたエリーゼはバタンと扉を勢いよく閉めると、何を思ったのか養鶏場目掛けて光線をぶっ放し、木っ端微塵に消しとばした。


「うわあああ!!オコワちゃんが苦労して作った養鶏場がああああああ!!これじゃ卵かけご飯が食べれないよォォォォ!!」


「おーサッパリした」


 オコワの悲痛の叫びなどエリーゼは知った事ではない、家を焼いたエリーゼは何だかスカっとした気分になった。オコワ曰く、その時のエリーゼの笑顔は邪悪そのものだったという。


「頼むから真面目にやって!このままじゃ私の中枢回路がぶっ壊れるわ!!」


「分かった分かった、いいよいいよ真面目にやりゃいいんだろ?」


 ふざけるのをやめるようにエリーゼが促すと、面倒くさそうにオコワが耳をほしりながら返答した。するとオコワがナル美ハウスの中で寛いでいるナル美とノーベル翔を呼びかける。


「おーい!2人とも!ナル美ハウスをリフォームするぞ!お前も手伝え!」


「おォ!分かったぜェーーー!!」


「今から!?」


 大工さんになったオコワとノーベル翔、ナル美がエリーゼの疑問をそっちのけにして、ナル美ハウスのリフォームを始めた。


「よっしゃ!突貫作業だ気合い入れっぞ!ノーベル翔、ナル美!道具を持ってこい!」


「ホラよォ!トンカチと釘だぜェ!」


 そう言ってノーベル翔はオコワにネギときゅうりをオコワに渡す。


「これで準備万端だ!まずは釘を打ちつけてっと」


 ネギを刺し、乱暴にきゅうりでガンガン叩きまくる。ネギを深く打ち込んだ場所から変な色の水が噴出され、オコワ達に降りかかった。


「ぎゃああああ!!打ったトコから胃液が出てきたー!」


「汚ええええええええ!!青天の霹靂!!」


「溶ける!溶けちゃうだわよおおーーーーーー!!」


「アホくさ‥‥」


 付き合いきれなくなったエリーゼは草原で野宿する事に決めた。そもそも次元神は睡眠の必要が無いのだが、この日は主に精神的な疲労のせいかぐっすり寝れたらしい。

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