第8話

 ナル美の爆発によりダスパーダは大ダメージを受けてしまった。ギャグキャラの爆発で満身創痍になってしまうとは、なんとまあ情けないのだろう。ご愁傷様です。


「ぐぅっ!あんな攻撃にこんな仕掛けがあっっとは‥‥!全くどこまでも腹の立つガキだ!」


「ぶー!ガキじゃありませーン!もうムチムチプリプリボインボインの乙女でーすゥ!ガキはちびっ子に使う表現でしたァー!」


「はいバカー!お前バカ決定ー!」


「ざまあ無いだわねザコ虫!もう諦めたらぁ?どうせアンタの負けなんだしぃ?」


 オコワの煽りにノーベル翔とナル美もすっげー馬鹿にした表情で便乗する。絶妙に相手を苛立たせる声のトーンと表情に、ダスパーダは青筋を立て拳を握りワナワナと震えさす。


「やかましい!もう油断はせん!このダスパーダ様の真の力を思い知らせてくれるぞ!!」


「上等だゲスパンダ!たかが中ボスマンが俺ちゃんには決して勝てない運命だって分からせてやるよォォ!」


「ダスパーダだ!二度と間違えるな!!」


 低次元な口喧嘩を終えたオコワはすぐさま次の攻撃へ転じた。


「お前らァ!遊びはここまでだァァ!本気と書いてマジで行くぜェ!!バーカーサーアタックゥゥゥゥ!!!」


「「おぉおおおおおおおおおお!!」」


 ダスパーダを一気に倒すべくオコワ、ノーベル翔、ナル美が総攻撃を仕掛ける


「ナメるな!唸れえい!ドラグラムよ!!」


 怒号と同時に天に掲げられた魔剣から紅蓮の炎が吹き荒れる。その炎はまるで生きているかのように蠢き、オコワ達へ真っ直ぐに殺意を向けているようだ。

 大気が、そして大地が震える。

 

 これがダスパーダの最強の奥義‥‥


「炎竜激昂!ドラゴニックファイヤー!!」


「カボスッ!!」


 荒れ狂う爆炎が火竜を形作り死角から攻めようと背後から攻撃してきたノーベル翔を火竜が灼熱の体で薙ぎ払う。奇妙な断末魔と共に炎上するノーベル翔。


「「よもぎっ!!」」


 そして流れるように横から迫るナル美とオコワを同時に攻撃。2人は黒コゲになりながら吹っ飛ばされる

 掲げていた魔剣を下ろし火竜型の炎は空間に霧散していった。この世界では滅多に目に掛からないほど凄まじい魔法のパワーにエリーゼは戦慄する。


「痛快!痛快!まさか俺にドラゴニックファイヤーを出させるとはな‥‥その実力、褒め称えてやりたい所だ」


「な、何なのあのパワーは!?アレも魔剣によるものなの!?」


 エリーゼの戦慄しながらの推測に気を良くしたダスパーダは自分の武器を解説し始める。


「その通りだ!俺の火炎の魔力を魔剣によって更に威力をブーストさせた、この長い年月をかけて習得した究極の魔法は誰にも敗ることは出来ん!!フハハハハハハ!!!!」


 自慢げに己の武器を見せびらかすダスパーダ、高笑いしながら決まり手の一撃をくらわせようと魔剣に再び火炎の魔力を込める。


「所詮、下等な人間如きが俺に勝てるはずが無いのだあああ!!」


「(人間オコワしかいないけどね‥‥)」


 エリーゼは神であり、ノーベル翔とナル美に関しては謎の狂生物である。自分を含めた4人中3人が人間ではないがエリーゼはあえて口には出さなかった。だがオコワがダスパーダの前に立ち塞がり強く言い放つ。


「ならオコワちゃんが勝ってやるぜ!誰もが見ちまうくらい爆裂的にな!それはまさしくビッグバンの如く!!」


 闘志。荒ぶるように、確かな覚悟と決意が篭ったライスパワーがプレッシャーとしてオコワの体から放たれていた。


「キャハハハハ!アタシがやられるとかそんなワケあるかっつーのブァァァァァカ!!」


 それと同時に、爆炎に焼き払われたが復活したナル美がダスパーダを背後から襲う。


「くだらぬわ!!」


「おちゃずけぇっ!!!」


 だが不意打ちの強襲は失敗に終わった。

 ナル美が攻撃を繰り出そうとした直前、振り向きざまに放ったダスパーダの拳が先に当たり不発に終わってしまったのだ。

 ナル美の体は奇妙な悲鳴をあげながらバラバラに爆散し、ナル美だったものが地面の至る所に飛び散った。


「不意打ちのつもりだったようだが無駄だったな」


「‥‥‥‥」


 オコワは返答しないまま無言で構えを取る。

 その瞳は真っ直ぐにダスパーダを向いており、ナル美の不意打ちを破られ正面から挑む戦法に切り替えたのか。

 真っ向勝負で来ると言うのなら話は早い。

 叩き斬るべくダスパーダが魔剣を振り抜き、オコワに突貫する。


「今だ!ノーベル翔!」


「お客さまァァァァァ!地獄への片道切符の旅へご招待だァァァァァ!」


「なに!?ぐふっ!」


 大地を蹴ったダスパーダの視界が突然真っ暗になり、顔面に何やら毛もじゃな感触を感じた。足元の地面を掘り起こして現れたノーベル翔がダスパーダの頭部に張り付き、くっついたのだ。


 しかしただ視界を塞ぐだけが目的ではない。


「ぐわあああああああ!!!臭ええええええ!!何だこの臭いはあああああ!?」


「臭くて当たり前だ!ノーベル翔は何年も風呂に入ってねえんだ!!さっきも言ったろ!オコワちゃんは邪道で行かせてもらうってな!!」


 ノーベル翔の身体から放たれるあまりの悪臭に地面を転がりながら悶絶し、振りほどこうともがくがノーベル翔はガッチリと掴んでおり一向に離れようとしない。


「アイッ!キャンッ!フラァァァァァイッ!!」


 それを見ながらオコワは一気に上空に飛翔する。


「エリぴっぴ!お前も飛べ!!」


「えっ!?分かったわ!」


 オコワに促されエリーゼも彼を追うように飛翔する。


 エリーゼが地上から離れたのを確認するとオコワは悶絶するダスパーダを見下ろしながら両手にライスパワーを集約させる。


「ナル美の身体は可燃性なんだ!あいつの破片が散らばった場所に特大のエネルギー波をぶっ放せば絶対にアイツを倒せるぜ」


「連鎖爆発を起こそうってこと!?」


「そういうことだ!!」


 エリーゼがオコワの両手を見ると、強力なエネルギーが込められているのに気がついた。あの凝縮された凄まじいライスパワーを眼下に放ち、ナル美の肉片と共に爆発させたその威力でダスパーダを倒そうと言うのだ。


「ハァァァァァァ‥‥!」


 全身のライスパワーを集約させられたオコワの両手が眩く光っている。詠唱を行いライスパワーを制御、増幅させる。


「ダンベルは枕ではありません――」


「コンタクトを反対に入れると超痛い――」


「井の中のゴリラ、ジャングルを知らず――」


「されどバナナの美味さを知る――」


「レンジでチンしてオーブンでブン」


「何その変な詠唱!?」


 ヘンテコリンな詠唱が紡がれていく。まるで歌を詠じるが如く、ライスパワーも、詠唱も、そして、暴力的な力までも。

 その全てが具現化していく。


「行くぜェェェ!流派怒滅舞、必殺奥義!!」


 破壊力が、暴力が、ライスパワーが。それら全てを掻き混ぜた奔流が、大地で悶え苦しむ暗黒騎士に向かい、飛ぶ。


「あれ?でも今撃ったらノーベル翔とナル美まで巻き込まれるんじゃ‥‥」




「白米爆裂!ライスプロージョン!!!!」




 エリーゼの懸念の言葉など無視して、オコワが突き出した両腕から力を限界まで凝縮された極大のライスパワーが放たれた。


「お構い無しかぁああああああ!!」


 既にチャージを終えたオコワは迷う間もなく奥義を繰り出した。躊躇のなさに声を荒げるエリーゼを尻目に強力なライスパワーがダスパーダの元に着弾する。


「「「ぎゃあああああああ!!!!」」」


 三人分の悲鳴とともに、大地が閃光に包まれる。ライスプロージョンの爆発とナル美の肉塊の連鎖的な爆発による轟音と衝撃が響き渡る。


 爆発が起こったあと、その場には巨大なクレーターが出来上がっていた。


 そしてその場にはダスパーダの姿は影も形もなく消え去っていた。


「殺ったか?」


「オコワちゃん、それ次元によってはフラグって言うのよ?‥‥て言いたいところだけど気配も完全に消えてるからその心配も無さそうね」


 オコワが不穏な言葉を口にするがダスパーダは塵になってしまっている。完全に消え去ってしまえば折角のフラグも活かすことはできまい。

 つまりこれで決着はついた。グアンザ軍一番隊隊長ダスパーダとの戦いはオコワたちの完全勝利に終わったのだ。



グアンザ軍一番隊隊長ダスパーダ = 討伐完了



 戦いが終わったことを確認したオコワは地面に降りて誇らしげに言った。


「オコワちゃんの大勝利だな!クロマニョン人も祝福してくれてるぜ!ブラジルの人ー!聞こえますかー!!」


「わけが分からないわ‥‥でも本当に私の加護も恩恵も無しに倒しちゃうなんてすごいじゃない」


「へっへ〜。次も見せてやるぜ?オコワちゃんの中に眠るマッコウクジラをなぁ!」


 わけの分からないことを言っているが、気概は十分なようだ。オコワとエリーゼが勝利の余韻に浸る中、攻撃に巻き込まれた約2名が死にかけの状態で恨み言を言っていた


「「オコワ‥‥いつかぜってーぶっ殺す‥‥!!」」


「あ!忘れてた!スグに治癒するわね!」


 (ほぼオコワのせいで)瀕死になって倒れているノーベル翔とナル美を治療するため駆けて行った。


 だが安堵していた状況はすぐに切り替わることとなった。


『我が軍の隊長を討ち倒すとは中々やるではないか、異次元から来た戦士よ』


 ノーベル翔とナル美を治癒しようとしていると突然、虚空から声が響いた。

 それと同時に空中に壁へ映写機で投影されたような画面が現れ、映像が流れ始める。

オコワとエリーゼは画面に映る人影へ視線を向ける。


「なんだ!?あのチビ助は?てやんでい!」


 一人の少年がこちらを見据えていた。美しく煌めく髪を持ち、側から見れば人間の子供と変わらない。奇跡的なバランスで配置された美貌は歓喜の一言に満ちるだろう。

 外見は少年体型そのもの。童子と呼んで何ら間違いはなく年月が経てば絶世の美男に化けるだろうが、ただの幼子だ。

 しかし、何より異常なのは頭部から生えた二つの角だろう。その姿は見る者によっては悪魔と印象づけることだろう。映像越しでありながら今まで感じたことが無いほどの威圧感がその者から発せられており、オコワは警戒態勢に入っていた。

 エリーゼは正体を知っていたのか既に身構えているようだ。


「はじめましてだな異次元から来た戦士よ。吾輩のことはそこの次元神が知っている、吾輩の名はグアンザだ」


 映像に映る人物が自ら名乗った名を聞きオコワの目つきがますます険しくなる。名前だけ知っていた自分が倒すべき敵、グアンザが映像越しとは言え、自分の目の前にいるのだ


「吾輩の目的は実に単純でわかりやすいぞ?この次元にはまだまだ利用できるエネルギーが豊富に存在する、それを根こそぎ奪い取り、次元における我々の勢力をより広げるのだ!さすれば吾輩は、余は全次元の覇者だ!!」


「そりゃ良かったな!じゃ俺ちゃんがお前らをブッ潰すわ!このスカポン!」


「生意気な小僧だ、その薄っぺらな威勢がどこまで持つのか見ものだな。フハハハハハハ!!」


 オコワの宣戦布告を高笑い混じりに嘲るグアンザ、それを挑発と受け取ったオコワが取った行動は


「好き勝手ほざいてんじゃねーーーーー!!!」


 言いたい放題のグアンザが映る立体映像に向かってバズーカを発射した。


ドッカァァァァァン!!


『ぎゃあああああああああああ!!!』


「何で画面越しなのにダメージ入ってんの!?」


 バズーカが命中したグアンザは悲鳴をあげ、爆発の衝撃により映像は途切れた。

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