第6話
「んじゃ買ったアイテムはノーベル翔の中に入れておくぞ」
「ジジジーッ」
店で購入したアイテムを手に持ったオコワはノーベル翔の背中のファスナーを全開にして全て中へぶち込んだ。
「何でファスナーなんかついてんの!?」
生き物である筈のノーベル翔の体にファスナーがあることに声を荒げるエリーゼ。
ひょっとすると外側はただの着ぐるみか何かで「中身」に本体が隠れて潜んでいるのだろうか、と考えたがエリーゼは正体を迫るのはやめておいた。触れてはいけない部分だと直感で察したのだ。
そして4人はエリーゼが異世界で戦うことに慣れておこうという意見でスライムを五匹討伐すると言うクエストを受注し、街の外にいた。
「ヒャッハー!どいつもコイツも皆殺しだー!!」
「ナル美あなた以外とバイオレンスね、てっきり萌えキャラ的な立ち位置かと思ってたわ」
「可愛いだけだと後続に出番かっさらわれちゃうから!!今後の活躍にしておくだわよ!」
「おい、お前ら、アレを見ろ!」
喋っていたエリーゼとナル美へ不意に声を掛けられオコワが指を指す方向を見る。そこには水色のプルプルとした生物が草陰にいた。多くの次元世界でも最弱のモンスターとして有名な『スライム』だ。
「強敵だあああああああああ!!!!」
「強敵ちゃうわ!スライムだよ!この次元では弱めよ!!」
スライムを見て大声を上げるオコワ、目の前にいるスライムの詳細を知るエリーゼは反射的に突っ込まざるを得なかった。
「スライムをナメるなよ‥‥ある世界にはドラゴン10体を2秒で噛み殺すことが出来るスライムがいるってこの前お母ちゃんが言ってたんだ‥‥!」
「貴方のお母さん超嘘つきよ!!!!」
会ったこともない母親の悪口を言いたくはないがそう言わざるを得ない。そんなボケツッコミ合戦をしている中に割り込むようにナル美がエリーゼに掴みかかってきた。
「エリーゼてめぇスライムを雑魚扱いすんじゃねえ!腕切り落とすだわよ!!」
「実際そこまで強くないんだから仕方ないでしょ」
エリーゼは改めてナル美が持つ『スライムつよつよ思想』を否定した。それにショックを受けたナル美はノーベル翔に泣きついた。
「びえええええええん!ノーベルしょおおおおおお!!あのゲロビッチ酷いだわよおおおおお!!スライムは雑魚じゃないのにいいいいいい!!!」
「ナル美‥‥‥」
赤ん坊のように泣き叫ぶナル美の肩にノーベル翔は優しく手を乗せる。
「スライムは雑魚だ、お前が何と言おうとな‥‥」
めっちゃいい笑顔で言った、その言葉によりナル美の何かがキレた、確定的な何かが。
「びぃいええええええええええん!!!!!!」
「あ!ちょっとどこ行くのよナル美!」
雑魚呼ばわりされ、涙腺が耐えきれなくなったナル美は泣き叫びながらどこかへ走って行き近くに何故かあったタンスの中に閉じこもった。
「何でこんな所にタンス!?」
明らかに不自然な場所にタンスが立ってることにエリーゼは驚く。
「ナル美〜何も引き篭もることないでしょ、出てきて〜」
ナル美のしくしくめそめそと啜り泣く声がタンスの中から聞こえてくる。タンスから出させようとエリーゼがタンスの取っ手に手をかけると簡単に開いた。
「ナル美〜?いい加減に立ち直りなさいって」
「放っておいてだわよ‥‥どうせアタシなんか駄目スライムなんだわよ‥‥しくしく、めそめそ、おっぴろり〜ん‥‥」
「おっぴろり〜ん!?」
へんてこな泣き方をするナル美、エリーゼがどう言葉をかけても泣き止む気配が無いため、どうやらしばらくは放っておいてやった方がいいのかもしれない。
「はっ、へたれのナル美に代わって俺が先陣を切らせてもらうぜ!お前ら下がってな」
「油断しないでね?人間の子供でも倒せるぐらいの強さだけど一応モンスターだから」
完全に油断しきっているノーベル翔にエリーゼは注意喚起をするが、逆にノーベル翔がエリーゼに反論した。
「誰にもの言ってんだ?主人公の俺様に敗北なんかありえねえぜ。それに俺様にはとっておきがある」
「とっておき?」
とっておきと聞きエリーゼは首を傾げる。
「ノーベル翔!フルパワーフォーム!!」
叫ぶと共にノーベル翔が変わった。
ミキミキィッと音を立てながら筋肉が膨れ上がり、エリーゼが小さく見えるほどのビッグサイズになる。
それはまるでゴリラのように大柄で、ゴリラのように力強さを感じる筋肉を見せ、ゴリラのように神妙な気配を放ち、ゴリラのように彫りの深い筋肉を見せ、ゴリラのように相応しい力強さを持っていた。
「うわキモッ!!」
頭部はそのまま、しかし体はエリーゼが見上げるほどの筋肉もりもりマッチョマンのゴリラと化したことで形容し難いカオスが生み出され、エリーゼは悲鳴をあげるように叫ぶ。
「さあ、ボコボコのギタギタにのしてやるぜぇ?」
拳をゴキゴキと鳴らしながら獲物に狙いを定める。マッチョマンになったゴリラことノーベル翔が地面を踏みならしながらスライムに突っ込んで行く。ノーベル翔による異世界での初戦闘が始まったのだ。
「血祭りじゃーーーーッ!!」
ドカッ!バキッ!グシャッ!ベキベキベキッ!!
「ボコボコにされちまった‥‥」
「いや弱っ!その筋肉見た目だけか!!スライムもビックリよ!!」
全身血だらけで戻ってきた、パワフルな肉体で堂々と向かっていった癖にまるで弱すぎるノーベル翔にエリーゼは吼える。
「アイツ強すぎる‥‥‥交代だ!タッチだタッチ!」
返り討ちにあいボロボロのノーベル翔は助けを求め、リングの上のレスラーオコワに交代してもらうために手を伸ばす。
それに応えるようにオコワがノーベル翔の腕をガシッと掴む。
「甘ったれんなぁ!もういっぺん行って来いやバカ犬ぅぅぅ!!」
「ぎええええええええ!!」
ノーベル翔はオコワにそのまま遥か遠くに投げ飛ばされ、空の彼方まで飛んでいき、やがて見えなくなった。
「よっしゃー、自己ベストだ、やったぜ!」
「投げ飛ばした意味は!?」
「ないぞそんな物」
オコワ達のあまりに破茶滅茶な行動の連続でエリーゼどころか敵であるスライムたちですら唖然としていた。
「ほらー、スライムたちも呆れちゃってるし‥‥私たちは戦いにきたのよ?コントしに来た訳じゃないの」
ぼやき気味に言った直後、「キュルキュルキュルキュル」とファンタジー世界に似つかわしくない音が鳴り響く
「ん?」
エリーゼはキャタピラの様な音に気付き振り返るとオコワが軍服を着て戦車に乗っていた。銃口はスライムたちをしっかり狙っている
「戦車あああああああああああああ!!!?」
「撃って撃って撃ちまくれえええええ!!!!!!目標を射殺せよーーーーーッッ!!!!!!」
「ひぃえええええええええええ!?」
射撃による爆音を草原一帯に響かせながらスライムを退治と言う名の抹殺を行うオコワ。射線上にいたエリーゼは持ち前の素早さで何とか躱すことが出来た。
やがて銃撃により生じた砂煙が時間が立ったことで完全に消えるとスライムがいた場所には草木一本残っていない荒地に変貌していた。
それを確認したオコワはびしっと敬礼のポーズを取る
「任務完了!」
「任務完了!じゃないわよ!どう考えてもオーバーキルでしょうが!!これじゃタダの蹂躙よ!!」
「オコワちゃんは耐久力テストをしてただけだぞ!」
「サイコパス診断の模範解答か何か!?」
エリーゼはオコワの戦車攻撃による爆風で乱れた髪を整え、言いたいことを一通り言った後、深くため息をつく
「まあ、あんまり実感湧かなかったと思うけど今のがモンスターと戦うってことよ、この先グアンザ軍と戦って行くとどんどん強いモンスターや怪人が出てくると思うけど‥‥他2人はともかく貴方の実力なら大丈夫そうね‥‥?」
戦車から降りるオコワに近づこうとした瞬間、遥か遠くから近づいてくる強い邪悪な力を感じて即座に顔を見上げる。
「な、何かが高速でこっちに近づいてくる!?」
直後、上空からその人型の異形はエリーゼ達の前方に墜落してきた。地面に激突したことにより砂煙が吹き荒れ、煙幕が晴れるとそこには身の丈2メートルは軽く超えているであろう暗闇のような黒色の騎士が立っていた。
黒一色の甲冑を纏う騎士から感じる圧倒的な威圧感はただ者ではないことを雄弁に語っていた
「貴方、一体何者なの!?」
呑気なオコワに対してエリーゼが警戒心を最大にしながら疑問を口にする
「俺か?俺はグアンザ軍一番隊隊長の者だ」
目の前の騎士はエリーゼに対して驚愕の事実を発した
「た、隊長ですって!?」
エリーゼとは対象的に暗黒の騎士は体をワナワナと震わせ、その手にはさっき投げられたノーベル翔が掴まれていた。
「お、俺に目掛けて!!こんな物を投げつけてきたのは貴様らかあああああああああ!!!!」
「ノーベル翔おおおおおおおおおお!?」
驚愕と困惑を入り混ぜたエリーゼの叫び声が彼女らの立つ大地に木霊した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます