第5話

「道具もある程度揃えたし、次はギルドに行って冒険者登録に行くわよ」


「あー、こういう世界のお約束っていうか定番ってヤツだな!よくあるよくある!」


「そういうこと言っちゃダメ!!」


 手を頭の後ろで組みながらオコワが発した、なにか世界の根本から覆されかねないような色々まずい言葉をエリーゼがツッコむことで遮る。


 アンファンスに建つ冒険者ギルドの建物、その中に入ると店員らしき女性がエリーゼたちを出迎えた。食事処と併設されている設計らしく、お食事ならこちらへと案内してくれる。

 エリーゼたちの目的は食事では無いことを伝え、案内されたカウンターへ進む。ここでエリーゼが周りから視線が集まっていることに気づく。

 原因は言わずもがなノーベル翔とナル美である。一応は人間であるオコワはともかく、ノーベル翔は犬っぽいような猫っぽいような謎生物、ナル美に関してはプルプルしたナマモノ。

 ざわめいている空気の中、エリーゼたちはカウンターへ向かっていく。

 三つある受付、三つとも受付は女性職員で混み具合はどれも同じぐらい。どこを選んでも待ち時間は大差は無いだろうと分かる。

とりあえず真ん中の受け付けに並び順番を待つ。


「こちらの三人を冒険者に登録したいのですが」


「登録ですね、登録手数料をそれぞれ5ゴールドいただくことになりますけど」


「なんだと!?ヤバい!さっきの買い物で金全部使いきっちまったぞ!!」


「やはり強盗するっきゃない!!」


 受付嬢の言葉を聞いたノーベル翔とナル美が再び強盗行為に走り出そうとするのを慌てて止める。


「何回同じ下りやるつもりよやめなさいって!!ちゃんとこの分のお金も持ってるから!」


「マジか!捨てる神あれば捨てる神ありだな!」


「いやどっちみち捨てられてるわね!」


 馬鹿2匹の暴走を未然に防いだエリーゼは料金分の金を取り出し受付嬢に手渡した。


「はい、確かにお預かりしました。ではこの書類にパーソナルデータの記入をお願いします。」


 渡された三枚の書類を受け取ったオコワ達三人は身長、体重、年齢など自分の事柄を書き込む。受付嬢によると、冒険者とは大まかに言ってしまえば何でも屋であり依頼、例をあげるならモンスターの討伐などをして礼金を貰う。そういう生業の職業らしい。

 そして冒険者の中にも個人の得意分野によって様々な職業があると説明してくれた。


「そういえばエリぴっぴは冒険者ってのに登録しなくていいのか?」


 ふと気になったことをオコワがエリーゼに問い掛ける。ああその事かとエリーゼは懐に手を入れる


「私はもう登録してあるからね。ほら、これが私の冒険者カードよ」


「お〜」


 懐から取り出されたカードを見てオコワがまじまじと見る。オコワには詳しく分からないが表示されているステータス値もかなりの高水準であると分かる。


 そして書類を書いてたペンでカードにキュッキュッと落書きをした。


「うわ!いきなり何すんのよ!?」


「ペンがあるとどうしても本能的にな。昔からこの癖だけはどうしても直んねえんだ」


「子供か!もういい年でしょーが貴方は!」


「んまぁ、周りからは中学生の夏休みみたいな頭してるなって褒められるな」


「褒められてないわよ、馬鹿にされてんのよ」


 カードについたインクをエリーゼは慌てて拭き取った。そんな馬鹿げたやり取りを見ていた受付嬢は苦笑いを浮かべている。


「で、では皆さん、こちらのカードに手を翳してください。」


「構わんよ」


 言われた通り三人は置かれたカードに手をかざす。


「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」」」


「きゃあああっ!?」


 カードが何故か爆発した。突然の大爆発に近くにいた受付嬢は勿論、周りにいた人たちも目を見開いている。エリーゼが三人の身を心配して爆煙へ近づいていく。


「三人とも大丈夫!?」


「安心しろエリーゼ!俺たちなら平気だぜ!!」


 オコワの元気満々な声が聞こえて安堵の息をつく。そして本日二度目の爆発による煙が消えると3体の影があった。


「オコワちゃんは骨になっただけだあああ!!!」


「アタシはバラバラになっただけだあああああ!!!」


「俺様は死んだだけだああああああ!!!」


「大惨事だあああああ!!!!」


 肉が剥がれて骸骨となったオコワ、バラバラに弾け飛んだナル美、幽霊になってるノーベル翔を見たエリーゼが目を剥く。


 何だかんだ復活した馬鹿3匹は何故か無事な冒険者カードを異常な事態に思考が追いつけていない受付嬢に手渡す。

 ステータスが表示され出来上がった冒険者カード。その内容を見た受付嬢が驚きのあまり声を張り上げる。


「ええええええっ!?何ですかオコワさんのこのステータスは!!どのステータスもありえない高さの数値ですよ!?」


「淑女たるもの強くなければいけませんことよ!」


 オーホッホ!とお嬢様風に高笑いをするオコワ、受付嬢の驚愕にギルド内にいる全員がざわめき感嘆の声をあげる。

 他の人間と違いエリーゼはむしろ納得している様子だ、エレメンジェムの願いにより呼び出した戦士であるため常軌を逸した強さを持っていることは把握していたので異常な数値が出るのは大体予想通りであった。


「リーダーがそんなにスゲーなら俺たちもかなりのトコいってんじゃねえか!?」


「きっととんでもない数値に決まってるだわよ!」


 自分達もオコワのように高水準のステータスだろうと期待に胸を膨らませる。


「えっと、ノーベル翔さんは全ステータスが0ですね」


「0ォ!!?」


「ナル美さんは全ての数値がマイナスです」


「マイナス!!?」


 オコワとは違った意味で規格外な数値を見た受付嬢も言いながら困惑している。だがすぐに気を取り直し、次の手続きをする。

 ノーベル翔とナル美は放っておき、エリーゼがオコワへ声を掛ける。


「オコワのステータスの高さならどんな職業にもなれるかもね」


「あ、あれ?なにこれ?」


 思わず私語に戻り困ったような声を発した受付嬢に怪訝そうな表情を浮かべてエリーゼが問いかける。


「どうしました?」


「オコワさん達の職業が一つからしか選べないんですよ、なんでしょうこれ‥‥バーカーサー?」


「な、なにそれ‥‥?バーサーカーじゃなくて?」


「いやそれでいい、バーカーサーに決まりだ!


「わ、わかりました」


 見たことも聞き覚えもない謎の職業に受付嬢とエリーゼが戸惑うが、オコワ達はその職業で構わないようだ。むしろこうなる事を初めから分かっていたようにも見える。

 受付嬢は咳払いをして気を取り直しバーカーサー三人を歓迎する。


 こうしてこの日、オコワ、ノーベル翔、 ナル美の三人はバーカーサーとしてこの異次元で冒険者デビューを果たしたのだ。

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