第4話
「着きました!着きましたったら着きました!」
エリーゼとオコワがゲートを潜り、地上に降りた場所は草原地帯であった。と言っても目と鼻の先には活気に溢れた街があり現代人が思い描く剣と魔法のファンタジーな世界観が立体に飛び出したような景色が広がっていた。
街並みは西洋のそれでありオコワの世界の基準で言えば中世の世界に作られた建物に近い雰囲気だ。
空間に消えていくゲートを背にオコワは口を開く。
「おー!ここが異世界かー!オコワちゃんたちの住んでた世界とはまるで雰囲気が違うな、エリーゼ様、何ていうところなんだ?」
「ここは第十四次元よ。あなたたちの世界で言うと剣と魔法の世界ってところね」
中世的な街並みを見てオコワは、えらく感嘆している様子であった。元の世界では書物や空想物でしか見られない景色を現実で見ていることに感動している。
「あ、あと呼び捨てで構わないわ。『様』はいらないからね」
「え?いいのか、エリぴっぴ」
「遠慮の無さを飛び越えて来たわね貴方」
いきなりあだ名で呼ばれエリーゼが苦笑しているのを他所にオコワが何かに気付いた。
「あっちから何か聞こえねえか?」
「あっ、本当ね、一体なにかしら?」
オコワの指差す方向から戦っているような音が聞こえてくる。エリーゼは聞こえてくる声に物凄く聞き覚えを感じ、嫌な予感が頭を過ぎる。
2人が音の発生源に辿り着くとそこには
「俺の腹の中の入りやがれええええええ!!!」
「アンタに新しい家を紹介してあげるってんだわよ!アタシの胃袋だわよ!!」
「やめて!1人前よ!私1人前なのよ!!2人で求められたらダメなのおおお!あっ、ああああああ!だめえええええええ!!んおおおおおおおお!!!」
やけに艶っぽい嬌声をあげながら喘いでいるか巨大スパゲッティをノーベル翔とナル美がリンチしていた。
「何この地獄絵図!!?」
「おー、アレがこの世界のモンスターか。マジでやべえな。まさに異世界の脅威!」
「あんな変なスパゲッティモンスターこの世界にいない筈よ!?」
事前にこの世界の予備知識を頭に入れたエリーゼもあの異常なスパゲッティモンスターのことは知らなかった。異世界に転移して早々の珍事態にエリーゼは声を荒げる。
そんなエリーゼを他所にスパゲッティはエロゲみたく喘いでおり見かねたオコワはその地獄絵図の元へ駆けて行った。
「ケンカ両成敗!!!」
「「「ぎゃあああああああ!!!」」」
ノーベル翔とナル美、スパゲッティをまとめてバズーカで一掃した。
「とことん仲間に容赦ないわね‥‥」
次元神界でも見た光景だったがノーベル翔とナル美の扱いの悪さに顔が引きつる
「ところでエリぴっぴ、コイツらこの世界でも普通に受け入れられるのか?」
「ああ、確かにこの2人はモンスターとしか見られないわね」
オコワはともかくノーベル翔はに二足歩行の喋る犬っぽいような猫っぽいようなよく分からない生き物。ナル美に関してはプルプルしているナマモノ。控えめに言っても怪物にしか見えない。こんな怪しい生物じゃ一発で門前払いだろう
「でも大丈夫。認識阻害の奇跡で周りから普通の人間に見えるように出来るから平気よ」
「いや、その必要はねえよ。オコワちゃんにいい考えがある」
「考えって言うと?」
自分の認識阻害の奇跡より効果的な方法とは何だろうと疑問符を浮かべるもオコワの案に乗ることにした
オコワ達は街門に向かって足を進める。門を潜ろうと歩んで行き、一同はもちろん門番の視界に入る。ノーベル翔とナル美には首輪が括られておりオコワが2匹の手綱を握っている異常な光景に門番は思わず二度見をして慌てて止めにかかる。
「(この作戦、やっぱ失敗でしょ)
「ちょ、ちょっと君君!!」
「はい何でしょうか?」
何か自分たちに落ち度でも?とでも言うように平然とカオコワが門番に向き直る
「そんなモンスターを町の中に連れ込んだらダメじゃないか!!」
「何ですって!?私が怪物って言いたいの!?差別よ差別!人種差別主義者よコイツ!!」
「このクソ人間が!!首輪つけて大人しくしてりゃつけあがりやがるんじゃないだわよ!!」
何故か女口調になるノーベル翔と食ってかかるナル美のヒステリーにあわあわと困惑する門番。この門番をエリーゼは不憫に思った。
「すいません門番さん!コイツらワテクシのペットなんですよ!ホラこれ見てください」
門番に証拠としてオコワは『珍獣大百科』と書かれた本を取り出す。
「このページ見てくださいな、『ノーベル翔』と『ナル美』が載っているでしょう?」
「そんな本いつのまに用意してたのよ!!?」
オコワが目的のページを開き門番に見せる、そのページにはやたらムカつく笑顔で描かれている二人の挿絵に、食べられません、害獣、人畜有害、カス、と書かれている。
「うむむむ、こんな奇怪な生物がこの世に存在していたとは」
門兵が指を顎に添えて食い入るようにオコワが開いている図鑑のページを見る。図鑑を見たことで納得したのか門兵はノーベル翔とナル美も通してくれることになった。
門兵にお辞儀をした後、オコワは未だに首輪をつけて喚いている二匹に視線を向ける、そしてポンプのような物を取り出しノーベル翔とナル美目掛けて構える。
「殺処分!!!!」
不吉な言葉と同時にボタンを押す、すると発射口から炭酸ガスが吹き出した。
「「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」」
すぐに蔓延したガスはノーベル翔とナル美の体を蝕み悲鳴をあげる
「ガスだああああああ!!?」
カス二人が立っている場所に炭酸ガスが充満し悶え苦しむ姿にオコワは指をさしながら笑い出す。
「あっはっは!可愛いな〜、必死になって暴れてる♪」
「あんたサイコパスか何か!?」
「「あの野郎いつかぜってーぶっ殺す‥‥」」
やがてガスが止み、死にかけのノーベル翔とナル美の恨み言を無視して、オコワはエリーゼと共に街道に進んでいき、後ろからノーベル翔とナル美もフラフラと付いていく。
「これが異世界の街か〜」
オコワは眼前に広がる光景を視認しながら、感嘆の声を漏らしていた。文明が発達した現代とは根本的に違う情景。視線を動かせば様々な店やそこに群がる色んな種族たち。
行き交う人々は、人間だけでなくドワーフや獣人、小人などもいる。
自分が元の次元で見てきたものと何もかもが違う、言葉には上手く言い表せないような独特の異質なエネルギーで満ち溢れている。
「こりゃすげえなぁ〜、こんなゴンドラクエストの世界観みたいな景色、オコワちゃんのいた世界じゃ絶対ナマで見れなかったろうな」
そんな感動を露わにするオコワを見てエリーゼは思わず笑みを零す。もう少し異世界を堪能させてあげたいところだが、自分たちがここに来た目的は観光ではないのだ。
「オコワ、見惚れる気持ちもわかるけど、私たちがこの世界に来た目的を忘れちゃ駄目よ?」
「あぁ、そうだったな。オコワちゃんたちはまずこの世界で何をすりゃいいんだ?」
「まずは最低限の道具を整えましょう、道具が一つも無いんじゃ心許ないし」
エリーゼ自身、治癒能力などを持っているが念のために道具は揃えて置いた方が良いのは確かだ。だがここでノーベル翔が意見を挙げる。
「オイ!でも俺30円しか持ってねえぞ!?」
「それ以前にアタシたちこの世界の通貨なんか持ってないだわよ!これじゃ買い物なんか出来ないだわよ!」
「やっべーぞ!!」
ノーベル翔の発言を皮切りにナル美とオコワも慌て出す。
「ああ、それなら大丈夫よ。お金なら私が「そうだァ!いいアイデアを思いついたぞォ!」え、なに?」
エリーゼの声を遮ったノーベル翔とナル美は覆面を頭に被り拳銃を持つ、どこからどう見ても立派な強盗の格好だった。
「強盗する気マンマンだああああああ !!?」
「オラオラオラーーーッ!死にたくなかったら金を出せーーーーッ!!」
「金をよこさなきゃ射殺するだわよ!金をくれたら褒美に射殺してやるだわよー!!」
格好の如くノーベル翔とナル美は止まらず手に持った拳銃を掲げひたすらに乱射、街を歩いている通行人を脅し始める。いきなり暴れ出した馬鹿2匹を見た一般人は恐怖し、四方八方に逃げ出していく。
「ちょっと二人ともやめなさいって!!」
好き勝手に暴れるカス2人を止めようとしたエリーゼだが「ファンファンファンファン」と不意にこの世界には存在しないはずのパ。トカーのサイレン音が聞こえ立ち止まる。
「え?パトカー?この世界にはまだないはずなのに‥‥」
エリーゼがサイレンの聞こえた方向へ視線を向けると
「オコワちゃん警察だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!強盗行為の現行犯で抹殺する!!!!!」
「やっぱりアンタかぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!!!ていうか抹殺!?逮捕じゃくて!?」
パトカーに乗ってきたのはエリーゼが予想した通り警察の格好をしてアサルトライフルを構えたオコワであった。強盗行為に走る法律の敵どもに銃口を向ける。
「ままま、待ってください!これはちょっとした出来心なんスよ旦那ぁ‥‥」
「問答無用!!!死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
雄叫びと共にオコワ警察は犯罪者に機関銃を乱射する。
「ひぎゃああああああああああ!!!!」
命乞いも虚しくオコワ警察の正確無比なフルオート射撃により強盗ノーベル翔の体は数えきれない箇所の穴が空きミンチより酷いことになった。その光景を一部始終見たナル美は身の危険を感じ、逃げ出そうとする。
「この作品のメインヒロインであるアタシも警察には勝てないだわよ!逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「逃すかあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッッッ!!!!!!」
「だわよおおおおおおおおおお!!!!」
逃走を計った強盗ナル美もオコワ警察が放った超強力ロケットランチャーが命中し奇妙な悲鳴をあげながら爆散した。これにて馬鹿2匹の強盗はオコワ警察の大活躍により終わらすことが出来た。そして元の格好に戻っているノーベル翔の胸ぐらをオコワが掴み上げる。
「テメェあんまふざけた事やってっとオメのおっかあでも見分けつかんくらい、いてこましたるけんなぁワレェ!」
「本当にすみません!二度としませんからお許しを〜」
謝罪の言葉を聞いたオコワはノーベル翔を地面に下ろし、懐から「さんすう1年生」と書かれた算数ドリルを取り出す。突然出されたそれを見て、オコワの意図が分からないノーベル翔は疑問符を浮かべる。
「ノーベル翔。お前が本当に反省しているのだと言うのなら、この算数ドリルを全問解いてみせろ、それがお前の禊だ」
「算数だと?ハッ、面白え!んなもんゼロコンマで終わらせてやるぜ!」
余裕な態度のノーベル翔がオコワの手に持った算数ドリルを引ったくり、机の上に広げ問題を解こうとする。
だがその直後ノーベル翔の頭が大爆発を起こした。
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!」
「爆発したああああああああ !?」
脈絡の無い爆発にエリーゼが目を剥いて驚く。爆発したノーベル翔は壊れた機械音声の様な音を発しながら体から火花を散らす。
「3+4・・・カイトウフノウ・・・3+4・・・カイトウフノウ・・・」ガガガ・・・ピピー・・・
「足し算が分からなかっただけで爆発したの!?可笑しいでしょ!!」
爆発した理由の馬鹿馬鹿しさにエリーゼはまたもや目を剥く。
「ていうか強盗なんかしなくても私が次元神界からこの世界のお金を持ってきたから心配しなくて大丈夫なの!!」
「ぬわにぃ!?アンタ何でそれ早く言わなかったのさ!!」
「貴方とノーベル翔が無視して暴れ出したんでしょーが!!」
この世界の通貨が入った小袋を見せつけながらエリーゼと強盗行為の主犯であるラナル美が口論を始める。
「悪ふざけも度がすぎるとこのお金も使わせてあげないわよ!」
半分脅し紛いでエリーゼはオコワ達に忠告する。それを聞いた3人は顔を青ざめ、地面に伏し土下座で謝罪した。
「スイマセン姉御〜、アタシ達が悪かったんでお許しくださいだわよ〜」
「ちょっ、えぇ!?別にそこまでしなくても‥‥」
「申し訳ねえです姉御〜」
あまりに激しい態度の変化に困惑するエリーゼだが、泣きながらオコワたちはエリーゼに許しを乞う。
「お詫びにアタシのぷるぷるをどうぞ〜」
「だからアンタの体の一部なんかいらないわよ!!」
しがみつくナル美が渡してきたぷるぷるしたスライムを遠くに投げ捨てる。あんな正体不明の謎物質を貰っても何に使えばいいのか分からないし必要もない。
「ハア‥‥しょうがないわねぇ〜、ホラ、これだけあれば大抵の物は揃えられるわ」
呆れたように溜め息を吐きながらエリーゼは小袋をオコワに手渡す。
「助かったぜエリぴっぴ!そんじゃーお前ら!道具屋まで競争だーーーー!!」
「あ!フライングはずりいぞリーダー!」
「アタシを置いてかないで欲しいだわよー!!」
そう仲の良い会話をしながら、3人は笑顔に『カジノ』に駆け込んで行った。
「ちょっと貴方たち!?言ってる事とやってる事がバラバラ何ですけど!?開始早々ギャンブルとかやめなさいって!!」
ゴミ3粒はエリーゼのストップを食らうと急停止、舌打ちをしながらいかにも不機嫌そうな表情で戻ってくる。
「チェッ、冗談に決まってんだろ‥‥!」
「チェッ、ノリが悪いなゲロビッチめ」
「チェッ、でっけえおっぱいしやがってだわよ‥‥」
「何で舌打ちしたし!!あと最後普通にセクハラ!」
戻ってきた馬鹿3匹はエリーゼと共に道具屋へ直進する。4人は扉をくぐりの中へ入っていった。
隅々まで清潔に整理された道具屋の内部、そこで購入する物を探すためオコワたちは並べられた薬草を始めとした道具を眺めている。
「ねえオコワ、何を買うか決まった?」
「あんぱんとメロンパンだったらあんぱんも方がエロいよな?」
「会話をしてくれないかな!!?」
購入する道具について聞いたのにところてんの話題で言葉を返すオコワ、会話になってない会話をしている2人の後ろの方からノーベル翔が声をかけてくる。
「おーい!いい感じのアイテムを見つけてきたぞー!」
「あ、ノーベル翔は買う物決めたみたいね」
エリーゼがノーベル翔のいる方向に振り向くがエリーゼは視認した光景に目を疑いたくなった。
「見ろー!俺の持ってきたアイテムをーーーっ!」
ノーベル翔はウシを引きづってきたのだ、どこからどうみても立派なウシだった。
「ただのウシじゃない!道具ですら無え!!」
エリーゼが発したこのツッコミに、ノーベル翔は強く反論する。
「チャッピーはただのウシじゃねえもん!30円だもん!」
「チャッピー安いなオイ!!じゃなくて誰がウシなんか持ってこいっつったよ!」
「チャッピーをナメるなよ!喋れるし俺の素晴らしき親友なんだぞ!なっ、チャッピー!」
『気安く話しかけんなカス』
「全然懐いてないじゃん!ていうかどっから持ってきたのよこんな変なウシ!木星から!?」
エリーゼとノーベル翔(とウシ)が口論を始める。エリーゼの言うことも若干破茶滅茶になってるのはオコワたちと長く接しているからであろうか。
2人と一匹の口論がヒートアップするのをよそに、オコワは店の品である鉄の盾を店員の前に持っていく。
「これください」
「はい毎度ありー」
料金を払い購入した盾を受け取るとオコワはノーベル翔とウシに目掛けてそのまま投げつけた。
「流派怒滅舞奥義『武器をナゲール!!!』」
「「防具じゃーーーーーーーーん!!!」」
かったい盾をぶつけられ、事実を叫びながらノーベル翔とウシは地面に転がった。オコワは地面に落ちた盾を拾い上げ、店員に目を向ける。
「これはいい武器だな、気に入った〜」
「お目が高いわー」
「それ防具だってば!」
オコワとエリーゼはそんなアホな漫才をした後、引き続き商品を眺めた。
「アレ?そういえばナル美は?」
その頃ナル美は
「やあ、そこの坊や、アタシとスライム最強説を広めないだわよ?」
「黙れカス」
店の入り口にいた少年に怪しげな申し入れをしていたが無情にも断られた。
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