第3話

 ここは「次元神界」、人間たちが住む世界とは次元の異なる世界に存在する神々が住まう場所であり、そこには様々な神の姿がある。


 数ある神のうちの一神である傾国の美女という表現が相応しい美しさを宿し、奇跡的な塩梅で配置された美貌を持つ透き通るような純白の髪の女性、光の次元神エリーゼは神殿内に割り当てられた一室で7つの宝玉を部屋の中心に並べていた。


 その宝玉の名は『エレメンジェム』


 赤、青、黄、緑、橙、白、黒、それぞれの色に美しく輝く次元神界に存在するアイテムであり、この7つの宝玉を一箇所に揃えれば何でも願いを叶える事が出来る奇跡の玉である。


 今まさにエリーゼはそれを使おうとしていた。


 理由はとある世界では、別の次元から来た魔帝王グアンザという悪党が率いるグアンザ軍によって、そこに住む人々の生活が脅かされていた。


 そんな未曾有の危機に瀕した世界を救うべく、自分と共に次元を超えて協力してくれる強者が必要だった。


 7つの宝玉から願いを聞き届ける存在であるエレメンジェムの化身を呼び出す。


『我はエレメンジェムの化身なり、我はあらゆる命に授かって存在する。何故に我を呼び出した』


 厳格な声を響かせるエレメンジェムの化身、エリーゼは自分の願いを力強く言い放った。


「戦士を!私と一緒に次元を救うために戦ってくれる強い戦士を連れてきてください!!」


『承知した』


 エレメンジェムの化身に願いを聞き届けられると、エリーゼの前方の場所にに眩いばかり光が溢れ出す。


 願いを叶え役目を終えたエレメンジェムは元の宝玉の状態に戻りゆっくりと地面に落ちていった。


 そして光が収まるとそこには


「‥‥え?」


 手足の生えたタワシがトイレをスッポンする奴(ラバーカップ)を握りながら佇んでいた。


「ふぅ、何とか撒いたな」


「(なに、あの生き物!?アレが私と一緒に戦ってくれる戦士!?」


 何なんだあれは、一体どういう生物なのだ。

 というかこれは生物にカテゴリーしていいものなのか?

 そんな事を考えているも束の間


「「「トイレのカッポンするヤツ返せえええええ!!!」」」


「きゃああああああああああああ!!!」


 エリーゼが面食らったのも無理はない、軍服を身に纏ったオコワとノーベル翔、ナル美がそれぞれラバーカップを握り締めながら戦車に乗り壁を破壊して部屋に乱入してきたのだ。

 永い時間を生きるエリーゼの女神経験でも前代未聞の珍事態に驚きを隠せない


「ヤベッ!もう追いつかれたか!」


「トイレのカッポンするヤツを盗むような愚か者は生かしちゃおけねえ!!!」


「グハァ!!!!」


 オコワ軍曹はトイレをカッポンするヤツで、トイレをカッポンするヤツを盗んだ犯人であるタワシを思い切りぶん殴った。


「制裁の時間だオラァ!!大砲に詰め込めーーーー!!!!」


「「うおおおおおおおおお!!!!」」


 オコワ軍曹の号令によりノーベル翔とナル美がボロボロになったタワシを大砲の中に無理やり突っ込む。


「いやー!!ヤメテー!!汚い花火になっちゃう!!汚い花火になっちゃうよおおおお!!!!」


 悲鳴をあげるタワシのことなど気にとめずオコワは大砲の導火線に火をつける。


「汚い花火になれーーーー!!!!」


「ぎゃあああああああ!!!!」


 そのまま泣きわめきながらタワシは空高く打ち上げられ無惨に大爆発。汚い花火となり空間に散っていった。


「きたねえええええええええ!!!!!!」


「アンタがやったんでしょうが!!!」


 理不尽な叫びをあげるオコワに突っ込みを入れたエリーゼは我に返り冷静な表情に戻る。本来、次元神界は神々の住まう聖域であり通常、特別な人間でなければここに来ることが出来ないのだ。明らかに人間ではない生物が2体いるがあえて気にしないでおく。


「て、ていうか貴方たち一体ナニ者なの!?」


「その声はァ!母さァん!母さんなのォ!?」


「違うわよ!?」


「知っとるわボケエェ!うっせーんだよダボがァ!!ナメとんのかァ!!」


「えー‥‥」


 初対面のノーベル翔に母親かと聞かれ素直に否定するも意味不明なキレ方をされる。理不尽ここに極まれりだ。


 エリーゼの質問に通常の格好に戻った不審者3人は答えていく。


「俺ちゃんは流派怒滅舞の正統後継者、怒滅舞オコワだ。異次元バーカーサーのリーダーを務めている」


「異次元バーカーサー?それに流派怒滅舞?」


 知らない単語の数々に戸惑いつつ、彼女はそんな彼女をまじまじと見る。その少女、怒滅舞オコワは異世界を救うと豪語するだけあり気配から感じられるパワーも相当なものだった。

 エリーゼは思考を巡らせる、嘘をついている様子もないため言ったことを信頼する。

 そして流派怒滅舞と言う聞き覚えの無いワードに疑問符を浮かべる。


「流派怒滅舞はライスパワーが生み出す神聖にして最強の力、その圧倒的パワー、とくとご覧ください!」


「ライスパワーってなに‥‥?」


 流派怒滅舞の力を披露するべく、体内のエネルギーを高める。構えを取ったオコワの身体のエネルギーが循環していき、ライスパワーが急激に高まっていくのをエリーゼは感じる。

 そしてライスパワーの高まりが最高潮に達した瞬間。


 オコワはトラクターでナル美を弾き飛ばした。


「オコワちゃんトラクター!!!」


「ぎゃああああああ!!!」


「ライス関係ねェェェェェェェ!?」


 ライスパワーと言うからには米に関係した技なのだと思っていたエリーゼの前で繰り出された奥義は乗り物で弾き飛ばす生々しくエグい技だった。


「アタシはエター村ナル美!趣味でスライムをやってるだわよ!」


 トラクターで弾き飛ばされたがピンピンしているナル美と名乗ったプルプルしてるナマモノ。トラクターと衝突した彼女を心配に思うが、彼女からも邪悪な気配は感じないため警戒を解くことにした。


「そして俺は「テメェは喋んなああああああーーーーッ!!!」 ぎょええええーーッッ!!」


 名乗ろうとしたノーベル翔の頭をオコワが巨大な竹槍でぶっ刺した。これには自己紹介を聞いていたエリーゼも目を見開く。


「ええええーーーっ!!!?何で刺したの!!!!?」


 エリーゼの驚愕の叫びを尻目にオコワは自らが刺した竹槍を頭から引っこ抜きノーベル翔を抱え上げる。


「大丈夫かノーベル翔!一体誰がこんな酷いことを!」


 自分がやった分際で一丁前に心配をするオコワの姿に冷ややかな視線でエリーゼは見ている。


「お、オコワ・・・」


 満身創痍の状態でノーベル翔は自分を抱えるオコワを指差す。


「嘘を付くなああああっっっ!!!!」


「ぶべらあっ!!!」


「叩きつけた!!?」


 正直に言った筈のノーベル翔は床に叩きつけられる。目の前で繰り広げられる意味不明な出来事の数々にエリーゼの中枢回路はショート寸前だった。

 だがエリーゼにとってはオコワは自分とともに世界を救ってくれるであろう人間なのだ、そんな人間を無碍に扱う訳にはいかなかった。


「お姉さんは名前何て言うんですか?」


「ああ、えっと、コホン・・・はじめまして私はこの次元神界に住む光の次元神エリーゼです」


 オコワに尋ねられた神としての威厳を醸し出しつつ名を名乗ったエリーゼだが、突然ノーベル翔がエリーゼに掴みかかかった。


「女神ぃ?ふざけた事言ってんじゃねえぞテメェ!嘘つきはドロボーの終わりと始まりだぞゴルァ!!」


「い、いきなり女神だなんて言われても信じられないかと思いますが本当に私は神なんですよ」


 神だと名乗られて信じられず憤慨するノーベル翔は事実かどうか判断するためある物を懐から取り出す


「そこまで言うんだったらこの『神検査装置』でお前が本当に神かどうか調べてやらぁ!!」

「何その装置!?」


 神検査装置とは、その名の通り測った対象の者が神かどうかを調べる装置なのだ!


「さあこれでお前の正体を暴いてやるぜ〜?もし神じゃなかったらお前の尻に尻の落書きしてやるから覚悟しろよ〜?げひょひょひょひょひょ!」

「何その地味な嫌がらせ!?」


 ノーベル翔はエリーゼの突っ込みを聞き流し、神検査装置のスイッチを押してエリーゼに向ける。ピピピッと電子音が鳴り始める。どうやら測定が始まったようだ。


 だが・・・


ドカーーーーーーン!!!


「ぎゃああああああああ!!!」


「爆発したああああああ!!?」


 装置が原因不明のエラーを吐き出し大爆発を起こした、装置を握っていたノーベル翔は当然爆発の被害にあった。


「ちょ、ちょっと!大丈夫なのコレ!?」


 煙幕が晴れエリーゼの目に入った物、それは


「三丁目の鈴木です」

「リーマンになった!!?」


 ススだらけのノーベル翔の横にビジネスマン風の中年男性が立っていた。それを視界に捉えたオコワとナル美は全身から汗が吹き出すほど驚愕した。


「なっ!神検査装置が三丁目の鈴木さんになるなんて!!」

「これは測った対象が神、それも飛び切り強力な神だとこの姿になる超激レアの変形だわよ!!」

「そうなの!?」


 まさかこの意味不明の事態にそんな理屈があったのかとエリーゼは心底驚いた。


「これまでのご無礼をお許しください神様!」

「あなたの手となり足となる所存でアリンス!」

「別にそんなへり下らなくても・・・」


 オコワと一緒に打って変わって自分を敬いまくるノーベル翔とナル美にエリーゼは困惑する。


「お詫びにアタシの体の一部をどうぞだわよ!」

「いらないわよ!てか自分の体!?」


 ナル美が自分の体から切り取ったぷるぷるした物こと産業廃棄物を献上するがこんな正体の分からないもの受け取りたく無い。拒否されたナル美はガーンと落ち込んだ。


「ま、まあ異世界を救うために来たのなら話は早いです、オコワさん、ナル美さん、ノーベル翔さん、早速私がその世界へのゲートを開きます、共に世界を救いましょう!」


 エリーゼは空中に手をかざし、神術により異世界へ通じる門を開こうとするが


「いやだー!!」


「「なにいいいいいいい!!?」」


 突然ノーベル翔が異世界行きを拒否し始めたのだ。これにはオコワとナル美もびっくりお目目で驚愕する。


「やだびー!異世界なんて行きたくないよー!怖いよー!」


 ついさっきのテンションとは打って変わって頑なに異世界へ行こうとしないノーベル翔。この展開には神であるエリーゼも困惑しっぱなしだった。


「さっきまであんなにやる気満々だったじゃない!」


「やっだびー!やっだびー!」


 地面に突っ伏して是が非でも拒否するノーベル翔にエリーゼはおろおろしてしまう。


「ノーベル翔‥‥」


 そんなノーベル翔の近くにオコワがゆっくりと近づいてきた。


「ふんどしワッショイ!ワッショイワッショイ!」


 いきなり謎の歌詞を歌い始めるオコワにエリーゼは引き気味になり、ノーベル翔がその歌詞にピクリと反応する。


「今だ!ふんどし音頭を流すんだわよ!」


「御意!」


 ナル美に指示された通り三丁目の鈴木さんがラジオのスイッチを押してふんどし音頭を流した。


 その曲に乗りながらオコワはノーベル翔の周りで始める。


『ハッハッハッハッソイヤーサーハッハッハッハッハッスリーツーワンゴー!ふんどしワッショイ!』


「ワッソウ!ワッソウ!」


 便乗して踊り出すナル美。


『ふんどしワッショイ!』


「ワッソウ!ワッソウ!」


 便乗して踊り出す三丁目の鈴木さん。


 まるで邪悪な儀式の生贄のように、ノーベル翔の周りでオコワとナル美と三丁目の鈴木さんが踊り回る地獄絵図が出来ていた。


「なに!?なに!?何が起きてんの!?」


 『ワッソウ!ワッソウ!』と奇声を上げて踊る度に困惑が膨れ上がっていく。次から次へとこの変人たちは何をやっているのだろうか。


「ぐわぁ〜!頭がズキズキする〜!割れそうだー!」


『ふんどしワッショイ!』


「ワッソゥ!ワッソゥ!」


 乱れ踊る三人の中心でノーベル翔は頭を抱えて苦しみ出す。エリーゼは呆然としながら無言のまま見守っている状態だ。


「やめて!よして!助けて!うがぁーーーー!!」


『ふんどしワッショイ!』


「ワッソゥ!ワッソゥ!」


 そしてついにノーベル翔の中で何かが吹っ切れた。


「ふんどしワッショーーーーーイ!!!」


 激励されたノーベル翔は立ち上がり、気概満々で高らかに叫んだ。こうして異世界を救うため全員の気持ちが一致したのだ。


「ああ!本気と書いてマジでやるぜ!ふんどし共和国の復活をな!」


「何も分かってねえじゃねえか!!」


「ぐばらあ!!」


 まるで理解していないノーベル翔を殴り飛ばしておいた。


「じゃあ早速異世界へ行くぞ!専用のロケットを用意してあるからそれに乗って行くぞ!」


「えっ!?乗り物なんか使わなくても私が異世界へのゲートを開ければ・・・」


「わーいノーベル翔乗り物大好きー」


「ナル美早く乗りたーい」


 エリーゼの言葉を完全無視し、幼児退行したノーベル翔とナル美はキャッキャとはしゃぎ回る。オコワはどこから持ってきたのか「異世界ロケット」と書かれたネームプレートが付いたロケットを引き摺ってきた。


 2人はロケットに乗り込みシートベルトを占める。それを確認したオコワはコントローラーを操作してトラックを動かす。その瞬間、異世界ロケットのネームプレートが剥がれ、中から異世界ミサイルと書かれたネームプレートが露出した。


「『異世界ロケット』改め『異世界ミサイル』射出ーーーーーーッ!!!!」


「「何ィィィィィィィィィィ!!!?」」


 そして間も無く異世界ミサイルは再びジェット噴射しながら2人を天界の上空へ打ち上げる。


「ヘルプウウウウウー!こんなのメインヒロインのイメージじゃないいいいいいいい!!」

「このラッキョウ塩濃いな‥‥ああ、これキムチか‥‥」


 女装しながら訳の分からないことを叫ぶノーベル翔と死んだ目で鉄板にかじりつくナル美 は汚い花火となって大空に散った。


「じゃあエリーゼ様、俺ちゃんたちもさっさと向かうとしよーぜ。ハリーハリーハリー」


「え!?あの二人は爆殺したまま!?」


 それを見届けたオコワとエリーゼは異世界へのゲートをくぐり、遥か彼方の未知なる世界へ赴く。


 怒滅舞オコワと言うこのまるで「理性」や「常識」という概念をどこかに投げ捨てたように傍若無人な少女。


 いつも余裕を蓄え、温和な雰囲気を纏っているエリーゼだが、今回は勝手が違っている。

人間で言う十代の快活な少女のように声を張り上げていた。


 今後、光の次元神エリーゼの気苦労は絶えそうには無かった。

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