Day27「渡し守」(伊勢美灯子)
星の川を、君と船に乗って登っていく夢を見た。夢だと、分かっていた。
だって、君が自分の前に現れることなんて、もう二度とないから。
だから努めて、君と楽しく話をしたんだ。君は笑ってくれていたから、きっと自分はちゃんと話せている、のだと、信じたい。
口が動くような感触はするのに、何も聞こえない。自分の声も、相手の声も。星の流れていく音も、瞬きをする音も。
君は船の先頭に立って、前に進むために漕いでいる。話しながらだというのに、随分と器用だな、と思った。
やがて君が漕ぐ手を止めて、前方を指差す。促されるままに見ると、そこには眩い光の門があって。……進行方向とは少し外れている。
悟ってしまう。ここでお別れなのだと。
手を差し出された。反射的に、握って。すると次の瞬間、その光の門の前に立っていた。振り返ると、君はまだ船に乗ったまま。こちらに大きく手を振っていた。
文句も言えないまま、手を振り返す。そして光の門の方に手を伸ばすと……。
──誰かが、手を握ってくれた。
「おはよ」
「……おはようございます」
目を覚ますと、目の前に言葉ちゃんがいた。そして何故か私と言葉ちゃんは、手を握っていた。というか、少し指先を絡めている。……その程度だけど。
「びっくりしたよ。君が寝ながら手を握ってくるから。……寝ぼけてた?」
「……かもしれませんね」
見た夢は、朧気だけど、覚えている。そして理解する。自分はきっと、渡されたのだと。
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