Day25「報酬」(床崎さゆり)

 今日も生徒たちはとても賑やか。本当はここは賑わってほしくないというのに。……まあ、元気が良いのは良いことだけれどね?


 放課後になると、保健室も一旦落ち着いてくる。そこで私はようやく、一息をつくためのコーヒーを飲むことが出来た。

 だけどノックの音が響き渡り、私はため息を吐く。そして、どうぞ、と告げた。


「床崎先生」

「あら、絹斗くんじゃない」


 一体どんな生徒が来たのか。そう思って引き締めた心は、すぐに解かれた。……何故なら、保健室に入って来たのは私の同僚……服部絹斗くんだったから。


「床崎先生、せめて学校では先生呼びをしてくださいと何度も……」

「あら、いいじゃない。今ここに、生徒はいないもの」


 そうですけど。と彼は、少し困ったように眉をひそめた。……ふふふ、彼の困り顔は可愛くて、好き。


「それで、何の用かしら? どこか怪我でもした?」

「ああ、いえ。職員室でお土産が配られたのですが、貴方の姿がなかったので。私が届けに来ました」

「あ、やった。クッキー」


 彼が差し出してきた物を見て、私は思わず手を叩く。上に甘そうなジャムが乗っている、とても甘そうなクッキーだ。今飲んでいるコーヒーに、とても良く合いそう。


「では私は、これで」

「待って、良ければ一緒に食べましょうよ。コーヒーを淹れるわ」

「え? いや、私は……」

「良いじゃない。今生徒はいないし、日頃の功労会ってことで」


 ねぇ、服部先生? なんて言うと、彼は小さくため息を吐いた。そして私に譲る気はないと分かったのだろう。そうですね、さゆりさん。なんて微笑みながら彼は言った。

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