Day23「静かな毒」(小鳥遊言葉)

※過去の性被害を暗喩させるような表現が含まれています。


 ──────────


 今日はちょっと、イライラしていた。


 登校途中、2人組の男に絡まれたのだ。君可愛いね、お茶行こうよ。テンプレートみたいなそんな台詞と共に。たぶん大学生とか。……明らかに僕の顔とか胸元とかを見ていて、本当、嫌になっちゃった。

 異能力の存在をちらつかせたら向こうがビビってて、あとは持ち前の運動神経の良さで逃げた。


 ……でも、もし、向こうが怯んでくれなかったら? 逃げられなかったら?

 どう、なって、たんだろう。


 ドッ、ドッ、と、耳元で心臓の音が鳴っている。指先から全身が、冷えていくような感覚。蝉の声がこんなにうるさい。今は夏だ。でも、こんなに、寒い──。


 蝕まれていく。

 これだけ強くなろうと、気を強くしようと、それはいつまで上手くいくんだ。そんな不安が、恐怖が、じわじわ、を、飲み込んで──。


「言葉ちゃん」


 気づいたら、前に人が立っていた。


 勢い良く顔を上げると、そこには冷や汗を流した灯子ちゃんが。


「……顔、真っ青ですよ……」


 その静かな声に、体が自由になっていくような感覚がする。静かに私を蝕んでいた毒が抜けて、呼吸が楽になる。温もりが、私を抱きしめる。


 安堵で視界がぼやけて、心配してくれるなんて君らしくなくて笑ってしまって、きっと今自分は、なんとも情けない顔をしているのだろう。

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