Day20「甘くない」(音宮鳴子)

 女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来てる。ふと、そんなフレーズを思い出した。


「それでメイドたちったら、わたくしが不器用だの料理を分かっていないだの……好き勝手言いますの!! まったく、最近のメイドは礼儀がなっていませんわ!!」

「あはは、本当に仲が良いんだね」

「良くないですわ!!!!」


 熱心にお家であったことを話してくれる、俺の彼女(仮)である……氷室文那さん。

 文句を言いつつも、その顔には笑顔があって。彼女が笑うたびに、そのライトブラウンの髪が揺れる。その笑顔から、目が離せなくなる。好き、とかはまだよく分からないけど、可愛いな、とは思う。彼女が笑顔だと、俺も自然と笑顔になってしまう。


 女の子は、お砂糖とスパイスと、素敵な何かで出来ている。笑顔が砂糖なら、スパイスは、ちょっと性格がきつくなっちゃうところかな。


「……お、音宮先輩、その……そう見つめられると……照れてしまうのですが……わたくしの顔に、何か付いていますか……?」

「……えっ? あっ、ごめん!!」


 ぼんやりしていたら、見すぎていたらしい。俺は自分の顔が熱くなるのを感じつつ、慌てて謝罪をした。


 目を逸らし、また横目で彼女を見てしまう。……すると、その頬も、耳も、真っ赤に染まっていて。……ちょっと、甘そうだな、なんて思った。


 甘くないです、とか言われそうだし、口に出すのは憚れるので、言わなかったけど。

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