Day9「肯定」(伊勢美灯子)

 突如として、肩に何かが乗る。読書に集中していた私は、思わず少しだけ体を震わせた。


 隣を見る。するとそこには……すー、すー、と心地よさそうな寝息を立てている、言葉ちゃんが。

 読書をしている私の隣でただ座っていたはずだが、この暖かな気候に負けたか。すっかり夢の中に入ってしまっているようだ。


 その表情はあまりにも無垢で、あどけない子供の様で。なんだか、弱々しいというか。……こちらを信用しているのが、その態度で分かる。それがあまりにも、何と言うか、居心地悪い。


 無意識に手を伸ばし、その頬に指先で触れてみた。少し触れるだけでも分かるほど、彼女の肌はすべすべで、弾力があり、指を跳ね返してくる。その肌には血が通っているから、ほのかに温かい。……そして、起きる様子はない。


 いっそ、起きてくれたらいいのに。

 そうしたら、触れない理由が出来るから。


 きっと彼女は、どうして触れていたの? と聞くはずだ。

 その時私は答える。触ってなんていませんよ、と。


 だって、特に理由なんてない。


 ただ何となく、触れたくなっただけだと。そんな理由は、彼女も私も認めない。きっと。

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