Day7「酒涙雨」(伊勢美灯子)

「あちゃー、予報の通りになっちゃったね」


 空を見上げた言葉ちゃんは、残念そうにそう告げた。


 今日は七夕。そして外では雨が降っている。生徒会の企画で笹や短冊を用意し、こうして大量に吊るして校舎の入り口に置いてあるのはいいものの、空には届きそうになかった。


 ……まるで、「願いなんて聞き入れてやるものか」と言われているようで。

 勝手に、それもそうか、と納得した。


 ……願っても、どれだけ必死に願おうと、叶わない時は叶わないのだ。


「……七夕に降る雨って、酒涙雨っていうらしいね。彦星と会えなくて泣いてる、織姫の涙とか言われてるみたい」

「……そうなんですか」

「この涙はきっと、彦星には見えてるよね。だからその感情も、伝わってるよね」


 その言葉に、顔を上げる。隣にいる彼女の方に目をやると……彼女は目を閉じ、両手を握っていた。


 願う、というか、祈っていた。

 全ての人の願いが叶いますように。そう、言っているようで。


 その祈りは、雨の隙間を縫い、雲を突き抜け、空に届くような気がした。


「……そうですね」


 きっと、届いている。


 願っても叶うとは限らない。泣いても、愛しい人に会えるわけではない。

 でも、結果じゃない。その行為自体に、意味があるのだ。



 ふと気になって、聞いてみたくなった。全ての人のために祈る、彼女に。


 貴方の願い事は何ですか、と。

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