Day6「アバター」(小鳥遊言葉)

「もし自分の分身が現れたらどうする?」


 僕の言葉に、灯子ちゃんが顔を上げた。そして訝しげな表情を浮かべている。まあ、それもそうか。


「ほら、考えたことない? もう1人自分がいたら~……とかさ」

「……ないです」

「わ~、フラれた」


 僕がケラケラ笑うと、彼女は黙って睨みつけてくる。その話に何の意味があるのだ、とでも言いたげだ。……だけど、話に付き合ってくれる気はあるのだろう。彼女は口を開いた。


「……貴方の分身がいたら……更にうるさくなりそうですね」

「人をそんな騒音製造機みたいに」

「……大差ないでしょう」


 酷すぎる。この後輩、先輩のことを人だと認識してくれてない。


 ……まあ、僕だって別にないんだけどね。自分がもう1人いたら、なんて。ちょっと怖くてさ。

 あ、でも、生徒会の仕事が分担できるだろうから、それはいいかも?


「……自分は、ありませんけど」


 そこで灯子ちゃんが、ぽつりと呟く。


「他の人が、もう1人いたら、とは、考えたことあります」

「……そっか」


 教えてくれたけど、それ以上は何だか喋りたくなさそうだ。すぐにそう判断し、返事はそれだけに留めておく。

 その他の人とは誰なのだろう。気になった、けど。……やっぱり聞けなかった。


 僕たちは元々、付かず離れず。……そういう距離感だし。

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