Day5「蛍」(墓前糸凌)

 俺のよく知っているやつが、視界に入ってきた。彼は沢山の女子生徒にキャーキャー言われながら囲まれていて、しかし嫌な顔など一つもせず、それらに応対している。

 傍からこうして見ると、さながら蛍光灯に群がる蛾たちだ。


 ……ああ、でも、真ん中に立ってるあいつ。蛍光灯と言うにはきらびやかに光りすぎている。自然に住んでいる蛍、と言ったほうがぴったりだな。


 ……まあ周りの女子生徒たちが蛾みたいだと思うのは、変わらないが。


 あいつもよく、面倒に思ったりしないよな、と思いながら見ていると、あいつがふと視線を上げる。そのまま、俺と目が合った。


 糸凌、とその口が動き、彼は俺に軽く手を振る。決して近づいては来ない。彼には今、女子たちを相手にする方が大事だから。

 だから俺も、閃、という形に口を動かし、軽く手を振り返す。すると彼は、とても嬉しそうな満面の笑みを浮かべて。


 ……ああ、やはりあいつは蛍だな、なんて思いながら、俺も小さく笑い返すのだった。

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