Day2「透明」(伊勢美灯子)

 雨粒が空から降りて、落ちていくのを眺める。彼らは自分たちの存在をろくに示すことも出来ないまま、地面に吸い込まれていく。そうしていつか、また空へと戻っていく。やはり実体は伴わないから、私たちの目に見えることもない。

 ……この世には、私たちに見えていないことがどれほど存在するんだろう、と思う。空気、、時間、幽霊、人の思い──……。


「雨、上がったね。帰ろっか」


 隣にいる言葉ちゃんが、私にそう声を掛けた。言われて顔を上げると、そこには青空がのぞき始めている。いつの間に、と思い、私は静かに息を吐いた。


 前に躍り出る影がある。それが誰かということは、もう聞くまでもなくて。彼女はその艶やかな髪を揺らし、こちらを振り返った。その髪も、深紅の瞳も、空から舞い散る光に透ける。きらきらと、散っている。

 こんなに存在感のある人なのに、今にも消えそうだ、なんて思う。


「……そうですね」


 掴む、なんてことはしない。精々私は、隣を並んで歩くだけだ。そうやって、彼女が「ここ」にいるということを確認する。

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