第31話

 「着いてしまったわ」


 震えた声でルティアン様が呟いた。

 止まった馬車からは、そびえ立つ立派な教会が見える。20年程前にこの立派な教会に建て替えたと言う。

 協会は、しっかりとした塀に囲まれていて、門の左右には聖兵と言って、教会専属の門番が立っていた。

 ここからは、乗って来た馬車では入れない。なので、私達三人は馬車から降りた。


 「お待ちしておりました。ルティアン嬢とそのお付きの方。中へどうぞ」


 なぜか私が先頭を歩き、ルティアン様とお義母様が並んで後ろをついてきた。

 堂々としている私と対照的に二人は、おっかなびっくりなご様子。もう、ラフリィード侯爵が脅すから。


 相手が私達に何かしてくる事はないと思われる。聖女ではありません。ご苦労様でしたと、追い返すだけ。

 けどこちらが仕掛ければどうかわからないけどね。


 ところでルティロン様はどうしたのかしら? 今日は朝からいなかったわ。

 お父様の所にでも行ったのかしらね。でも残念ながら、今日はこちらに潜んでいるはずよ。この警備をかいくぐり、忍び込めたのかはわからないけど、お父様なら大丈夫よね?


 門をくぐると、女性兵がいた。

 ここからは、女性しかいない聖域。


 「失礼ですが、こちらの部屋で身体検査をさせて頂きます。荷物も確認させていただきます」

 「し、身体検査とは、一体……」

 「服の上から身体に触り、武器などないかの確認を致します」

 「まあ、触れるですって!?」


 お義母様が、驚きの声を上げる。きっと、こんな目に遭った事などないのでしょうけど、これをしないと私達は中に入れない。


 「こちらです」

 「行きましょう。触れるのは女性ですから」

 「武器など持っているわけないでしょう……」


 ぶつぶつと言うお義母様をなだめつつ、検査の為の部屋へと入った。窓はなく入った扉の正面にも扉がり、あとはテーブルがあるだけだ。

 そのテーブルに手荷物を乗せる。

  って、私は何も持ってきていないので、身体検査だけですが。


 「失礼します」


 首元から肩、腕に胸まで触れている。結構しっかりチェックするのね。背中に腰、おしりも。

 これは、二人にはちょっと……。


 「きゃぁ、何をなさるの!?」

 「チェックです」

 「ここまで行うのですか? 私達は、招待されて来たのですよ!」

 「規則ですので」


 ガツッ。


 「痛……」

 「あら、ごめんなさい。さすがにそれはやりすぎでしょう」


 ドレスのスカートの中にまで手を入れようとしたので、反射的にその手を踏んずけてしまったわ。

 これを見たルティアン様が叫ぶ。


 「もういや! 帰るわ」

 「お待ちください!」


 私達が帰ってもいいだろうけど、ルティアン様は困るでしょう。たぶん、私がいるから普段よりしっかり目に行ったのよね。


 「失礼致しました」

 「では、もう宜しいかしら?」


 私が問えば、頷いた。


 「あとは、こちらの中身を確認させて頂きます」

 「それは、聖女様への贈り物よ」


 暗黙のルールとして、聖女候補は聖女へ贈り物をするらしい。

 一応、箱を開けて中身を見せた。ネックレスが入っている。


 「宜しいでしょう。そちらの扉から出ると馬車があります。それに乗り、教会内にお入り下さい」


 やっと解放され、場内を走る馬車へと乗り込む。


 「何なのよ。聖女候補を疑うってどういう事ですの?」

 「やはり、この国は野蛮ね。ルティアン、聖女ではないと結果が出たらすぐに立つわよ」

 「はい! お母様」

 「………」


 さらにこの国が嫌われてしまったわ。

 でもこれで確信を得た。相手は私をかなり警戒している。陛下からお父様を通じ、私を同行させるように言われたに違いなと思っている。


 まあ、あながち間違ってはいないわね。

 陛下はこうなる事を見通して、ラフリィード侯爵にまだ取り残しがいると伝えたのだから。その上で、絶対に行けと命令するのだから、私が必然的に行く事になる。

 ですが陛下、彼女達は私がロデだとしらないのですから、普通の令嬢ならこうなるでしょうね……。


 「ねえお母様、やはり今から出引き返せないかしら?」

 「そうね。もし万が一、あなたが聖女だった場合、このまま帰れない事もあり得るですものね」


 二人がかなり心配なさっているけど、それはない。私もそれは、確証を得ているから。二人には言っていないけどね。


 「ルティアン様、お義母様。私がついておりますわ。それにお義父様も言っておられたでしょう。聖女ではないと」

 「そうは言っても……」

 「いい、メロディーナ。あなたが父親から護身術を習ったとはいえ、あなたは普通の令嬢なのですよ。危ない真似はしてはなりません。皆で全力で逃げるのですよ」

 「わかりましたわ」


 私の返事を聞いて、お義母様は安堵したご様子。

 普通の令嬢ではないので、心配ご無用なのですがね。

 それに相手は全員女性。だったら力では負けないわ。

 ただ二人が私のいう事を聞いて下さるかよね。私を置いて逃げてくれないのなら、目の前ではしたない行動をしなくてはいけなくなる可能性がある。

 ルティロン様に叱られそうね。恨むわよ、陛下!

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男装令嬢は侯爵家に嫁入りしました すみ 小桜 @sumitan

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