第30話 騎士団一般部隊副隊長視点
「ロデです」
「入れ」
「失礼します」
やはり来たかメロディーナ。
陛下は、今回はよっぽど手詰まりだったようだな。この俺が自ら動くように手回しするとはな。
「バルディ卿、これを持っていけ」
「はい」
書類を受け取ったバルディ卿は、娘を睨みつつ部屋を出て行った。
「お父様! これはどういう事です!」
「ふう。私も先ほど知らされた」
「え! 本当に知らされていなかったのですか?」
「まあそこら辺の事は後でな」
まさか、先にルティロンを送り込ませていたからここまで手を回すとは思わなかったな。
◇
「お願いがあります。ここで俺を雇って下さい」
「喧嘩でもしたか?」
ルティロンが突然訪ねて来て何を言うかと思えば、未来の外交官をここで雇えるわけもあるまい。
「いえ喧嘩はしてません。俺は元々父上の跡を継いで外交官になるつもりはないのです。執務官に必要な資格は持っております。どうかお願いします」
本気なのか、俺にルティロンは頭を下げた。
「だとしても無理だ。外交官にならないという話し合いをまずして来い」
「ですよね……。では、ここで働いている事にして頂きたいのですが」
「は?」
どういう意味だ? ここに居ると言う証明をラフリィード侯爵にすれと?
「ここに居るという時間は、どこで何をする気だ?」
「……内偵です」
「内偵だと? どこに?」
「教会です」
「……き、気持ちはわかるがあそこは基本女性しか入れん」
まさか妹が心配のあまり内偵しようと思うなどとはな。
「知っています。だから女装して……」
「待て待て! もし万が一それがうまく行ったとして、その後バレたらただじゃすまないぞ」
「はい、わかっています」
「ならん。妹が心配なのはわかるが……」
「そうですが、メロディーナに回されるよりはいいかと思って引き受けたのです」
「……引き受けただと!?」
いつの間に? 陛下と面会したのは昨日だぞ。その後、接触があったような形跡はなかったのに。
「結婚式のお願いに上がって、俺とメロディーナが打ち合わせの為に宰相と一緒に部屋に移りましたよね。その時、俺だけに宰相が提案してきまた。どうやら教会で掃除係を募集しているようなのです」
「確かに君は、女装すれば見た目完璧な女性に見えるが、その声では騙せないぞ」
「はい。ですから変声ドロップを頂きました」
変声ドロップまで用意してあったか。こちらから訪ねて行ったのは、向こうにすれば嬉しい誤算だったと。
聖女の侍女やラフリィード侯爵家の聖女事件などがあり、使用人が数人恐れをなして辞めたと聞いた。しかし、向こうも素性の知れない者は雇わないと思うが。
「俺は、男爵の娘として忍び込む予定です。通いの使用人なので、奥には入れませんが、出入りする人物を探れます」
「なるほどな。わかった。ラフリィード侯爵にも内緒で動くという事だな」
「はい。ご迷惑をおかけしますが、こうするしか思いつかなくて」
「いや、すまなかった。陛下がそこまで考えているとは思っていなくてな。でもまあ、採用されなければそれまでだがな」
「宜しくお願いします」
こうして、無事? 採用されたルティロンは男爵令嬢に扮し教会で使用人として働き始めた。
それを隠したまま結婚式を挙げ、今日に至るわけだ。
◇
「お父様? あ、いえ副隊長」
「おっとすまない。まず聖女候補は、ルティアン嬢を入れて三人。いずれも青い瞳の少女だ。子爵が一人に伯爵が一人」
「副隊長は、どの令嬢が怪しいとお思いですか?」
「わからんな。住まいもバラバラで教会と接点もない。ただ外国の商人が教会に出入りしているらしい」
カシュアン侯爵家は、それも掴んで脅したようだ。だがその商人を未だに捕らえられていない。
一見教会と接点がない貴族もその商人を通して、教会と連絡を取り合っているのだろう。
だが今回、カシュアン侯爵家が捕まった事により発覚を恐れて、その商人はイムゲン王国に入国をしていないようだ。
きっと、他にも内通している商人がいるのだろう。
「そうですか。協会に商人ですか」
「まあ閉鎖的ではあるが、聖女は令嬢だ。ほとんど外へ出ないが、おしゃれを楽しむのに商人の出入りはある」
「そうなのですか?」
「問題は、外国の商人だって事だろうな。手が出しづらい」
海外から仕入れたとしても我が国の商人を呼ぶはず。危なくなったら、他国の者なら海外に逃げられたらこちらからは手出しできない。
「なるほど。でも暫くは接触してこないでしょうね」
「うーん。選ばれた者達へ近づく商人はいなかった。協会もな。判定式に訪れるかもしれない。もし何かあれば、いつも通り合図を送れ」
「了解しました」
まったく。メロディーナを巻き込んだ埋め合わせはしてもらうぞ、陛下。
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