第29話

 「王命とは、どういう事なの」


 ラフリィード侯爵夫人が不安そうに問う。


 「先ほども言った様に、カシュアン侯爵家が手を回し聖女候補を自分だけにした。これは、教会側にも仲間がいないと出来ない事だ」

 「待って、あなた。まさか、未だにその者は捕まっていないと言う訳ではありませんわよね?」


 ラフリィード侯爵夫人が少し声を荒げて更に問うと、ラフリィード侯爵が目を伏せた。


 「一応捕まえたが、どうやらまだいるようなのだ」

 「父上? まさかルティアンに内偵をさせるつもりですか?」


 ルティロン様が驚いて聞いた。

 ルティアン嬢は、私と違って普通の令嬢だと思う。なのに内偵!?


 「あそこには、女性しか入れない。陛下も今回の事があったので、オープンでと言ったのだが首を縦に振らなかったようだ。その代わり、家族がついて行ってもいいという事だ」

 「家族って、私がついて行ってもルティアンを守れるかどうかわかりませんわ! そんなところに行かせるわけにはいきません!」

 「俺も反対です! それなら俺が女装でもして……」

 「ダメだ! お前は顔が知れている可能性がある。そこで、メロディーナ。君にお願いしたい」

 「え? 私?」


 私は、つい目をぱちくりとして驚いてしまった。ロデとしてではなく、メロディーナとしてそのまま護衛をしろと言われたから。


 「まあ、あなた。彼女が行っても同じ事ですわ」

 「いいえ。私は騎士の娘。護身術は教え込まれております。お二人を逃がす事なら可能ですわ」


 本当は、やっつけちゃう事も出来るけど、メロディーナでそれをやってしまうとロデだとバレてしまう可能性がある。


 「だとしても、娘をそんな危ない目に遭わせるわけには参りません!」

 「お義母様……」


 もしかしたら嫌われているかもと思っていたけど、ちゃんと娘だと思っていて下さったのですね。


 「問題ない。ハルサッグ伯爵からは了承を得ている」

 「私が了承しないと申しているのです! 大体なぜ、私達がその役目を負わなくてはいけないのですか?」

 「わかっている。だが今、教会側の権力を削いでおかなければダメだと陛下が判断したのだ。陛下ですら聖女に自由に会えない。下っ端を捕らえたが、誰が糸を引いていたのかわからない」


 ダン!

 テーブルを叩いた音が響き渡った。


 「そんな状況でルティアンにメロディーナまで送り込めるわけないだろう!」


 ルティロン様が、グーでテーブルを叩いていてた。


 「……このままだと、第二のカシュアン侯爵家が出ると陛下は仰った」

 「それって、今回上がった聖女候補に偽物が紛れ込んでいると?」


 私が聞くと、ラフリィード侯爵が頷く。


 「で、ですが、その判定式で本物がわかるのですよね?」

 「それが捏造されるかもしれないと、陛下が懸念されている。自然な形で入り込むのには、二人の協力が必要なのだ」


 きっと、ラフリィード侯爵も無理だと言ったに違いない。けど、私がいた為に逆にルティアン嬢が利用されてしまったのだわ。私が居るのだから安全だと。大丈夫だと。


 「わかりました。必ずお二人を守ります。後、明日にでもお父様と少し打ち合わせをして参ります。きっと私がいるから大丈夫だと言われて断れなくなったのでしょう。申し訳ありません」

 「そ、それは……」


 私が謝ると、ラフリィード侯爵は困り顔になった。やっぱりね。


 「あなたが謝る必要などありません。護身術を習っていようと令嬢ではありませんか。それを駒の様に扱うなど、やはりこの国は信用できませんわ」


 あらら。人間不信どころか、国不信になってしまったわ。


 「話が違う……」


 ルティロン様が、ボソッと呟く。

 気持ちわかるわ。あれで私達の役目は終わったと思ったのにこんな事になったのですものね


 「もし万が一の事を考えて、合図を送ったら強行突破で助けに入ってもらえるように、お父様に言いますわ」

 「ですが、それを陛下がお許しになるかどうかわかりませんわよね?」


 ルティアン嬢が、不安そうに言う。

 彼女は、嫌でも行かなくてはいけない。内偵しなくても。たぶん、それをするのは私でしょうね。


 「命より大事なモノはありません。陛下がダメだと言ってもお父様なら手配して下さいます」

 「そ、そうよね。自身の子が危ない目に遭うのだら」

 「大丈夫です。綿密にお父様と打ち合わせをします」

 「ありがとう。メロディーナ」


 ラフリィード侯爵夫人が目に涙を浮かべてお礼を言ってくれた。

 もうこれ、私がロデだと暴露した方がいいのではないかしら?

 そう思ってラフリィード侯爵を見れば、軽く顔を横に振った。まだダメらしい。

 まあ確かに今暴露すれば、私がロデだから巻き込まれたと言うわね。聖女の判定式に行かなくてはいけないのだから、私がいなくても参加はしなくてはいけないだろうけどね。

 私がいる為に、聞かなくてもいい話を聞かされて不安な思いをさせてしまったわ。

 たぶん、教会内で襲う事はしないでしょう。でも捏造は行うかもしれない。でもそれを私が見破れるかどうかはわからないのだけどいいのかしらね。

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