第28話
「では、行って来る」
「お待ちになってあなた。今日も彼女を連れて行く気ですか?」
ラフリィード侯爵とルティロン様が出かけようとすると、ラフリィード侯爵夫人がそう声を掛けて来た。
やはり今日も言われてしまったわ。私も連れて行くのかと。
「まあ、いいじゃないか。新婚の今だけだ」
ラフリィード侯爵がそう答えるけど、今だけではなく今後もだけどね。
「いいだろう。連れて行くぐらい」
「いいわけがありません。って、ちょっとお待ちなさい」
二人が行くので私も馬車へと乗り込んだ。
結婚式を挙げてから一週間が経った。
二人は仕事へ、私はルティロン様の職場へついて行くという事になっている。
――が、本当はロデとしての出勤。
いそいそと二人の前で、コートを脱ぎカツラを取る。
「やはり私の事を話した方が宜しいのでは……」
何だか、凄く申し訳ない。
「わかっている。どう切り出そうかと悩んでいるところだ……すまないな」
「いえ、そうではなくて。私の事でご迷惑をお掛けしてしまって申し訳なくて」
「迷惑だなんて思ってないよ」
ルティロン様がそういうけど。喧嘩にならないか不安だわ。
「近日中には話すから……」
ラフリィード侯爵の方が申し訳なさそうに言った。
ルティロン様がロデとして居ていいと言って下さったからよかったと思っていたけど、ラフリィード侯爵夫人を未だに騙しているからこの生活を続けていいのかどうか。
「メロディーナが気に病むことはないよ。母上に言っていないのはこちら側の事情だからね」
「うん……あ、おりますね。行ってきます。行ってらっしゃい」
「行ってらっしい。気を付けてね」
私は、馬車を降り歩いて職場へと向かった。これもバレそうで心配だけど、ラフリィード侯爵夫人が私がロデだと知らないから一緒に出て行くしかない。
「おはようございます」
「おぉ、おはよう。このごろ徒歩だな。とうとうお金がなくなったか!」
「嬉しそうに言うな」
「あはは。そう言えばさ、知ってるか? 副隊長の娘が王城で結婚式したって事」
「え!」
なんで知ってるの?
私が結婚したと知ったとしても不思議ではないけど、どうして王城でという事を知っているのか。貴族の間では有名でも、平民には関係がないから流れる噂でもないはず。
「これ見ろよ! いやぁ。昨日さ、副隊長に聞いたんだよ。そうしたら本当に王城で結婚式したんだと。その相手が外交官の息子だと言うから驚きだよな」
「ゴシップ誌に掲載されたのか」
「そうそう。ここにな。伯爵家の娘が侯爵家に嫁ぐ。しかも王城で結婚式だなんて。さすが副隊長!」
これで結構尊敬されているんだよね、お父様って。
見せてもらったゴシップ誌には、外交官の息子の結婚式が王城で行われた。相手は、騎士団一般部隊副隊長の娘と書かれていた。
私達の名前は出てないけど、ルティロン様がここに通いつめ、お父様に詰め寄っただの。に、妊娠させただのと書かれていた……どうしてそうなる。
「あ、妊娠はしてないとさ。早く孫は見たいって言っていたなぁ。息子は相手すらいないから期待できないとか言っていたし。来年には初孫で、デレデレの副隊長を見れたりしてな」
「あ、うん」
それはないかな。私がロデとして通うのに、妊娠するわけにはいかないからね。
でも、ラフリィード侯爵家はすぐに子が産まれなくてもいいのだろうか?
今更気が付いても遅いかもだけど。
◇
「えーと、だな」
夕食後、ラフリィード侯爵が話があるからと私達はリビングルームでお茶を頂いている。
とうとう話す事にしたのね。
「聖女の判定式が行われる事になった」
「「え?」」
ラフリィード侯爵の言葉に全員が驚く。てっきり私の話かと思えば、聖女の話だった。そういえば、それもまだ解決してなかったわね。
「嫌よ! 聖女になんて……」
「落ち着け。ルティアンが聖女になる事はほぼないだろうからな」
「「はい!?」」
まさかの言葉に私も驚いてしまった。
本当の聖女だから命が狙われていたわけではないの?
「どういう事ですの、あなた」
「そうですわ。私は、聖女だから命を狙われていたわけではなかったのですか?」
「……実は、聖女候補が数人あがった」
「え……どういう事ですの?」
ルティアン嬢が更に驚きの声を上げる。
「どうやって聖女かもしれないと判断しているかわからないが、普通は数人の候補者が居て、教会で最終的に判定式を行う事になるらしい。今回、カシュアン侯爵家が手を回し、カシュアン侯爵家以外の候補がいないように仕向けたようだ」
「そんな事が可能ですの?」
「出来たのだろうな。やってのけたのだから。そこにルティアンが出て来た。本物かどうかなど関係なく、候補者がいると困るのだろう。だから命を狙った」
「そんな。関係がないのに命を狙われたというの!」
「まあ、それを確かめる為にも判定式に行ってほしい」
「え……行かなくてはいけないのですか?」
「王命だ」
ルティアン嬢の言葉に、神妙な顔つきでラフリィード侯爵が返した。
それって、何か裏がありそうですね。
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