第15話

 「メロディーナ、喜べ! 婚約が決まった」


 呼ばれたので部屋に行けば、嬉しそうにお父様がそう言った。

 コンヤク……婚約。


 「婚約!?」

 「そうだ」

 「一体相手は誰ですか?」


 今までそんな話、一度も話題になった事もなかったのに。


 「ラフリィード侯爵家の息子、ルティロン子息だ」

 「え! ラフリィード子息!? お父様、脅したのですか!」


 私は、ソファーから勢いよく立ち上がり聞いた。

 彼が、私と婚約したいなどと言い出すわけがない。ロデだと知っているのだから。そして、ラフリィード侯爵が知っても言って来ないはず。メリットがどこにもないもの! いやむしろデメリットしかない。嫁が騎士だと知れたら醜聞になるだろうから。


 「お、落ち着け。別に脅してなどいない。これは政略結婚」

 「え? 普通それって、お互いにメリットがあって成り立つのではないのですか?」

 「まあな。ラフリィード侯爵家にとって結婚自体にメリットはない。だが事を収束するのには、必要な事だ」

 「意味がわかりません」


 そう言うと、陛下を交えラフリィード侯爵家と作戦を立てた事を聞いた。

 私とラフリィード子息が、ロデとラフリィード嬢に扮し逢瀬を重ね、相手に二人がいるところを狙わせる作戦のようです。

 うまく行くのかしらその作戦。


 「逢うのは平民街だ。相手もそこでは狙わない」

 「なぜですの? 凄く狙いやすいと思いますけど」

 「だからこそだ。それにロデがいるのにあからさまに仕掛ければ、ラフリィード嬢を狙ったのがわかる。つまり聖女を狙ったとな。それに人目につけば、足も付く。もしこの前のいざこざを目にしていれば、ロゼが剣だけが強いわけではないと知っているだろう。相手は、ラフリィード嬢の代わりに聖女になりたいのだから、自身が疑わられる事がない様に事を運びたいはずだ」


 うーん。でも十中八九、カシュアン侯爵家ではないの?


 「カシュアン侯爵家を捕まえちぇば?」

 「証拠がなければ無理だ。それに逆にラフリィード侯爵が仕掛けた事かもしれないとなれば、これまた大変な事になる」

 「だったら陛下の命で、カシュアン嬢とラフリィード嬢の聖女鑑定でもしたらいいじゃないですか」

 「私もそう思っていた。だが実は、母親と本人のルティアンはまだケイハース皇国にいるそうだ」

 「え? 戻って来ていなかったの?」

 「あぁ。陛下にもそれを伝えていなかった。今日、陛下も聞いたのだ。ルティアン嬢にしてみれば、ケイハース皇国で育った。生まれはイムゲン王国だけどな。それなのにこんな事に巻き込まれ、聖女として一生教会で過ごすのは嫌だと言っているらしい。まあもっともだな」

 「そうえいば聖女の条件って、この国に住んでいる者ではないのですね」

 「生まれが関係しているらしい。だがこれもな……」


 彼女が選定から漏れていたのは、どうやらちょっとした行き違いからだったみたい。

 母親が二人を妊娠したのは、ケイハース皇国にいる時で安定期に入り少しずつ移動して、祖国であるイムゲン王国で産もうとしていた。

 そして、無事イムゲン王国に入国したのだが、すぐに産気づいてしまう。そこは辺境の地。

 これ以上移動は無理だと、お産が出来そうなところで無事出産。早産だった。

 だが幸いに、子供達は元気だ。だが、三人を連れて長時間移動するのは無理だった為、ケイハース皇国の辺境地に移動した。

 そちらの方が、過ごしやすかったから。そして、落ち着いても結局ケイハース皇国で過ごす事にした。夫人が気に入ったからみたい。


 で、二人の出産届だけど、一応届け出をしたがすぐにはしなかった。なぜなら外交官の家族も狙われたりするからだ。

 安全な場所に移動するまで控えていた。その為、出産日と届日に差が出き、ケイハース皇国で出産した為に、届け出が遅くなったと勘違いされ子供たちの出産場所はケイハース皇国と資料には記されていたのだった。

 それが聖女事件で色々調べている時に気が付き連絡を取ったところ、ケイハース皇国ではなくイムゲン王国に入ってからの出産だった事がわかった。


 よくわからないけど、わざわざそんな子を選ばなくてもいいと思う。だからと言って、カシュアン嬢の様な者を選ばれても嫌だけど。


 「そういうわけで、ロデとしてだが二人の仲を深めておくといい」


 お父様。確かに相手はラフリィード子息ですが見た目はラフリィード嬢なのですよ? そりゃもう完璧にラフリィード嬢なのです。でも声を聞けば彼なのですけどね。深められるのでしょうか。まだ打ち合いの方が深まる様な気がするのは私だけかしら。

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