第14話 ルティロン視点

 「ルティロン、部屋に来なさい」


 父上が帰って来て早々、俺にそう声を掛けた。

 青い髪には少し白髪が混ざっている。まだそんな歳ではないと思うが、気苦労が絶えないのだろう。

 少し気難しい顔つきで、自分と同じ碧眼で俺を射抜く。まさか、何か向こうであったのだろうか。


 「ルティロン、私に全て話さなかったようだな」


 座ってすぐにそう切り出してきた。きっと昨日ハルサッグ嬢といやロデと一緒に出掛けた件だろう。

 俺は父上に、ハルサッグ嬢とロデは父親の副隊長を通し知り合いで、お茶会を一緒にし、帰り際に寄り道をしようと言われ、街へと繰り出した。と説明した。

 もし、賊が襲ってきたらと言われたが、囮になるつもりだったと言えば、かなりきつくお灸を据えられたが。


 父上は、何を知ったのだろうか。


 「午後から陛下に呼ばれ謁見してきた。そこに腹心であるハルサッグ伯爵がいた」


 え? ハルサッグ伯爵が腹心?


 「そして、お前が言っていたロデの正体を聞いた。彼女がなぜ、お前に正体を明かしたか、笑えない冗談かと思う理由もな」


 あ、俺を女だと思い男装しているお仲間だと思ったと。それ話しちゃったんだ副隊長に……。うん? あれ、今……


 「陛下に謁見して聞いたと言わなかったか?」

 「言った」

 「え? では、ロデの正体を陛下もご存じなのですか……」

 「さすがに男爵位を授かる時に正直に話したのだろう」

 「まじか……」


 ボソッと呟けば、そうだと父上は頷く。マジだと。


 「ハルサッグ伯爵の事は知っているな? 元特殊隊所属だと。彼はそこのただの隊員だった。けどそれは、動きやすい為。あまりの働きに目立ってきた為に一般部隊の配属にしたのだ。まあ昇級という形をとってな」

 「え? 娘の為に移動したのではないのですか?」

 「タイミング的はそうだな。まあそれは今はどうでもいい。彼は先手を打ってきた。娘を利用させないようにな」

 「え? ど、どんな……」


 まさか陛下を味方につけて、俺達侯爵家を脅してきたというのか。


 「ルティアンとロデの逢瀬だ」

 「っは? 逢瀬とは……」


 昨日の話の事だろうけど、逢瀬になるのか? いやなるのかもしれない。


 「二人は、ハルサッグ嬢を通し知り合い、惹かれ合ったという筋書きだ」

 「え? それってルティアンにさせる気ですか?」

 「何を言う。やりだしたのはお前だ。責任を持って最後まで続行しろ」

 「は? それって女装してロデと会えという事ですか?」

 「そうだ」


 もう女装などしないと思っていたのに! なぜそんな話になるんだ。


 「そんな事をしてどうする気ですか! だいだい、娘を思いっきり利用しているではないですか!」

 「いや、ハルサッグ嬢は何も関係ない。表向きはな」

 「………」


 いや表向きはそうだが、命の危険が伴うと理解しているのだろうか。

 相手は、侯爵家に賊を仕掛けてくる相手なんだが。


 「言いたい事はわかる。だが、最初からロデの仕事は命を懸ける仕事だ」

 「だとしても、向こうに利益がありますか? 陛下が知っている以上、ロデの素性の事はどうにでもなるでしょう」

 「……婚約だ」

 「へ?」

 「お前とハルサッグ嬢の婚約」

 「はぁ? それ承諾したのですか!?」


 神妙な顔つきで父上は頷いた。

 嘘だろう。そんな簡単に承諾する内容じゃない。メリットがこっちにないだろうに!


 「脅されたのですか? 少なくとも彼女にはその意思はないですよ」

 「はぁ……。軽率な行動をするからだ。いいか、これからある作戦を行う。それに気づかれた時の為の保証の婚約でもある」

 「どういう事ですかそれ?」

 「そもそも囮になるのは、お前とハルサッグ嬢だ。もし変装がバレたとしても、本当に二人が婚約している中なら問題ないだろう」

 「ロデがハルサッグ嬢だと相手に知れて暴露されたとしても、俺が彼女を引き取るからって事か?」

 「まあ、そうなるな。これは、陛下を含めた話し合いで決まった。聖女に関係する事でもあるので、お前達には協力してもらう」

 「……俺はいいけど」


 自分で招いた事だ。あの時、彼女は街へ出るのを諦めていたのに行こうと言ったのは俺だ。もう少し一緒に居たいと思ってしまったからだったが。

 まさかそれが、こんな事になろうとは。


 「しかし、彼女いやロデはかなり強いらしいな。お前ボロ負けしたそうじゃないか」

 「……彼女は強すぎます。しかも情け容赦ないです。女ではなく男だと知ると、痣を作っても問題ないと、打ち合いにしてきてボコボコにされました」


 俺は遠い目をして言った。彼女、楽しそうだったな。ヤバい奴じゃないよな?

 人をボコボコに出来るから騎士になったとか言わないよな……。

 彼女を思い出そうとすると、ハルサッグ嬢の姿ではなくロデの姿が目の前に浮かぶ。ダメだ。令嬢姿の彼女が思い出せない!?

 ロデの印象が強すぎだよ。

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