第13話

 「おはようございます」

 「おはようございます、ラフリィード卿。今日から手合わせOKが出ました」

 「そ、そうか。お手やらかに頼む」

 「何を言いますか。手加減などしません」

 「………」


 驚いているわね。手加減などしたら意味がないではありませんか。

 まず実力を知って頂かないとね。


 「わかった。全力でお願いします」

 「泣かないでね」

 「な……この~」


 いつもなら行きますとか言うけど、それをなしで剣を振り上げて来た。

 最初の頃から比べれば、大振りではなくなり単調でもなくなったわね。凄く上達はしたと思うけど、次にどうすると目を見ればわかっちゃのよね。


 かつん。

 ラフリィード子息の木刀が空を舞う。


 「あ……」

 「ふふふ。次は、体を狙います。叩かれたくなかったら頑張って凌ぎなさい」


 木刀を拾ったラフリィード子息目掛けて、私から仕掛けると彼は驚き攻撃を木刀で防ぐが、すぐに次を出せば防ぎきれずに、痛みに顔をしかめる。


 「剣なら腕がなくなっているな。ほら、次行くよ。やめてほしいなら言えよ」

 「な……誰が」


 ラフリィード子息は、防戦一方になった。

 まあ攻撃させる隙など与えませんけどね。


 「……く」


 10分も経てば、ラフリィード子息は膝をついた。


 「もう降参?」

 「まさか!」


 彼は、私を睨みつけて立ち上がる。

 あれ? 怒らせちゃったかな。まあそれぐらいじゃないとね。

 私が女だと知っているから、無意識に本気になってないかもしれないから。


 「さっきよりはいいよ。力み過ぎだけど」


 迷いがなくなった感じかな。それなのに当たらない。まあ、今までとそれは一緒だろうけど。こっちも攻撃するから反撃を意識しながらの攻撃になっている。

 本来はこうでなくてはいけない。


 「はぁはぁ……」

 「一つヒントを上げる。目で悟らせてはいけない」

 「え……目を瞑れというのかよ」

 「目線で次の攻撃の場所がわかるって言っている」

 「あ……なるほど」


 言っている事は理解できたようだけど、それをせずに攻撃をするのは難しいだろうね。それを言われて出来るのならかなり優秀だ。


 「それと、僕はミラーだ」

 「一つと言って二つ目のヒントをくれるんだな」

 「あ、本当だ。まあいいや。背丈が同じぐらいだから……って、おっと」


 なぜか凄く怒ってるのだけど? 一瞬無意識に剣を振った。


 「悪かったな! 背が低くて」

 「え? そういう事ではなく、リーチが同じだって事を言いたかったんだ」


 彼も背丈にコンプレックスを持っていたのね。


 「……ミラーってそういう意味か」

 「まあわかっても、動けるかと言う問題はあるけど」

 「……とに、いつも一言多いんだよ」

 「え~。本当の事を言っているだけなのに」

 「わかってるから言わなくていいんだ!」

 「ふーん」

 「やっぱ、ムカつく!」

 「あははは」

 「この~。笑うな!」


 何だか楽しい。ふざけ合ってるような、本気のような。

 彼との打ち合いは、他の者とするのと違うわね。なぜか楽しい。


 「滅茶苦茶楽しんでるだろう」

 「あ、わかった?」

 「くっそ~。そのうち絶対に負かしてやる!」

 「うん。その意気」


 でも気合だけでは、打ち合いは続けられない。

 両膝を尽き両手をついて彼は、肩で息をしている。


 「大丈夫?」


 ちょっとやりすぎたかな?


 「だ、大丈夫……」

 「今日はここまでにしよう。明日も来れる体力があったらおいでよ」

 「……どうやったらそこまで体力がつく?」

 「え? 体力?」

 「そっちだって、かなり動き回って木刀だって振り回しているのに、息切れしてないだろう」

 「まあ、小さな頃から走り込みと振りの訓練をしていたからかな。だからちょっとぐらい走ったり、振ったりしたぐらいでは疲れない」

 「……なるほど、道のりは遠いな」

 「まあ、やる気があれば続けられる。続ければ、ゆっくりでも強くなれる」


 やる気はあるから続けるだろうけど、ラフリィード子息はきっと焦ってる。

 死なない為に強くなりたいのなら、焦ってはダメ。

 逆に冷静にいられるようにならないと。勝てない相手ならどうやっても必要だ。


 「そうだな。今日はもう無理そうだ。相手してくれてありがとう」

 「いいえ。無理しないように」

 「あぁ、ありがとう」


 最後にラフリィード子息はほほ笑んで帰って行った。

 何だか、初めて見た様な気がするのだけど。焦り顔もかわいいけど、微笑もいいかも。って、私何考えてるのよ。


 「ロデも大変だな。侯爵様の相手。まあ手加減しているようには見えないけど」

 「明日は来ないだろうな。あれだけ打ちのめしたんだし」

 「え? 打ちのめした……」


 そういうつもりはなかったのだけど、周りからはそう見えていたのね。もしかして、手加減した方がよかったのかしら?

 でも命を狙って来る相手は、私の様な手練れなのだから。せめて、私の攻撃を防げるようにならないと、命はないと思う。

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