第12話

 「リリナ。メロディーナと二人で話したい」

 「はい。では何かありましたらお呼び下さい」


 珍しく二人っきりで会話をするらしい。リリナを下がらせたという事は、ロデの事ではないよね? なんだろう。秘密の話とは。


 「ラフリィード侯爵家に、ここまで関わったのなら話しておいた方がいいだろう。少しは、聞いたのだろう?」

 「え? まあ。命を狙われているとは聞きました」

 「聞いて連れまわすとは、呆れるな。お前もご子息も……」


 お父様は、大きなため息をついた。

 ですね。あの時は、テンションが上がっていたようです。


 「いいか。これは侯爵家だけではなく、国自体の大ごとだ」

 「は? 国自体? え、それを私に話すのですか?」

 「そうだ。どうせならロデの時に、ラフリィードのご令嬢とご子息を守れるようにな」

 「はぁ……。命を懸けてお二人をお守りしろという事でしょうか」

 「本来ならお前にそんな事をさせたくないが、侯爵が知ればお前を指名してくるかもしれない。それぐらいの事をお前は仕出かしたのだ」

 「す、すみません」

 「過ぎた事は仕方がない。陛下にもお話しておく」


 私は、頷くしかない。

 自分から付け込まれる事を仕出かしたのだから、覚悟を決めるしかないようね。

 そもそも女だからと言う理由で、仕事を優遇される職業ではない。


 「でだ、聖女の話は知っているか?」

 「え? 聖女? えーと……」


 そう言えば、この国にもそういう存在はいるのよね、確か。見た事はないけど。国の歴史で習った。


 「もしかして、ラフリィード嬢が聖女だとか?」


 お父様がそうだと静かに頷いた。


 「だと思われる」

 「思われる? 確定ではないと?」

 「あぁ。まだ確認をとれていない」

 「そうなのですか」

 「まずは、聖女の事を話そう」

 「はい」


 お父様の話だと聖女とは、地を浄化する者を指すらしく昔は、大々的に聖女を優遇し、彼女の偉大さをアピールしていた。

 そして、聖女選抜も大々的に行い聖女祭りなどもあったが、聖女と偽る者が出始めたのだ。

 その為、聖女としての特徴を発表するのをやめ、密かに聖女を探すようになったとか。


 聖女は教会が手厚く保護し、一応結婚も子を授かる事も可能。だが、聖女としての役割は一生なのだそうです。


 そして、今回の聖女の特徴は『原色の瞳』。協会から通達され、15歳以上の女性を対象に探していたのだが、その兆しがある者がカシュアン侯爵令嬢しかいない。

 おかしいと思っていたところに、外国にいるラフリィード嬢が該当する事がわかった。


 呼び寄せようとした矢先に聖女の一人が臥せり、国王だといえども簡単には会えないらしく聖女認定式以来の謁見だったが、行った時に聖女が陛下に『青い瞳の者は見つかりましたか』と言った。


 実は、新しい聖女の特徴を神託するのは現聖女達。

 聖女は、この国に今三人いるらしい。普通は、みな同じ神託を受ける。一人だけ違うなどあり得ない。


 陛下は、神託の言葉が捻じ曲げられている事に気が付いた。

 聖女から賜った神託は、教会の者が国王に直接通達する。


 そこで、秘密裏にラフリィード嬢を帰宅させる事を計画するも、イムゲン王国に入国してすぐに、馬車が襲われた。

 やはり、情報が洩れている。その為、ラフリィード嬢が教会に行くのを躊躇っているらしい。

 教会側にも偽聖女を企む者の手先がいるのは、確実だからだ。

 教会内に入れるのは、聖女かもしれない者のみ。家族は一緒に入れない。


 今まで聖女として有力だったのが、赤い瞳を持つソフィア・カシュアン嬢。

 もし、彼女を聖女にする為に神託を捻じ曲げたとするならば、あり得る話だ。

 青い瞳も含む為、嘘にはならないのだからと、教会の者を無理やり納得させ偽らせた可能性が高い。

 恐ろしい事に、聖女付き侍女三人とも殺害されていた。

 そして、臥していた聖女が亡くなり、今教会内は不穏な空気が流れている。


 「そういうわけで、お前がラフリィード侯爵のご令嬢を連れまわしたとわかって、凄く焦ったのだ」

 「そ、それは……驚きますね」


 そんな状況なのに、一緒に来るなんて! ラフリィード子息は何を考えているのかしら。もしかして、囮になろうと思ったとか?

 それならあの場所ではダメよね。


 「あ、そうだ。お父様。明日からラフリィード子息とは手合わせにしていいかしら?」

 「は?」

 「令嬢だと思っていたから痣を作ったらと思っていたのだけど、男なら問題ないでしょう」

 「い、今の話を聞いていたか?」

 「はい。もちろん。彼が自分自身が強くなりたいという思いは本物だと確信いたしました。自身の防守ぐらい出来る様になって頂ければ、護衛する側としては安心ですわ」

 「はぁ……。相手は、侯爵のご子息なのだがな」

 「え? でも自身で稽古をつけてくれと来たではありませんか」

 「やはりお前は、令嬢としてはズレている」


 それは、私のせいだけではありませんわよ、お父様。

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