第11話

 「ロデ・メンデスです」

 「入れ」


 職場に来て早々に、お父様いえ副隊長に呼び出された。

 原因はわかっている。昨日のいざこざの件だろうと。

 昨日、休みなのに職場に来ていたのは知っていたようだった。

 たぶん詳細が書かれた報告書を読み事実を知って、呼び出されたのだろう。


 「ロデ! ご令嬢を連れまわすとは何をやっているんだぁ!!」


 訳すと、『ラフリィード嬢を連れまわすとは、何事だぁ!』という事よね。

 報告書には、ラフリィード侯爵の名はない。相手が誰かは言っていないから。

 でも昨日、お茶会にラフリィード嬢をご招待した事はお父様もご存じ。ただ彼女の正体が、ラフリィード子息だという事は知らない。

 話すなとは言われてないけど、彼が私の秘密を話さないのだから私も話していない。


 「申し訳ありません。こんな事になるとは思わなく」

 「そういう事ではなく、いやいい。走って街中を巡回してこい」

 「っは! 以後、気を付けます。失礼します」


 何か言いたげだったけど、バルディ執務官が居たから言えなかったみたいね。

 帰ってからこれは、大目玉の予感。


 お父様もとい副隊長の命令通り、街中を走って巡回する。


 「おぉロデ、何をやらかしたんだ」

 「えへへ。秘密。何か手伝う事はある?」

 「ないよ。それにそんなことしていたら戻るの遅くなるだろう」

 「ありがとう。頑張って走るよ」


 手を振りながらまた走り出す。

 街の人達は、巡回兵が自身で走っているのは懲罰だと知っている。自分の娘とて容赦ないのよね。

 まあ、本当の巡回時間まで走っていないといけないのだけどね。


 「はぁ……疲れたぁ」

 「お前、真面目だな。誰も見ていないのだから適当に休んでいればいいのに」

 「あははは」


 いやそれ、バレているから。街の人達が目にしたかどうか、聞けばわかるのだから。

 私としては、走る事ぐらいどうって事ない。

 心配なのは、仕事を終えて家に帰ってからの事よ。


 そして案の定、帰宅したお父様に呼び出された。しかも、定時に帰って来たのですが! よっぽどご立腹らしい。

 お父様のお部屋で向かい合う。

 リリナが給仕を務めている。お父様に彼女も呼ばれた様子。

 今気が付いたけど、お茶に呼んでロデで連れまわしていたわ。


 「どういう事なのか、説明しなさい。ラフリィードのご令嬢が来た時に、ロデとして会ったのか?」


 なるほど。その手があったわね。


 「実は、ラフリィード嬢とお友達になりたくて、でもロデの名でラフリィード子息に言っていたので、それ……」

 「いい加減にしなさい! 本当の事を述べなさい。彼女が訳もなく、外を出歩くわけがないだろうが!」


 凄くお怒りになっているわ。そう言えば、命を狙われていたのでしたわね。迂闊でしたわ。


 「ごめんなさい」

 「正体を彼女に明かしたのか?」


 俯く私にお父様はそう問う。もう嘘をついても仕方がなさそうね。私は、そうだと頷いた。


 「なぜだ? まさかどこかでロデの姿を見られ見破られていたのか? それで脅されて……」

 「いえ違います! ラフリィード子息はそんな方ではありません。凄く真面目な方です」

 「子息?」


 私の言葉にお父様は、怪訝な顔つきになる。

 しまった。つい子息と言ってしまったわ。


 「どういう事だ? 秘密は守る。話しなさい。お前だけで解決できることでもないことはわかっているな」

 「はぁ……。お父様。誤解なさっておいでです。脅されてなどおりません」


 どちらかというと、私が脅した感じです。


 「これ、絶対に秘密にお願いします。リリナもね」

 「わかった」

 「はい。お嬢様」

 「ラフリィード嬢は、ラフリィード子息だったのです。訓練場でお会いしてすぐにわかりました」

 「まあ、昨日お会いした令嬢が子息でしたと! 完璧です」


 リリナが感嘆の声を漏らす。


 「何? なぜ彼は令嬢などに変装していたんだ?」

 「それは、私からはお答えできません」

 「いや、それでなぜロデだと暴露する必要がある?」

 「それは……」

 「お嬢様は、ご子息がご令嬢だと思っていたようです」

 「うん? 意味がわからないのだが」


 ですよね。私がご招待したのは、お友達になりたいから。お父様も招待状を送り来ると言うのならすればいいと言っていた。来ないと思ったからだろうけど。それが、来ると聞きかなり驚いていた。


 「実は、私の様に男装していると思っていたのです。だから男装友達になれるかもと思いお茶にお誘いしたのです。だからいつものように、馬車の中でロデになって正体を明かしてしましました。軽率でした。申し訳ありません」


 私は、お父様に頭を下げた。

 あと三年はやり過ごさなければならなかったのに、相手が常識があり私をどうこうしようと考える方ではなかったから私は無事だった。


 「まさか、脅して招待したのではないよな」

 「いえ、普通に……」


 招待してもいいってラフリィード子息に聞いた時は、ちょっとそんなニュアンスがあったけど。

 お父様は、私を呆れ顔で見ていた。


 「リリナ。今後は、止めてくれ」

 「はい。旦那様」


 あはは。リリナ迷惑かけてごめんね。

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