第10話

 しばらく歩くと、活気ある場所へ到着した。

 露店が出ていて、美味しそうな匂いが漂っている。


 「お腹すかないか? 何か食べよう」

 「こ……」


 一瞬声を出しかけてラフリィード子息は、慌てて口を閉じた。


 「この恰好で食べろと言うのか。と言いたいんだろうけど。答えはイエス。美味しいのよ」


 彼の手を引き、串いもを買い求める為に露店の前に行った。


 「おや、ロデじゃないか。随分とべっぴんさん連れているな。ご令嬢なんじゃないか? お付きの人は?」

 「あぁ、たぶんいるんじゃないかな?」

 「………」


 そう言えば、貴族ならそういうのもいるんだった。彼には、付いているのかな?

 私は、ロデの時はついていない。だから何かあったら必ず逃げろと言われていた。

 まあ私をロデと知って、襲って来る者もいないだろうけど。


 「いも、食べられるよな?」


 ラフリィード子息は、こくんと頷く。

 うふふ。令嬢姿で頷く彼は、かわいい。変な属性に目覚めそうだわ。


 「はい。おごり。食べて」

 「!」


 口に含むと、いもに振った塩気と、いもの甘さが口に広がる。あぁ、令嬢には出来ないこの食べ歩きがやめられないのよね。

 ラフリィード子息も、一口食べたら目を見開いた後に私を見て頷いた。

 美味しかったらしい。


 食べ物って、高い食材や調味料でなくても美味しく食べられるのよね。

 こうやって、食べ歩きするようになってわかった事だけど。ただ味付けがちょっと濃いから喉が渇く。


 「あ、サワーが売ってる」


 そちらに行こうとしたらグイっと引っ張られた。


 「な、何?」


 ラフリィード子息が『酒を飲むのか』と手の平に書く。

 そうだと私は頷いた。


 「大丈夫。そんなに強くないし。あ、もしかして、酒に弱い?」

 「………」


 『今日はやめておこう』か。仕方がないな。お酒が弱いですと、素直に言えないみたいね。


 「わかった。じゃ代わりになる飲み物を……」

 「あ、ロデさん~!」

 「うん? あ、ララナちゃん」

 「ちょっとした騒動が……って、もしかしてデート……」

 「うん? あぁ、違うよ。ちょっとここら辺を案内しているんだ」

 「そう。よかった。あ、でね、止めてくれないかな、喧嘩」

 「喧嘩かぁ。巡回兵に連絡は?」

 「しに行ったけど、酔っ払いがお店に難癖つけて、店の人を殴ったりしてるのよ。来るまでにぼこぼこにされちゃうわ」

 「もう、仕方がないなぁ。あ、令嬢はここで待ってい……」


 ラフリィード子息に声を掛け走り出そうとすると彼は、腕を引っ張り顔を横に振った。


 「大丈夫。これが僕の仕事だから。まあ、今日は休みだったけどね。だから心配はいらない」


 そっと私の腕を掴んだ手を彼が放す。

 そして、一緒に走り出した。その恰好で走ったら本当の令嬢なら後で大目玉でしょうね。


 「おらぁ、ウィ。酒出せよ」


 酔っ払いの男が、ケリを入れている。

 またあの者ね。今日こそはお縄にしてあげるわ。


 「で、ですから……」

 「大丈夫か」

 「あぁよかった。ロデさん。彼がまた……」

 「懲りないな。またいちゃもんつけたの? お金の勘定も出来なくなるぐらい飲むなんて困ったもんだ」

 「あぁ? 金ならここに……ロデか。お前、何その恰好。ガハハハ。女の前だからっていい気になるなよ。剣を持ってないお前など、怖くはない。コテンパンにしてやる! ヒック」

 「はぁ……昼間からそんなに酔っ払って、全く。それに誰に向かって言っているんだ? そういう輩には、お灸を据えないとな」


 私はにやりとすると、酔っ払った彼に走り出す。

 酔っ払い男の前にある丸テーブルに手をつくと倒立し、体をひねりながら酔っ払い男の後ろに回り込み、そのまま背中を両足で蹴った。そして、華麗に着地。

 周りから拍手が起こった。

 ラフリィード子息だけが、あきれ顔で立っている。


 「ごめん。驚いたよね」

 「………」


 頷く事もなくラフリィード子息は、私を凝視していた。


 「いいのか、お前! 一般市民に手を挙げて!」

 「一般市民ねぇ。今回は言い逃れ出来ないからな。僕がケリを入れたのを見ている。ちゃ~んと証言してやるからな」

 「う……ヒック」


 その後、巡回兵が駆け付け酔っ払い男を回収。私は、事の顛末を話す為に一緒に行く事になった。

 ラフリィード子息は、ささっと迎えに来た馬車にて帰っていく。やっぱり、警護の人はいたんだ。

 ラフリィード令嬢としてここにいたら、醜聞になるかもしれないものね。

 今更だけど、乗り込んだ令嬢が騎士になって降りて来たのを見たのよね。彼らにも素性がバレたかしら? まあそこらへんは、ラフリィード子息が誤魔化すか口止めしてくれるわよね。


 そしてなぜか、そのまま一般部隊の建物に行けばみんなに笑われるのだった。

 そんなにおかしいかしら? 似合っていると思うのだけどなぁ。

 

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