第6話
「うへぇ。本当に侯爵様が朝っぱらから来たよ」
あら本当に。私と同じく家紋なしの馬車でご登場ね。
それにしても、昨日と違う服装だわ。男装用の服を何着も持っているのかしら?
あ! もしかして、向こうの国で男装して過ごしていたとか?
あぁ、秘密を共有したいわ。今まで男装の事でお話しできる方がいなかったから!
「おはようございます。朝から失礼します」
「おはようございます。ラフリィード卿」
私は、ラフリィード侯爵令嬢の分の木刀も手に持って彼女に歩み、それを渡す。
「ありがとう」
「では、始めましょうか」
「はい。宜しくお願いします」
「うん。宜しく」
昨日言った事を注意しながら彼女は、木刀を振る。
もしかしたら家でも練習したのかもね。
そんなにカシュアン子息が嫌だったのね。わかるわ。その気持ち。
「あ、当たらない……」
はぁはぁと息を切らせラフリィード侯爵令嬢は、零す。
まあ一応、二年前とは言え剣術大会の優勝者なので、そこら辺の貴族には負けません。
「どこに当ててもいいのだから、こことか狙ってみたら?」
私は、向こうずねを指さす。
これは私なりのアピールだ。
私は、髪は短いがラフリィード侯爵令嬢の様に声色はそこまで変えてない。と言っても、彼女の声はお茶会では一言しか聞いてないけどね。
同じ男装仲間よ!
ラフリィード侯爵令嬢は、眉間にしわを寄せた。
何だかちょっと不機嫌になったような。
ぶんっと、木刀を言われた通りに足元に狙いを定め振るも、振り方は大振りに戻っている。
「絶対に当ててやる!」
凄い気迫だわ。もしかして、カシュアン子息の事を思い出したのかもね。
「はぁはぁ」
ラフリィード侯爵令嬢の動きが止まった。
まあ大振りで振り回したからね。
「最初はよかったのに。大振りに戻ってる」
「………」
うーん。私だと気づいてくれないと、お茶に誘っても来てくれないわよね。私、伯爵令嬢だし、一度しか会ってない上に、私と一緒に背丈でからかわれた嫌な思い出になっているだろうし。
よし、ここは……。
「そういえば、妹さんおりますよね?」
そう聞けば、ギョッとした顔つきを一瞬みせた。
うむ。脈ありだわ。動揺をみせた。
「し、調べたのか?」
「え? いいえ。噂で聞きました」
「う、噂? ここで?」
「え? あ~いえ」
そうよね。ここは平民しかいないのに、貴族の誰それが帰国したという話は持ち上がらない。なんかの記事になっていれば別だけど。
「副隊長に聞いたけど、そんなに驚く事?」
「いや……どうして君にそんな話を?」
「え?」
うーん。私がハルサッグの令嬢とは気づいてないようね。
まあ簡単にわかるなら、今頃みんなにバレバレよね。
「ここだけの話、ハルサッグ嬢とお友達なんだ」
こそっと言ってみた。
ぽか~んと、ラフリィード侯爵令嬢が私を見る。
そこまで驚く事だろうか。
「え? 突然なぜ、ハルサッグ令嬢の話が出るんだ」
「もしかして知らないの? 副隊長の娘さんだよ」
「え! そうなの?」
なるほど、知らなかったのか。そうだ! いい事考えた。
「今度、お茶会にお誘いしてもいい?」
「え? お、俺を?」
私はそうだと頷く。
訳が分からないという顔つきだが、頷いた。
今、ラフリィード侯爵令嬢は、私と副隊長の娘のハルサッグ令嬢と三人のお茶会を想像したのだろうから。
よしこれで、彼女を堂々と誘えるわ。だって断れないでしょう。副隊長の娘と相手してもらっている私の招待なのだから。
ちょっと意地悪な誘い方だけど許してね。
その後、30分ぐらいラフリィード侯爵令嬢に付き合った。
「今日はもういいでしょう。また明日来てくれる?」
「え? まだまだ……」
「あのね、僕も暇じゃないんだ。これから巡回だから。そうだ。今日と同じぐらいの時間で来てね」
「あ、はい。わかりました。ありがとうございました」
うふふ。お茶会が楽しみだわ。
馬に乗り巡回しながら私の顔はにやつく。
帰宅後、色々と手配し、満足な私がにやついていると、今日はご機嫌が宜しい様でと、リリナが言った。
「そうだ。今度の休みにラフリィード侯爵令嬢をご招待したからよろしくね」
「え! 令嬢をご招待したのですか?」
私が頷けば、リリナは凄く驚いた顔つきになる。
そう私が、他の方を呼ぶのは初めてなのだ。
結局ラフリィード侯爵令嬢は、私が招待するお茶会までに一本も取れずに終わった。
「明日は、僕も休みだから」
「あぁ。あの……」
何か言いたげね。そりゃそうよね。あなたにって言って、招待は令嬢宛なのですもの。バレているのか、バレていないのか不安よね。
明日、楽しみましょうね!
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