第5話
「そう言われてもな。もしあなたに何かあれば、ラフリィード侯爵が黙ってはいまい」
「それは大丈夫です。それに自分の力がどれくらいか知りたいのです。できれば、自身の身ぐらいは守れるようになりたいと」
もしかして、今日遭った事で、力が欲しいと思ったのかもしれないわね。
「そうは言うが、一朝一夕というわけにはいかない。それに、あなたならここではなく、騎士学校に通うべきだ。貴族ならそこで教われる」
「……騎士になるつもりはなくて」
ボソッとラフリィード侯爵令嬢が言った。
それを聞いたみんなは、ムッとしたような顔つきになる。
ここは騎士団。騎士にお願いしに来て騎士にはならないというので、だったら騎士でない者に習えという顔つきだわね。
まあ令嬢なのだから、そもそも騎士学校に入れない。あそこは子息が入る学校だから。強くなりたいだけで、私の様に騎士になろうとは思わないわね、普通は。
「基礎は習っています。お願いします」
ラフリィード侯爵令嬢は、頭を下げた。
「副隊長……」
私は、チラッとお父様を見る。
「仕方がない。本来ならしない事だ。時間無制限でロデに一本でも当てられたら稽古をつけてやろう」
「え? 無制限?」
お父様にそう言われ、ラフリィード侯爵令嬢が驚いていた。
まあそうよね。それならいつかは当てられると思うわよね。私は、女だから鍛えても力ではやはり男には勝てない。だから素早さを身に着けたのよ。
ここでは、一番の速さを誇れるぐらいにね。
「彼に木刀を」
お父様がそう言うと、渋々隊員は木刀をラフリィード侯爵令嬢に渡す。
「ありがとうございます。で、ロデと言う方は?」
「あぁ僕ね」
軽く右手を挙げて名乗った。
今や
「宜しくお願いします」
「うん。宜しく」
さあ、お手並み拝見と行きましょうか。
ラフリィード侯爵令嬢が、木刀を構えた。基礎は習ったと言っていた様に、構えは出来ている。
ケイハース皇国では、女性も剣術を習うのかしら?
「行きます」
そう声を掛けて、剣を振り下ろす。
剣で受け止めるまでもないわね。ススッと体をずらしかわす。
すかさず、ラフリィード侯爵令嬢は木刀を横に振る。それもスーっとかわした。
驚いている顔をしているわね。隙を突いたつもりだったのかしら。
「疲れましたか?」
「そ、そんなわけ!」
まあ二振りしかしていないし、息も切れてないから大丈夫のようね。
こうして10分ほどすれば、ラフリィード侯爵令嬢は息切れを始めた。
思ったより体力があるわね。
一度だけ、木刀を受け止めてみたけど、力があるわ。
「もうやめますか?」
「まだまだ!」
本気なのね。あれだけ大振りだから、10分も振り続ければ疲れていると思うのだけど。
「はぁはぁ」
流石に30分もすれば、ラフリィード侯爵令嬢はフラフラだ。
「大丈夫? 今日は、終わりにしてまた明日にしない?」
「え? 明日?」
「無制限って言っていただろう。わ……僕は今日、本当は休みなんだ。副隊長は、今日中に僕に当てられるとは思ってないから」
「え……」
ラフリィード侯爵令嬢は、ぱちくりとする。
「あと、そうだな。大振り過ぎる。力むのはわかるけど、当てればいいのだから力はいらない。それだけ動きが遅くなる。それに単調過ぎる。凄く避けやすいよ」
「………」
「お前、親切すぎだろう。教えてやる事ないのに」
「わかっても出来るとは限らないけど、やる気はあるようだし」
「ありがとう。ではまた明日来ます」
「……うん。今日はゆっくり休むといいよ」
木刀を返し、深くお辞儀をするとラフリィード侯爵令嬢は去っていった。
「侯爵様なら人を雇えばいいんじゃないか? 変なやつ」
「それもそうだね。でもあの方にも事情があるのでしょう。じゃ、僕も帰るよ」
「はあ、男爵様もいいよなぁ。馬車で送り迎えだもんな」
「羨ましい? 君も優勝出来たらよかったのにね」
「な……!」
たま~に妬む者がいるのよね。私より弱いくせに!
まあ平民の彼にしてみれば、男爵になって悠々自適な生活をしていると思っているのでしょうけど。お給料は一緒なんだけどね。
馬車に乗って通っているのは、身バレしない為。
それにしても侮っていたわ。ラフリィード侯爵令嬢は、結構体力があった。
もしかしたらお近づきになれるかしら?
性格はまだわからないけど、カシュアン侯爵家みたいな感じではなさそうだし、彼女となら楽しく会話が弾みそう。
伯爵家と侯爵家という格差はあるけどね。
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