第4話

 騎士団一般部隊の建物に到着し、私は馬車から降りた。


 「あれ、ロデじゃん。今日は有給じゃなかったのか?」


 私が休みだと知っている隊員がそう声を掛けて来た。


 「うん。ちょっとね。副隊長にお知らせする事があったのを思い出したから」

 「お前よく、副隊長と会話出来るよな。隊長より怖くないか?」

 「怖い? どこが? 凛々しくて格好良いと思うけど」


 これは本心よ。お父様は昔から、厳しくも凛々しく優しく格好良い。誇らしい方だわ。


 「いや、いつも仏頂面で声を張り上げている姿が格好良いか? まあ凛々しいという表現はあるかもしれないが……」

 「まだまだだな。あの良さがわからないなんて。では急ぐから」


 なぜかお父様を怖がる人が多いのよね。見た目は渋くて格好良いと思うのだけど。


 トントントン。


 「ロデ・メンデスです」

 「入れ」

 「失礼します」


 静かに扉を開けると、格好良いお父様が椅子に座り執務を行っていた。

 俯くお父様は、私と違い黒に近い紫色の髪で顔を上げこちらを見る瞳も紫色。この状況で、私達が親子だと思う者もいないと思われる。

 お兄様お二人は、見た目はお父様と同じ髪色と瞳、私はお母様の髪色と瞳を受け継いだ。


 「どうした? 今日は休みだろう」

 「はい。少々、相談したい事がございまして」

 「うーむ。少し待て。あぁ、これは終わらせておくから、バルディ卿は下がってよい」

 「はい。では失礼します」


 バルディ執務官は、チラッといやギロッと私を睨むように見て出て行く。

 彼は、騎士団一般部隊担当の執務官。騎士団一般部隊長と副隊長は、執務の仕事もある。それを補佐する人が、お父様にも一人あてがわれている。


 お父様曰く、彼は優秀だが癖があるとかないとか。

 きっと私が来ると長く居座る為に、お父様の執務の仕事が滞るので嫌がれているのだと思う。


 「で、どうしたのだ」


 私は、お父様に近づく。

 ここには、ソファーやテーブルが。お客様を招き入れる気が全くないのがわかる。ここは、この執務をする為だけに来る部屋。

 それ以外は、この窓から見える訓練場にいる。


 「それが今日、カシュアン令嬢にお呼ばれしてお茶会に参加したのですが」

 「あぁ、そう言えば。それで今日は有給を取ったのだったな。で、そこのバカ息子にでもまた何かされそうになったか?」

 「はい。思わず手を払ったら尻餅をついてしまって」

 「尻餅……っふ。軟弱者だな」

 「ですよね」


 私と同じ意見でよかったぁ。


 「わかった。その件は何か言ってきたらどうにかしよう」

 「ありがとうございます。おと……いえ、副隊長」


 おっと、ここでは副隊長と呼ばなくてはいけなかった。


 「誰もおらん。好きに呼んでいい」

 「まあ、そうですが、ボロが出てもいけませんし。そうだ、副隊長。ラフリィード侯爵のご令嬢が帰国されたのをご存じですか?」

 「あぁ、そんな話を耳にしたな。それがどうした」

 「お茶会におりました」

 「何? なぜ?」

 「なぜ? そう言われても存じません。招待されたのではありませんか?」


 お父様が、難しい顔つきで黙り込んだ。

 どうやらこの帰国には、何かあるのね。


 「教えてくれてありがとう」

 「……はい。ではこれにて……うん? 誰か来ていますね」

 「今日は誰も来る予定はないが」


 窓から見える訓練場に、見慣れない者がいる。騎士団の恰好ではないので目立つ。


 「誰だ?」

 「見に行ってきます」

 「まて、私も行こう」


 二人して訓練場に向かう。

 私が誰かいると言ったけど、行こうとは言っていない。

 執務を放り出して向かったのは、私が悪いのではないからね。バルディ執務官。


 「どうした?」

 「あ、副隊長」


 何やら外部の人に隊員が集まっている。


 「どこかの貴族らしいのですが、ここで訓練をさせてほしいから隊長に会わせろって」

 「ふむ……」

 「え、ラフリィード侯爵れ……」


 おっと、彼女の素性を言うところだったわ。

 切れ長の碧眼で長い銀の髪。間違いないわ。をしたルティアン・ラフリィード侯爵令嬢だわ!

 男性物の服を着て髪を束ねてだけでは、顔を知っている者には見破られるわよ!


 まあそう思ったからこそ、一般部隊に来たのでしょうけどね。この部隊は、ほぼ平民だから。バレないと思ったのでしょう。甘いわね。


 「ラフリィード侯爵のご子息だと」

 「どうしてそれを……」


 お父様もラフリィード侯爵令嬢も驚いている。驚いている内容は違うようだけど。

 ラフリィード侯爵令嬢は、なぜ知っているという顔つき。

 つい声に出してしまって、どうしましょう。帰国されたばかりの方の顔など知らないでしょうに。


 「失礼致しました。先ほど副隊長からラフリィード侯爵の者が帰国されたと聞いたもので、見た事のない方でしたのでそうではないかと」


 私は、軽く頭を下げた。

 これで何とか凌げたかしら? 嘘ではないけど、真実でもない。


 「そうでしたか。凄い推理力ですね。驚きました。その通りです。私は、ルティロン・ラフリィードと申します」

 「で、侯爵のご子息がここに何をしに?」

 「はい。私に稽古をつけてほしいのです」


 お父様の問いに、先ほど隊員が言っていた同じ内容をラフリィード侯爵令嬢は口にした。

 大丈夫なのかしら? 一般部隊だとはいえ、選ばれた人達なのよ。

 男装していたとはいえ、お怪我をさせたら大変だわ。

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