第2話

 「はあ。疲れたわ。リリナこれ、捨てて頂戴」


 白い手袋を脱ぎ、彼女にポンと投げて渡す。


 「お嬢様。捨てるものとはいえ、投げるなどはしたないです」

 「はいはい。ふう。着替えるわ」


 彼女は、私の専属侍女。侍女の中で私の秘密を知っている者。

 だからスポッとを脱ぎ捨てる。カツラと言っても地毛で作っていて、脱いでも同じ茶色い髪だ。今日の様にお呼ばれした時に変装用? に被っていた。


 「何かございましたか?」

 「ちょっとね」


 見た目変わらないのに、不機嫌だと彼女の緑色の瞳には映ったのね。

 私はドレスから、騎士の服に着替えた。

 そう男装だ。あ~一番この恰好が落ち着くわ。


 「お父様の所に行って来るわ」

 「わかりました」


 彼女は私に、を帯びたコートを手渡す。

 それを私は羽織る。するとどうでしょう。まるでドレスを中に来ている様に見えるではないですか!

 リリナは、脱いだばかりのカツラに櫛を通し整えた後、私に被せた。


 「行ってらっしゃいませ。お嬢様。あまりお無理をなさらないように」

 「誰に行っているのよ」


 自室から出て、屋敷の前に泊まっている馬車へと乗り込んだ。この馬車に家名がわかる家紋はない。

 走り出すと私は、カツラとコートを脱いだ。


 どこからどう見ても、令嬢には見えない。立派な騎士になった。

 馬車の椅子が物入れになっているのでそれらを仕舞い、立派な剣を取り出す。それを腰に下げた。


 お父様の職場は、国立騎士団一般部隊。そこの副隊長。

 一般騎士隊なら隊長にもなれる実力に家柄なんだけど、お父様は剣士バカなので副隊長に収まったみたい。

 お父様曰く、「隊長などになったら自身で出動できないではないか」だそうです。

 指揮するよりも自分で動く方がお好みのようなのです。


 この恰好でお父様に会う時は、ロデと名乗っている。もちろん、お父様もロデが私だと知っていた。何せ、を得て男装したのだから。


 ◇


 私には、二つ年上と五つ年上の兄がいる。お父様はその兄達に、騎士学校に入る前から邸宅の敷地内で稽古をつけていた。

 騎士学校には、10歳の誕生日から入る事が可能で、その際は宿舎から通う事になる。つまり家からいなくなった。

 教える者が一人少なくなったからなのか、私が剣を振りたいと言ってもダメだと言っていたお父様が許可をくれて、走り込みだけ一緒に行っていた私も鍛錬に参加できるようになったのです。


 一応、体裁を考え鍛錬については公開していない。なので、剣ダコを隠すために常に白い手袋を着用するようになり、潔癖症だという事になってしまう。全然潔癖じゃないんだけどね。


 そして、14歳になった時に、父に剣術大会に出たいと申し出た。

 剣術大会とは、騎士学校に通っていない10歳から14歳の年齢なら誰でも参加できる大会。普通、騎士を志す貴族は、騎士学校に通っているので大体は平民が参加する。

 騎士学校に行っていなければ、誰に習って参加してもいいと言う事になっていた。

 参加する平民は、なけなしのお金で隠居した騎士に稽古をつけてもらっている者が多い。

 優勝できずとも、目を引けば国立騎士団一般部隊に入隊できるからだ。そうお父様がいる部隊。でもその時は、お父様は一般部隊所属ではなかった。


 「剣術大会に出たいと思います。私、自身の力を試したいのです。今年が試せる最後なのです」

 「しかしなぁ。そんなのに参加したら嫁の貰い手がなくなるぞ」

 「ふふん。お父様、私にいい案がありますの。男装するのです! 出来ればハルサッグの家名は名乗らずに、平民として参加したいと思っております」

 「うむ。わかった。まあもしお前が騎士団に引き抜かれたなら、私も一般部隊に異動届を出そう」

 「ありがとうございます。お父様!」


 この時、私が髪をバッサリ切って男装するなど、お父様は思っていなかったようですが、許可が下りたとリリナに髪を切ってもらいカツラにしてもらった。


 私はず~っと、騎士に憧れていたのだ。

 剣術大会のその日、初めて男装をした。鍛錬の時にズボンを履いてはいたが、それは男装ではないから。

 一応、胸に二回ほど晒しを巻いた。……必要ないと思ったが一応ね!


 思ったのだけど、14歳の私の背丈は14歳の達の平均ほどあった。

 これ剣術をやって背が伸び、胸が育たなかったのだと思うの。まあ胸はこれからかもしれませんが。


 剣術大会では、剣は開催側が用意するから身一つで参加出来る。

 会場へは、途中から歩いて行った。一応、平民なので、歩きよ。鍛えているから歩くなど苦でもなく、これからの剣術大会の事を思うと、胸躍らせていたのだった。

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