男装令嬢は侯爵家に嫁入りしました

すみ 小桜

第1話

 私達は、牧師の前で見つめ合っていた。

 彼は、私の茶色い瞳を瞳で見つめている。


 牧師が口を開こうとしたその時、バンっと大きな音を立て観音開きの扉が勢いよく開いた。

 振り向けば、武装した集団が私達に迫りくる。


 「来たか……」


 その見た目にそぐわない低い声が私に届いた。

 武装集団は、私達を目にすると一瞬躊躇するも、そのまま突進してくる。その数、10を超えていた。


 「もう無粋ね」


 教会内には、そぐわない人物しか今はいない。

 彼が床に置いてあった剣を拾えば、罠だと気づいたようだけどもう遅いのよ!


 「どうせならもう少し雰囲気を味わせて欲しかったわ」

 「それは後日、本番で!」


 令嬢の私は今、男装中です!

 これ偽装結婚? で合っているかしら?


 ◇


 彼との出会いは、数か月前。お茶会に招かれた時だった。

 その時はまだ、だとは気づいてはいない。


 「今日はお招き頂きありがとうございます」


 ちゃんと令嬢として招かれているので、ドレスを着てカーテシーをする。


 「待っていたわ、メロディーナ嬢! 彼女は、長らくケイハース皇国に居て帰国されたルティアン・ラフリィード侯爵令嬢よ」

 「お初にお目にかかります」

 「ラフリィード嬢、こちらメロディーナ・ハルサッグ伯爵令嬢よ。さあ、こちらへ」


 私達を紹介しているこの方は、赤い瞳に髪のソフィア・カシュアン侯爵令嬢。情け容赦ない侯爵と言う黒い噂があり、赤の一族と比喩されている。

 そして、紹介されたラフリィード侯爵令嬢のお父様は外交官で、子供達はこの国ではなく他国で過ごしていると聞いていた。帰国したのね。

 ラフリィード侯爵令嬢は、少し切れ長の碧眼で、長いストレートの銀の髪。チラッと私を見るも、困惑した顔つき。


 同じ侯爵だからカシュアン嬢は、マウントを取るつもりのようね。

 しかし、私達を引き合わせてどういうつもりかしら? 彼女が男ならまだわかるけど、女同士なのよ。


 こちらへと呼ばれたのは私ではなく、席に座っていたラフリィード侯爵令嬢の方だった。彼女は、何も言わずにスーッと素直に立ち上がる。


 あ、なるほど、そういう事ね。

 立ち上がった彼女は、私と同じぐらい背が高い。

 私は、3センチのローヒールを履いて170センチある。その私と一緒だからラフリィード侯爵令嬢と私を並べたかったのだろう。嘲笑う為に。


 ラフリィード侯爵令嬢も可哀そうに。きっと、コンプレックスを持っている事でしょうに。

 カシュアン嬢に目をつけられたのが運の尽き。彼女の趣味は、こうやって人をからかう事なのだから。


 「あらやっぱり同じぐらい背がお高いわ」


 嬉しそうにカシュアン嬢が言った。


 「おや、これはこれは。メロディーナ嬢と同じぐらい背の高い令嬢がこの国におられたとは」


 にやりとして現れたのは、カシュアン嬢の二つ年上の兄、アモレ・カシュアン子息。

 こいつは本当に嫌いだ。凄い女好き。

 こんな事をいいながら私すら口説いてくるのだからね。


 「あらお兄様。こちらがルティアン・ラフリィード侯爵令嬢よ。うふふ。未来の姉上になられるお方かしらね」


 え! 二人をくっつけるつもり?

 みんなの視線がラフリィード侯爵令嬢に集まる。

 大人しいタイプみたいだし、相手は侯爵家。相手としてはこの上ないけど、ラフリィード侯爵令嬢としてはどうなのだろうか。噂は聞いている?


 「不愉快です」


 ボソッと言った声が低くて驚いた。凄くお怒りみたいね。

 うん。噂は知っているようだわ。


 「へえ。大人しそうに見えて気が強いんだ。いいね~」

 

 そう言って、カシュアン子息がラフリィード侯爵令嬢に近づく。


 「ぐはぁ!」


 彼女に手を伸ばそうとしたとたん、カシュアン子息は蹲った。どうやらヒールで足を踏まれた……のではなく、向こうずねを蹴ったのね。

 カシュアン子息は、そこを抑えていた。

 踏むならわかるけど蹴るなんて驚きだわ。まあそこも急所だろうから痛いよね。


 ラフリィード侯爵令嬢は、スタスタと歩いて去っていく。

 まあ向こうも侯爵だから大きな騒ぎにはならないでしょう。


 「くそ! あの女狐が! 覚えていろ!」


 女狐って、あなたが言う。というか、本人がいないのにほざくのね。

 痛いわよ、あなた。


 「お兄様。大丈夫ですの?」

 「っち。大丈夫だ。そうだ。今日はお前が相手しろ」


 そう言ってあろうことか、カシュアン子息が私に手を向けて来た。

 嫌よ!


 「きゃあ!!」


 咄嗟にその手を払う突き飛ばす。


 「ぐわぁ」

 「あぁ、ごめんなさい。し、失礼します」


 と、泣きながら私は退場した。

 彼はひっくり返った。女に払われたぐらいで倒れ込むなど軟弱者め。

 まあ何か言われたら、お父様が何とかして下さるでしょう。

 私には、潔癖症という噂が流れているから、突然あのを伸ばしてきたので、振り払ってもおかしくないわよね?

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