その⑧ 胸より頭が重いときもある
もしかして放課後デートだったのだろうか。
わたしは半ばそんなことを考えながら、
「バイトじゃなかったら、もっといろいろしてやりたかったけど」
「ううん! コーヒーすごい美味しかったよ、甘かったし」
「……三本いれたけど、本当にコーヒーの味だったか?」
「ご、ごめんって」
申し訳ないけれど、まだコーヒー本来の味を楽しめるような大人の舌ではない。
そういう意味では、急な告白でうろたえているわたしは、多分恋のなんたるかもさっぱりわかっていないのだろう。
葉寺さんと別れたあとも、一人で頭の中をぐるぐる回しながら家に帰る。
ドラマばっかで、実際の経験は主に
告白の状況こそ、葉寺さんも特殊ではあったものの、基本的に向けられる感情は……白戸さんと比べればとても真っ当な好意に思える。
人からの好意を比べるものじゃないんだけど、でもやっぱり白戸さんの異様さが浮き彫りになった。
ずっと、修学旅行の夜から思っていたことでもある。
白戸さんの好きは、どういう好きなのか。好意自体を疑うつもりはない。でも友達でって話をしても、隙あらば胸は触ろうとするし、お礼にかこつけて二人きりでいかがわしいお泊まりまで計画する。
ストレートで、もう少し取り繕ってほしいと思うくらいの気持ち。一度はそういうものだと思って受け止めて、「まずはお友達」になったけれど、白戸さんの好意はお友達のままで満足してくれるものではないのが明らかだ。
仮にお友達だとしても、胸はもまれそうだし。
(もしかして、葉寺さんも……その)
わたしの胸をもみたいとか思っているんだろうか。
思っているけど、口に出していないだけ。そういう可能性もある。
わたしにもいろいろ良いところがあるんだよ? でも最近、胸のことしか褒められないし、葉寺さんは一応わたしのどういうところで好きになったかって教えて――あれ、待って。「千冬が夕里とキスとかエロいことしているって話でなんかこう、別の意味でも意識し始めて」って言っていなかったっけ?
つまり、わたしとならそういうことができると思っている!?
いやいや、考えすぎだよ。葉寺さんはそういう人じゃないって。
――そういえば、返事してないや。
葉寺さんに好きと言われて、学校から逃げて、そのあとちゃんと気持ちを聞いて、そのまま彼女のバイト先へ向かった。うっかりというわけじゃないけど、特になにか言うタイミングもなかったというか。
白戸さんには、情けない返事だけれど、伝えた。葉寺さんにもちゃんと答えるべきなんだろうか。
でもわからない。どう返せばいいんだろう。
できれば数日はゆっくり一人で考えたかった。
しかし、翌日にはまた学校があり、週末にはお泊まりの約束がある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
わたしは結論が出ないままだったけれど、そのままでは失礼だろうと葉寺さんと話すことにした。
今度は、わたしがお昼休みに彼女を呼び出したのだ。
二人きりの屋上は三度目で、今日はちょっとだけ天気が悪い。
「もしかして、あたしが好きって言ったことへの返事か?」
「えっ、まあ……そうとも言うし……そうじゃないとも……」
「あはは、なんだそれ」
「ごめん、なんて返していいのかわかんなくて」
葉寺さんは笑いながら、わたしの頭をぐりぐりなでてきた。
「気にしなくて良いって。言ったろ? あそこであたしが好きって言ったのは、あたしが勝手に言っただけのことで。
「え、あっ……そ、そっか?」
よく考えて見れば、「告白=交際の申し込み」でもないのか。ただ好きという場合もある。白戸さんみたいに「告白=胸をもむ」みたいな人がいるから、逆にそういうパターンがあることを失念していた。
「それより、
「それは……まぁ……」
なっていた。
メッセージのやり取りだけなのでなんとかなっているけれど、次に顔を合わせるときはどうしようか。実を言えば葉寺さんへの返事以上に気が重い。
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