その⑤ 察しの良いギャル
勘違いではあったけれど、頼れるお姉さんみたいな豪快さもあって、少しも悪い気はしなかった。それとは別に、罪悪感みたなものはあったけれど。
二度目の今回は、前回と全く逆だ。
葉寺さんが、どうも居心地が悪そうにしている。呼び出したのは、彼女なのに。
さっきから「悪いな」と謝られてばかりで、わたしもどうしていいかわからない。
「……あーその、もしかしてやっぱり迷惑だった?」
たまらず、わたしは自分から話を切り出した。これで葉寺さんに「お泊まりに行きたくない」とはっきり断られてしまうと、わたしは
「あの、ごめんね。わたしが無理矢理誘っちゃって」
「……
「え、そりゃ……うん、わたしが誘ったんだし、当然わたしは葉寺さんに来て欲しいけど」
「だって、千冬と
葉寺さんが、いつになく歯切れが悪い。それだけでなく、顔を薄ら赤らめながら、わたしから視線を逸らした。
「あたしに気使わなくても……いいから」
「え、いや気なんてそんな」
なにかが噛み合っていない。また勘違いされているのか。葉寺さんがなにを勘違いしているのか、わたしが必死に考えていたけれど、答えが見つかる前に彼女が叫んだ。
「だってよ! もう完っ全にそうだったろ! 千冬と夕里、あたしの前だってのにイチャイチャして……お泊まり会でなにする気なんだよっ!? あんなっ、ヤル前の計画をあたしいるところで立てるんじゃねぇえええええ!!!」
なるほどーっ!! そういう誤解だったか!! たしかにあの白戸さんの下心前回の会話を事前知識ありで聞いてたらそうな――るの!?
「待って待って!! 違うよっ!?」
「嘘つくな、夕里のやつは完全にその気だったろ。親いないときに呼んで、同じ布団でって!!」
顔を真っ赤にした葉寺さんが、わたしと同じ感想を述べる。うん、その通りです。白戸さんに関しては違いません。違うのはわたしだけです。あの人は一人で計画立ててました。
と彼女を見捨てるのは簡単だけれど、白戸さんと葉寺さんはやっと仲直りしかけているんだ。白戸さんの印象を著しくおとしめるようなことはしたくない。たとえ、事実でも。――ん? 事実なら自己責任かな。いや、でも二人の仲がまた悪くなると、結局わたしが面倒に巻き込まれる気がするし。
「えっと、ほら、ご両親いないときの方がわたしも気兼ねしなくてもいいかなって白戸さんは考えてたんじゃないかなー? 布団も別に、同性だし? わざわざ別に用意してもらわなくても、ね? 仲のいい友達だよ?」
「あんたらキスして、胸もむ仲だろ」
「うっ……それは過去実際にあったことではあるんですが、そういう仲というわけじゃ……」
そうだよね、わたしがうっかりバラしてしまったせいで誤魔化すこともできない。
白戸さんはこれを葉寺さんに知られていると思っていなかったから、あれだけ堂々と下心全開でわたしを誘っていたんだろうし。……まあ、白戸さんの場合、葉寺さんにバレているってわかってても気にしなそうだから余計怖いけど。
「で、でも言ったよね、付き合っているとかそういうわけじゃなくてですね……」
「付き合ってないけど、そういうことする関係ってことか」
「なんかすごい関係想像してないっ!?」
「セフレとか、そういうんだろ」
「はっきり言わないでっ!!」
まずいまずい。前回はおじさん相手にいかがわしいアルバイトを勘違いされて、今回はわたしと白戸さんが……そういう肉体関係を基本とした交友があると勘違いされてしまっている。
誤解だ。前回と違って根も葉もない……とまでは言わないけど。そういえば前回もちょっと身に覚えのあること言われていたたまれない気分になっていた。だから前回と同じなのかもしれない。おじさんと白戸さんの違いだけ。
「お、おじさんは存在しないけど白戸さんは存在するんだよっ!!」
「ど、どういうことだ!?」
「ごめん、わたしも混乱しました」
「あのな、あたしも責めるつもりはないんだ。ただはっきり言ってほしいだけだ。だって、悪いだろ。二人だったら、そういうこと気兼ねなくできるのに……」
葉寺さんはまた申し訳なさそうに口をすぼめた。セフレとか言って置いて、なんでそこだけそんな気を遣うのか。もっと女子高生として他の所にも気を遣って欲しい。
「千冬はあの場でさ、あたしだけ誘わないのも悪いって思ったんだろ。だからあたしを誘った。それなら、あたしは気にしてない。二人の邪魔する方が嫌だしな。だから――」
「ま、待ってよ!」
いやいや、否定したいところは事実なのに、なんで最終的な理解だけ勘違いしているの。
でも訂正しようとすると、白戸さんがそういうお泊まり会しようとしていたってことをわたしも認めることになる。認めた上で「阻止する目的で葉寺さんも巻き込みました」と言わなくちゃいけない。
それはそれで、やっぱり葉寺さんも嫌な気にならないか? もし逆の立場なら――えっと白戸さんが葉寺さんにエッチな目的で近づいていて、葉寺さんはそれが嫌でなんとかするためにわたしを呼ぶ? ……白戸さん最低だな。嫌がっている相手になにしているんだ。
うん、もしかしたらわたしのことは味方してくれるかもしれない。でもやっぱり白戸さんにすべての矛先が向いてしまいそうだ。
「……まずね、白戸さんとわたしは本当にただの友達で……あのことは、えっとあれ、一夜の過ちでね? そう、だからまた夜に二人っきりになるとちょっとわたしとしては気まずいかなーって!」
「それ、
「それはそのっ」
ダメだ。ドラマとかだったらなんか良い感じの嘘で誤魔化せるのに。それで最終話ちょっと前くらいにバレて大変なことになるのに。わたしの嘘は端っからプレハブだからすぐ葉寺さんに粗を見つけられてしまう。
「わかった。つまり、そういうことか」
「えっ? 葉寺さん?」
「……それで、あたしのことを呼んだのか」
葉寺さんはまぶたを閉じてから、深くため息を吐いた。それから、「そういうことか」とうなずく。え、全部バレた? わたしが白戸さんの下心から逃げるために葉寺さんを巻き込んだって。
「あ、あのっ! 悪いのはわたしで! 白戸さんは……そのちょっと問題はあるけど……」
「わかった。言わなくていい」
「えっと、でもそのっ」
どこか哀愁漂う葉寺さんの顔に、わたしはなにかとんでもない失敗をしてしまったと思った。
そうだよね、二人は幼馴染みなわけだし、白戸さんの奇行ぶりをどんどん知って、葉寺さんも複雑だよね。
「大丈夫、わかったから。さっきも言ったけど、あたしは責めるつもりはない。ただ……ちゃんとあたしにも先に教えてほしかったくらいだ」
「うっ、ごめん。でも中々言いにくいことで……その……ほら、二人の関係もどうなのかなって」
「千冬があたしや夕里に気を遣ってくれてたのはわかる」
「それは、まあ……でも……葉寺さんのことはこのお泊まりに関しては巻き込んだだけで、本当ごめん」
葉寺さんはわたしの肩に手を乗せた。
「大丈夫、あたしが夕里から守ってやる」
頼もしい葉寺さんの言葉に――いや、これ絶対、また二人がもめるやつだ!! と嫌な汗が流れた。でもだいたい事実だから否定もできないし、困ったよ!
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