その② お願い
突然、お泊まりを提案された。
理由は仲良しだから。
友達とお泊まり会した経験はわたしにもある。高校に入ってからも、一度だけ
かと言って、特になにをするってわけじゃない。みんなでお菓子持ち寄って、夜遅くまでだらだらおしゃべりして、それで眠気が限界になったら眠って――それで起きてなんとなく解散する。
そんな感じの平和な催しである。
仲良くなったらお泊まり会。これはまあ、一理あるのかもしれない。特になにをするわけでもないけど、同じ部屋で眠るというのは、なんとなくそれを経験するだけで心の壁がちょっと低くなる。
「だ、ダメですか?」
「……ダメって、えっとお泊まりって二人で? なにするの、ほら、二人だけだとあんますることなくない? トランプとかしても、遊べるの少ないし」
「そんなことないですよ! 私、
「えぇー……あ、ドラマ一気見する? 一晩あれば一シーズン見終わるし」
「……そ、それもいいんですが」
サブスクで見られるドラマの中からなにか探しておこう。わたしのオススメにするか、観たことないやつにするか悩むな。
「あのぉ……ドラマもいいですよね! 千冬さん、好きですもんね。ただですね、今度私の家、両親がいない日がありまして、たまたまですよ!」
「……ん?」
「なんでドラマを観る以外にもいろいろできますからね! それは、一応お伝えしておこうかと!」
「……えぇ、はぁ」
白戸さん、考えていること、全部出るな。
顔と発言に、あからさますぎる。
「まあ、考えとくよ。……その内ね、十年後くらいに……」
「追試、お疲れ様です」
「えっえっ、それはさっきも聞いて……えっと、ありがとう? 本当に白戸さんのおかげで」
「お泊まり会……したいです」
待って、わたしの記憶がおかしいのかな。白戸さん、お礼はいらないって言っていたよね。もちろん、それは恩を受けた側が真に受ける話じゃないけど、それ言った側がそんなあからさまに催促する?
わたしたち友達だよね。それでお互い納得してたはずだよね。この前も、押しに負けてすこし許したわたしもよくなかったんだろうけれど。
にしたって、こんな。
付き合いだしたら上手いことすぐやることやろうとする男子高校生みたいな……まあ、ドラマとかの知識だけど。
「お泊まり会ね……普通のお泊まり会だよね?」
「は、はい! 普通のお泊まりです! 仲のいい千冬さんと私がするタイプのお泊まりですっ」
「その言い方なんだろうなぁ」
でも感謝はあるし、この前の肩や胸を差し引いてもケーキ一つでお礼を終わらせていいのか……とは思っていた。
白戸さんも葉寺さんも、わたしが最初頼んだときに想像していたよりもずっと手間暇かけて勉強を教えてくれたのだ。できる限りのことはして恩を返したい。
いやぁ……でも、これでお泊まりを了承するのは、なにかもっと大きなものを暗に認めてしまうみたいだ。相手が同性と言っても、さすがにそんな軽はずみなことはできない。
白戸さんが、やましい気持ちでいっぱいなのは明らかだし、警戒しないのは一応女の子としてどうなのかという話だ。
(なんて言おうか……)
断り文句をどうしたものかと言葉を選んでいるとき、わたしはさっきから横にいる白戸さんばかり見ていたことに気づく。
正面にいる葉寺さんが、目を見開いたまま固まっている。
「……お泊まり? 両親が居ない? なんだ、それ?」
つぶやいた彼女の言葉に、「あちゃー」と顔を覆いたくなった。
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