その⑫ 待ち人
散々な空気のまま解散となって、発端であるわたしは文句を言われる覚悟もしていたけれど。
「
誰よりも先に詰め寄ってきたのは
カラオケから出てそのまま別れたはずなのに、追いかけてきてまで苦情を言われるとは。でも無関係なのに巻き込んでしまったから、彼女が一番不満を持っていても不思議ではない。
「ごめん。……わたしもあそこまで二人が険悪とは思ってなくて……」
「怪獣大戦争に一般人を巻き込むなっ!!」
「怪獣って」
たしかにわたしや未美からすれば、白戸さんも葉寺さんも普通なら関わるような相手ではないし、その二人がケンカを始めたら一般生徒のわたしたちは逃げ惑うしかない。
「まずなんで私を呼んだ!?」
「……未美がいたら、良い感じにバランスが取れるかなって」
「取れるか!! あの二人と戦うなら百人はいるだろっ」
「戦うつもりはなかったんだけど」
二人が戦ってただけで、未美は壁とにらめっこしてただけだよね?
「だいたいあの二人――」
未美がなにかを言いかけて、わたしの顔を見ると眉間にしわを寄せて黙った。
やっぱり怒っているな。
「と、とにかく、巻き込んでごめんね。二人に、わたしの友達を紹介したかったんだけど」
「……紹介って、白戸や葉寺に紹介するような人間でもないでしょ。私」
「そんなことないってー。未美はほら、ザ・わたしの友人だよ」
「それ褒められてないな。ま、あの二人と比べたら、千冬とお似合いの一般生徒だけどなー」
唇を尖らせているが、これについては怒っていないようだった。
いや、褒めてはないけど、わたしとしてはありがたいし、本当に友達だと思ってだからね!
そんなこんなで、今度はいつメン(いつものメンバー)でまたカラオケに行く約束をして、未美はやっと納得してくれた。
去り際に「千冬が言い逃れできないように証拠集めてから、多対一で袋にする」と言っていたのでもう怒っていないと思う。
え、怒ってないよね? 証拠ってなに?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
怪獣二人の方とは、それぞれ個別に話す約束があった。
カラオケの件があったからというわけではなく、元からお昼と放課後にそれぞれと勉強する話である。
そこで改めて話を聞こう。必要なら頭も下げようと思っていたわけだ。
最悪、もうお前とは話さん! と拒絶されることもありえる。
お昼休み、わたしは生徒指導室の前でいつになく緊張していた。
白戸さんには、けっこうなことを言ってしまった。
なんせ「もうこれ以上白戸さんとは友達でいられないよ」とはっきり言ったのだ。
愛想を尽かされて、もう来てくれない可能性はある。
正直、白戸さんからの好意は身に染みて感じていた。身というか、体の特定部位というか。
だからまあ、ちょっとやそっとで嫌われないんじゃないか――みたいな甘い気持ちもある。
それでも、彼女がわたしの想像を超えて葉寺さんを恨んでいたように、わたしへの気持ちなんて実際はそこまででない可能性もあるし、葉寺さんのことを我慢するくらいならいくら好意があっても――ということだってありえる。
ありえる、よね。
葉寺さんが嫌いすぎてって。一応最終的には、わたしは白戸さんの肩を持ったつもりはある。ただあれは、白戸さんだからとかじゃなくて、単純に二人の話を聞いて、自分だったらと考えた結果だ。別に白戸さんに良い顔したわけじゃない。
だから、自信がない。
今日も白戸さんが来てくれるかどうか、不安だ。
「……うう、どうしよ」
つぶやいてしまうと、余計に心がそわそわしてきた。
白戸さんとの付き合いは、期間で言えばたいしたことないけれど、濃密だったから、今日からまた他人となってしまったら、やっぱり悲しい。でも修学旅行前までは、全然住む世界違う感じだったしな。元に戻るだけかな。
うん、そう考えたら、仕方ないのかも知れない。ちょっと胸をもまれて、ファーストキスも済ましちゃったけど、それだけだ。忘れよう。あれはなんか夢みたいなもので。
「……千冬さん」
わたしの名前が呼ばれる。
その声に、思っていた以上にわたしは安堵してしまう。
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