その⑦ カラオケ
カラオケの一室に集まったのは四人、わたし以外の三人は困惑の表情を浮かべていた。――ってこともないか、
「お、おいっ!?
「なになに、ジョイのがよかった?」
「いや、それはダムのが本人PVあるからダムだけど……ってそうじゃなくてっ!」
多分、一番状況を理解できていない
事前に話したら拒否されると思ったので、あえてなにも説明していない。
「……な、なんで
声を潜めながら、部屋の両端に座る二人へ視線を送った。葉寺さんの方はわたしと未美が騒いでいるのも特に気に留めていないようで「うわっ、前の人洋楽ばっかだ。ウケんな」とかつぶやいている。白戸さんの方はこの状況に怒って――「そんなことしたらっ千冬さんの服が乱れてっ、し、下着が服の隙間からっ!!」と立ち上がりかけていた。
シャツの胸元をつかんでいた未美の手を押し返して、服を整える。白戸さんは残念そうに座った。
どうやら、思っていたよりは怒ってはいないみたいだ。
わたしは三人に、「カラオケ行こう!」としか伝えていない。
それぞれこの場所に、わたし以外の面々が来ることは知らされていなかった。だからまあ、未美だけじゃなくて白戸さんもこの状況に対してわたしへ何かしらの文句があるとは思う。
「えっと……今日は、わたしの友人たちの……親睦会?」
にへらっとぎこちない笑みを浮かべて、三人に言う。
わたしは博愛主義者でもないし、友達みんな仲良くみたいなことを押しつける気持ちもない。だから白戸さんと葉寺さんの仲がこのまま悪いままでもかまわない。
ただわたしと白戸さんとの関係が、これから前進というか近づくというか――ともかく変わったとして、今のままでは問題だ。
主に、白戸さんのスタンスとして。
わたしは友達が多い方ではないけれど、一々わたしの友人関係に口を挟まれたら早々に耐えられなくなって、白戸さんとの仲が破綻するのは目に見えている。
であれば、前もってわたしが友達といつも通りにしても白戸さんが大丈夫かははっきりしておくべきだ。
白戸さんが、わたしに取って誰が特別か確認しようとしたのと同じ……というと試すような感じもするけれど、でも友達と上手くやれない人とは、特別親密になれる自信がないのだから仕方ない。
(だいたい、白戸さんの認識する友達とわたしの友達はなにか違うんだよね……)
もしかするとだかれども、白戸さんは人気者でいつもいろんな人達から囲まれているが……いわゆる親しい友人みたいなものがあまりいないのかもしれない。
人気者だからこそ、みたいなものだろうか。
わたしにとっての友人関係が、世間一般的なものかはわからないけど。
それでもわたしにとっての友達としての距離感を白戸さんに知ってもらいたい。と思ったのだ。わがままというか、白戸さんに対して勝手なわたしの要求だろうか。
「親睦会って、千冬……っ、なんでそんなところに呼ばれなきゃ!!」
「えーっ、未美だって白戸さん達とのこと説明しろって言ってたじゃん」
わたしが急に二人と仲良くなったことを、友人達は興味津々だった。適当に「たまたま仲良くなって……友達になっただけ」とはぐらかしてきていたけれど――はぐらかすもなにも事実ではあるよね?
せっかくなら、本人達を交えて説明しようというわけである。
全員呼ぶと場が混乱しそうだったので、代表者として未美を呼んだわけだ。
わたしの友人代表。
「あははっ、親睦会か。ならまっ、改めてよろしくな。未美。あたしは――」
「はひっ! お名前は存じ上げておりますっ! 葉寺さん!」
普段はわたしにちょっと上からな未美が、クラスでも目立った葉寺さんの前で縮み上がっている。葉寺さんは気にした素振りもなく、
「そかそか、クラスメイトだもんなーっ。呼び捨てでいいからな!」
と未美に肩を回して笑う。まあ、さっきから呼び捨てしていたのも聞こえていたと思う。
「そっちは、どうなん? あたしと仲良くする気はあるわけ?」
「……未美さん、よろしくお願いします。白戸
目線を向けられた白戸さんは、露骨過ぎるほど無視して未美に手を伸ばす。
葉寺さんに肩を組まれながら、白戸さんと握手する未美は泣きそうだった。
ごめん。と思いながらわたしは笑いを堪えるのが大変だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます