その⑤ 友達
昼休みにはまた生徒指導室で
あんまり生徒指導室通いしていると、不良生徒だって噂されないだろうか。赤点三つなのであながち否定もできないんだけど。
非常にありがたいことで、白戸さんも
「肩、凝ってませんか?」
ただし白戸さんが味を占めたのか、教科書を開く前にそんなことを言い出すのは問題だった。
「……もしかして、毎回それくらいのお礼がないとってことなの? わたしもお世話になっている手前、あんまり言い返すつもりもないけど」
「そ、そんな! すみません、お礼をせがんでいたつもりはありません。ただ純粋に……」
「わたしの肩が凝っていると?」
「……
葉寺さん、本当ですか。本当にこの人プライド高いんですか。
上目づかいにわたしを――わたしの胸を見る白戸さんは、甘えるような可愛さよりも、手段を選ばないあざとさが気になった。ないように見えるけど、プライド。
「わたしと白戸さんは……まずはお友達で――」
しかしこの何度か言った断り文句も、修学旅行で友人たちに胸をもまれていたという反論が返ってくるのがわかりきっている。
体育の着替えの時だって、軽くそういうじゃれ合いだってある。
悪いのはわたしなのか。気軽に友達に胸を触らせてしまったから。
「……あれだよ? 確かにさ、わたしは
「そ、そういう目的?」
「じゃれ合いっていうか、その……エッチな目では見てないし」
「……エッチ……千冬さんの胸は……」
白戸さんの赤らんだ頬、なにより今日までの彼女の言動からもやましい気持ちなのは間違いない。本人も、それは隠していないし。
「で、でも! その……千冬さんのご友人を疑うようで申し訳ないですが、千冬さんの胸をなんの感情もなく触れる人間がいるとは思えませんっ! その触り心地に、やらしい気持ちにならない人間がいるなんて!」
「いるよ! だってほら、女子だし。胸って自分にもあるし」
「ないです! 千冬さんの胸はありませんっ。別物です!」
「……そりゃ大きさとかは違うけど、そんな大差ないと」
なんて胸の大きいわたしが言うと、「おい、千冬。持たざる者たちを愚弄しているのか?」なんて未美あたりににらまれる。別に煽っているわけじゃない。本当に質量が違うだけで、触り心地とかそんなに差はないと思う。
「とにかく未美とかは違うって! わたしの胸に興味とかないから」
「信じられません。絶対内心いやらしい気持ちで見ています」
「やめてって。わたしの友達が……」
「すみませんっ、千冬さんのご友人に失礼を」
友達を悪く言われているというより、「友達がわたしをそういう目で見ている」と言われるのが嫌だったのだけれど、まあ未美の名誉を守るためのほうが大義名分だろう。
「……千冬さんの言うとおりです。私は千冬さんのこといやらしい気持ちで見ています」
「あ、うん。そこは別に改めて宣言しなくても」
「ご友人という関係で、いやらしい気持ちを持って千冬さんの胸に触れると言うことは道理に反している……というのも、一理あると思います」
「一理かぁ。八十くらいはあると思うけど」
つまり、いやらしいことがまかり通る友人関係は許容したくなかった。
「私は、千冬さんの胸にさわってはいけないということでしょうか?」
想像はしていたけれど、それ以上にしょぼくれた顔をされてしまう。白戸さんはうつむいて、鼻をすんすんと鳴らした。え、泣いてないよね?
「いけないって言うと……でも未美たちと白戸さんは違うっていうか……だから毎回友達を引き合いにし出して、胸を触ってもいいって許可にされるのは困る」
「私は違う……」
「だって、そうでしょ? 白戸さんは……わたしのこと、ただの友達って思っているわけじゃないんだから」
「はい」
自分でも変なことを言っている気がした。でも白戸さんがわたしに勉強を教えてくれる代わりに、なんらかの道理を教えることが少しでも恩返しにならないだろうか。
いやらしい気持ちで友人の胸を触らないこと。
うん、学んで欲しい。
「私は、他のご友人よりも特別と言うことでしょうか?」
「……そう、かな?」
「未美さんたちよりも、上ですか」
「……上下ではないけど、でも他の枠ではあるし、特別だと思うけど」
白戸さんの可愛らしい眉間にしわが寄った。「むむ」と口を結んでいる。つい二日前に「まずお友達」で始まったはずなのに、なんだか上手くいっていない。わたしが狭量なのか、白戸さんが特殊すぎるのか。
「……
「え、友達だよ?」
「……私とどっちが上ですか?」
「いやいや、だから友達に上も下もないって! 白戸さんはちょっと特殊な位置づけなだけで、友達としてはみんな同じだからっ!」
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