その⑫ 報酬

 どうも白戸しらとさんと葉寺はでらさんの二人は幼稚園の時からの幼馴染みで、しかも今は仲が悪いらしい。

 白戸さんが一方的に嫌っているだけのようにも見えるし、葉寺さんにもなにかあるのかもしれない。


 ともかくその二人に挟まれる形で談笑しているわけだった。


「そういえば、千冬」

「ん?」

「さっきさ、夕里ゆうりのこと見つける前、なにか言いかけてなかった?」

「え、なんだっけ――あーっ」


 そうだった。葉寺さんに相談する流れで、テストで赤点を取って追試の勉強を手伝って欲しいと頼むところだった。


「あのね……えっと、恥ずかしながら実はうっかりで……」


 ちょうど勝手ながら頼りの候補にしていた二人がいるので、わたしは事情を話した。


「あはははっ、なんだそれ。三教科もうっかりするか普通? いいよ、あたしだったら全然勉強くらい教えてやるって」

「本当に!?」

「ま、タダとは言えないけどなぁー。なんか甘いものくらいご馳走してもらわないと」

「たらふくケーキをご馳走させてくださいっ、葉寺様っ」


 深々と頭を下げると「任せろ」と葉寺さんが胸を叩く。

 よかった、これで悩みが一つ解決した。まあ勉強自体はこれからだし、本当に大変なの今からだけど、教えてもらえる算段がついただけでも助かった。


「待ってください。私のが葉寺さんより成績いいですよ」

「そうか? たいして変わらないだろ」

「変わります。……私、学年で一番ですから」

「ま、でも追試の勉強くらいならあたしでも教えられるだろ」


 わたしとしても、正直どちらに教えてもらっても構わないというか――そこにわがままはないし、どちらでも教えてくれるならありがたい。

 ただこの仲の悪い二人に、同時に頼んだのは失敗だった。


「千冬さん、私はタダでいいです。だから私に教わった方がいいです」

「なんだなんだ。値下げ交渉か? わかったわかった。あたしも千冬にケーキたかろうとしたのは悪かった。よっし、お姉さん、千冬ちゃんの熱いチッスがもらえたら、それで勉強教えてあげるぞ」

「ちちちち、チッスっ!?」


 白戸さんが立ちあがった。


「……えっと、いや、ケーキの奢りで……というか奢らせてよ。タダで教わるのも悪いし」

「千冬はわかってる。追試合格祝いでぱーっとやるのが正解だよな」

「わ、私も……チッス……」

「あ、あとほら、三教科あるし……もしよかったらだけど、二人に教えてもらえると。それから白戸さん、目立っているから座って」


 白戸さんは座った。


「なら、私が二教科教えます。お礼はその……た、タダで……いいんで……」


 さっきより不承不承な感じだった。お礼がほしいらしいけれど、


「白戸さんにもケーキ奢るから、ね?」

「は、はい……」


 一旦これで納得してもらう。


「ま、あたしはバイトもあるしそれがちょうどいいかなー。じゃ、夕里に二教科は頼むよ。ちゃんと勉強教えろよ」

「……葉寺さんこそ、もし千冬さんが追試落とすようなことがあれば、覚えていてください」

「あの……わたしが頑張れなくて落とすケースもあるので……やめてね?」


 そんなこんなで、わたしは仲の悪い幼馴染み二人に勉強を教えてもらうことになった。

 二人とも勉強はできるし、これで追試もなんとかなる。

 そう安心したのだけれど、しかしここからもっと大変なことになるとは――いや、まあ予想がついてもおかしくなかった。もう少しよく考えれば……。せめてどちらか一人にだけ頼っていれば。

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