その④ ギャルと胸
教室に戻ると、わたしを見てクラスメイトの何人かが声を潜めて何か話しているのが目に入った。
これだから、人気者は。
二人でお弁当を食べただけで噂されるなんて面倒な。
(でもまあ、もっと大変なのは白戸さん本人か……わたしなんかと一緒にお昼食べて、いろいろ友達に聞かれているかも)
わたしにはわからない人気者の苦悩というのもあるのだろう。
あれだけ人気なら、わたし以外にも胸くらいもませてくれる友達がいるんじゃないだろうか。そうだ、白戸さんならファンとか、それこそ白戸さんが本気で好きって子だっているはずだ。
(やっぱりあれかな……大きさ?)
先ほどわたしと白戸さんを目撃した友人――
しかしわたしは無視して、聞く。
「やっぱりわたしの胸って……学年でも大きい方だよね?」
「……千冬、自分に自信があるのはいいことだけど。……どうした? 白戸さんと自分を比べて、胸以外に勝てることがないって気づいた」
「違うって!」
否定したけれど、そうかもしれない。
「じゃあ、白戸さんとなにしてたんだ?」
「い、一緒にお弁当食べてた」
「そういうこと聞いてたんじゃなくて」
「授業! 始まるから!」
この胸に抱えきれないほどの悩みは次の授業の先生が来るまでの短い時間では説明できない。わたしは逃げるようにして、話を打ち切った。
未美には、いつかちゃんと相談したいけど。
しかし、わたしはこの時ちゃんと未美と話し合うべきだったのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇
いくつか面倒な授業が続いて、気づけば放課後だった。
未美と一緒にファミレスかどこかに行って、お昼のことと、それから改めて修学旅行のことを――もちろん、全部をそのまま話すことはできないけど。胸のこととか――話そうと思っていた。
だけどわたしが未美に話しかけるより先に、
「あんただよね、千冬っての」
突然、声をかけられた。
見知らぬ相手ではない、クラスメイトだ。
名前も知っている、たしか
クラスメイトの苗字はまあだいたい覚えているけれど、フルネームが言えるのは、葉寺さんが目立つ女子だったからだ。
「どうしたの? 違った?」
「えっ、いや……わたしだけど……わたし、です」
「そっか、ふぅーん」
葉寺さんは、わたしを――というかわたしの胸をじっくり見た。
「たしかにね、なるほど」
「なにがっ!?」
どいつもこいつもわたしの胸に何の用だ、とつい大きな声を出してしまった。
しかし、すぐ「すみません」と小さな声で謝り身を縮める。
葉寺さんは、見た目も派手だけれど、つるんでいるのもちょっと遊んでいるタイプの目立つ子ばかりで――つまりまあ、ギャルだ。
クラスでも発言力があって、注目されている感じの子。
そんな子が、わたしの胸をじっくり見て、なんなの!?
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