その後

 あの後なんとか一線を守ったまま、わたしは白戸しらとさんから逃げ出すことができた。

 ただし散々帰りを待たせてしまった上に命からがら逃れたこともあって、頼まれていた菓子類を買わず手ぶらで戻ってしまい、


千冬ちふゆはお使い一つまともにできんのかっ!!」


 と怒られてしまった。

 もちろんそこまで本気ではなく、そのままじゃれつくようにくすぐられたり、胸をもまれたりとふざけている間に許してもらえる。

 ――体のほてりがどこか残っていて、友達相手だって言うのに触られた胸は少しだけ熱かった。でも白戸さんにもまれたときと比べると……。


 もんもんと眠ったせいか案の定、寝付きが悪いままに一人みんなよりも早く起きてしまった。

 仕方なくまだ日が昇ったばかりで人気のない廊下をうろついていると、どういう縁なのか白戸さんと出くわしてしまう。


「千冬さん、どこか体調を崩されていますか? 顔色が少し優れないようですけれど」


 朝からまぶしいくらいに可愛らしい彼女は心配げに声をかけてくるが、


「いや、白戸さんのせいだからね!?」

「私ですか?」

「…………」


 白戸さんにもみしだかれたせいでと言うのは、何か気恥ずかしいので言いよどんだ。代わりに、


「だってお使いの途中だったのに、白戸さんのせいで帰るの遅くなって……友達に怒られて……くすぐられたり、もまれたりで大変だったんだよっ!」

「もまれて……? え。またご友人に胸をもませて?」


 白戸さんの早朝に合った涼しげで可愛らしかった顔が一変して、真剣なまなざしを向けてくる。


「なら私もまたもませてもらっても大丈夫ですよね? 先日は千冬さんの想定以上に元気で胸と口だけでしたが、今回はもっと他の部分も……」

「えっ!? いや、ちょっとあの……白戸さんは胸が好きなだけなんだよね? 落ち着いて、胸は! 百歩譲って胸だけならいいからっ!!」

「ふふ、胸も好きですが、千冬さんのことは大好きですよ」


 わたしのことを好きっていうのは、聞いているけれど。


「嘘だ。絶対胸のが好きだよ……。昨日のアレは胸が好きな人のもみ方だったよ」

「…………胸は好きですが、そう言われると少し寂しいですね。誤解を解くためにも、千冬さんへの愛もしっかり証明させていただきます」

「えっ!? ちょっと待って、今からっ!?」


 朝早くのホテルの廊下にはわたし達以外の人通りもなく、抵抗むなしくまたリネン室へと……。



 ―――――――――――――――

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 短編として掲載していたものはこの話で終了となりますが、2024/01/08から連載版を始めました。

 もしよろしければ、引き続き読んでいただけますと大変嬉しいです。

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