その呼称はたしかに、二人の愛を示す

…………さて、さすがにこの時間なら大丈夫でしょう…………。ミケさんすら寝てる時間帯に起きるわけ………。


「………………オイ…………どこに行くんじゃ…………?」


「ゲッ…………!!あっ、いや、別に、ちょっと早く起きちゃったから、ちょっと水を飲もうと…………。」


「その割には……随分と探索向きな格好じゃな?」


「………………。」


動きやすい皮のズボンに上も訓練用の可愛くは無いけど動きやすい皮Tシャツ、そして何より、森林探索にいつも使うママ特製のマジックウエストポーチ、ママ曰く『空間魔法鞄』らしいけどこっちの方が呼びやすいし分かりやすい。


て………そうではなくて、明らかに寝起きの人間の格好じゃないのはどこをどう見ても明らかであった。


「………………お………お昼には戻るよ!!!!!」




サッ!!!!




「おいコラァ!!!!!待てぇ!!!!!!ミコトォォォォ!!!!!!!!」


「ごめんママァァァ!!!今日はどうしてもフェデルとの約束があったのおおお!!!!お土産持って帰るからああああぁぁぁ!!!!」


乱雑に撃たれる風魔法を軽くあしらい、ワタシは森の中に颯爽と駆けていくのであった…………。













ワタシがこの異世界に転生してから、実に5年の月日が経った。変わったところはところどころある。

ワタシは転生してから今日まで、このヴィーヴル大森林を抜けたことは無いが、その全域を探索したと言っても過言では無い。実質この森全部ワタシのお家ってところ?


それと、クレアの呼び方も変わった。5年の歳月、雨の日も風の日も、魔物に惨殺されそうになった夜の日も、キッチリワタシの面倒を見てくれて、遠慮せず喧嘩できるし、怖い時は何だかんだそばに居てくれる………そんな彼女にワタシはいつの間にか母性を抱いてしまっていたのだろう………。

ある日たまたま、ママと呼んでしまい、その瞬間は冷ややかな目をされたものの、何回か呼んでいくうちにお互いこれが定着してしまった。ママ以外は特に呼び方変わってないけどね……。


そして、それなりに強くもなった。ママことクレアとの組手は息切れせずできるくらいには強くなった。魔力武術もママにお墨付きをいただけるほど、今ではフェデルも遊び相手に丁度いいと言ってくれるくらい。果たしてこれがこの世界でどれくらいの強さなのかは分からないけど、まあ少なくとも1国を滅ぼせる異常生態種ユニークモンスターとの遊び相手をできるくらいならば、自立しても食い扶持には困らないくらいは動けるだろう。

まあ肝心の個人異能力ユニークは発現していないのが悲しいけど………。


ママが言うには、個人異能力ユニークの発現は完全に個人差であり、中には個人異能力ユニークを持たない人もいるらしいから、まあそこはしょうがないかもしれない。


で……そんな色々変わったワタシがこんなに朝早く怒鳴られながら一体何してるのかと言うと、フェデルに魔纏まてんを施したお肉をあげる代わりに、フェデルにをしてもらっていた。





『ムッ………来たか、ミコトよ。』


「ヤッホーフェデルーーーーー!!!お肉持ってきましたよ~~~っと!!!」


家から全速力で走って来ていたワタシは、なんとかフェデルの手前で急ブレーキに成功。摩擦で草原がちょっと削れちゃったのはご愛嬌だね♡


『フハハハハ!!!待っていたぞぉ!!!肉に魔纏を施すのはお前ら以外出来なかったからなぁ、クレアとミケのものも美味いのだが、我はミコトの作ったものが特に好きなのだ!!!』


「ま~たそんな上手いこと言っちゃってぇ~。それよりも、今日は続き続き!!はい!よろしくぅ。」


『何だ何だ、忙しない奴め。どれ、どこまで話したところだったか…………。』


ワタシは最近、フェデルに昔話を聞いている。それは、何を隠そうママのことである。


ママはともかくミケさんも滅多に昔のことを話したがらない。それこそ、ワタシが転生して来てからあの破壊神の昔話を聞いたあとは、過去の話は一度も聞けていない。聞いても、上手い具合にはぐらかされてしまうのだ。


その代わり、いつか行くかも………ていうことで、修行を始めてからずっと、ママとミケさんには現在の世界のことを色々教わっている。



この世界ではどんな組織があり、どんな風に世界が分かれていて、どんな国があるのか。冒険者というこの世界で一番有名な職業があり、どんな職業でどんな立ち位置なのか、あとは最近の世界情勢とか…………まあママとミケさんが喋る世界情勢も、フェデルが森の魔物達に聞いた、人伝の獣伝の獣伝なので正確性はそこまで無いんだけどね…………。


そう、森林に入る情報源は全てフェデルから伝わる話なのだ。じゃあ本人に聞いた方が早いじゃん?てなわけでワタシは最近フェデルとよく会う。


よくよく聞いてみると、フェデルはママとミケさんそれぞれと旧知の仲らしく、色々な昔話もそれなりに知っているらしい。


ならば話は早い!!!って言うことで、魔纏した生肉をこっそり持ってくることを条件に、フェデルには色々な昔話を話してもらってる。


『……………しかしミコトよ……何故お前はそうまでしてクレアやミケの昔話を聞きたがる?少なくとも、初めて会ったお前は特にそんなことは気にしていないように見えたが……。』


「え~………そう言われると困るけど……………せっかくこうして家族になった人達がどんなことしてきたか、知りたくなるのは子供心って感じじゃない?」


『………そういうものか……?いや、お前が言うのならそうなのだろうな。』


「それよりも!!!早く早く!!!次はアレ!!ミケさんの獣王国騎士団のお話!!!」


『ああ、そうだったな………アレは……。』


まあ、ワタシが転生前の話をしてないからきっとお互い様ではあるんだろうけど、歴史の教科書どころかその辺の中学校の卒業アルバムにすら全然写真が無いような女の半生なんて、別に聞いても暇だろうし、それこそ知りたいなら勝手に調べましょうってところかなぁ。


あんな中途半端に昔話だけされて、その続きを知らないまま終わるのは、元オタク魂の名が廃るってやつよね!!!!


こうして、長く話を聞き過ぎてお昼をとっくに過ぎたあと戻ったワタシは、修行でミッチリとママにしごかれるのであった。






















「ねーねー、そういえばワタシが来てから随分経つけど、結局1番最初に言ってた予言云々はどうなったの?」


修行を終え夕飯時、みんなで食卓を囲むこのタイミングでワタシは開口一番聞いてみた。


なにか都合が悪いのか、ママは一瞬食事の手を止めた。


「ああ、あれはまだ少し調べてる途中じゃ。お前は気にせんで良いぞ。」


「何を調査中なのよ?まずワタシが来たことで封印解かれるってどうやって?結構ワタシも魔力の生活に慣れてきたから分かるしこの森林も随分回った、けど破壊神の封印の鍵になりそうな特殊なものなんてどこにも見当たらなかったよ?」


「だから調査中と言っておるのじゃ!分かったら黙って食え。」


何よ………急に機嫌悪くなっちゃって。


…………いつもならここで聞くのを止めているけれど、なんか今日は頭に来る。修行で扱かれたからだろうか?



ちょっともう一押ししてみようか……。


「なにその言い方?予言もしっかり見せて昔話をガッツリ覚えさせといて、絶対ワタシが関係あるからここに置いてる癖に、そのワタシ本人には全く何も言わないわけ?」


「ミ……ミコト様……その辺に……。」


何かを察したのか、ミケさんはワタシを宥めに掛かる。


だがもちろん、その言葉に反応しないほど、ママは穏やかじゃなかった。


「うるさい!!!!お前は何も聞かず修行しておれば良いのじゃ!!!これはワシの問題なんじゃ!!!お前が首を突っ込む話じゃないわい!!」


「はぁ!?何それ!ワタシのせいで封印が解かれるかもって言ってここに置いてるのはママの方でしょ!?ワタシはそれをちゃんと信じて今!こうして!ここに5年も居てあげてる!!!けど、最初以来その話は一切話さない。それどころか、ママが最初に話した昔話に関するようなママやミケさん自身の身の上話は二人とも全然してくれない!!!たしかに5年前は過保護にされても仕方ないくらいワタシ弱かったよ!?けどさ………今はもう違う………。ちゃんと強くなったよ?」


……………アレ……、軽く喧嘩しようと思っただけなのに自分でも抑えきれないくらい結構爆発させてしまっているな……。でも、ここまで言ってしまったらもう止まれない!


「ミコト様、クレア様にもクレア様なりの事情が………。」


さすがにまずいと思ったミケさんは、ワタシを制止する。しかし、そんなんじゃワタシも、ママも止まらない。


「うるさいぞ!!!ちょっと修行したからって調子に乗りおって!!!強くなった!?そんなもんワシをグーパンでぶっ飛ばせるくらいになってから言え!!!あの時はただ預言書の予言のことを話しやすそうだからと昔話をしたまでじゃ!!!ここからはワシらの問題なんじゃ!!!!もうこれ以上首を突っ込むでない!!!!」


「ク………クレア様!!!」


「…………!!!」


ママは…………………いや、は、自分の発言のあとすぐに、中々まずいことを言ったことを悟ったのか、まさに『しまった』と顔に書いているような焦燥感の漂う顔でこちらを見つめていた。


そっか……………何だかんだママだの家族だのって…………まあたしかにワタシしかそんなこと言ってないもんね。


「………………ごめん……そうだよね。一人でママだ家族だってはしゃいでたワタシがおかしかったよね。…………………………ごめん、もう何も聞かないよ。………………………部屋……戻る。」


自然とポロポロ涙がこぼれおちた。そんな顔を隠す余裕も無く、ワタシは二人の視線を受けながら自室への階段を上がる。

バカだなぁ、軽く喧嘩してやろうだなんて…………それで余計なこと言った結果がこれだよ………。結局、他人は他人…………そういうことらしい。




一緒にご飯食べてお風呂に入って、怖い時は一緒に居てくれて、ずっと面倒見てくれて……………勘違いしてたのは………ワタシだけだった。




あーあ、結局、死ぬ前と一緒か……。




さすがに自室でも寝る気が起きず、気付けばこっそりと、ワタシは玄関から出ようとしていた。


「………!!ミコト様!?もしや今から外に!?」


「…………少し、頭を冷やしてきます。」


「しかし!クレア様に怒られますよ?」


…………思わずハァ……とため息を吐いてしまった。別にそんなに心配しないでよ?ワタシはすでに十分森を散歩できるくらいには強くなっている。それに………………。


「大丈夫です。心配しないでください。ほんとに少し、散歩してくるだけなんで。それに…………他人のワタシが死んでもミケさんの責任じゃないですよ?」


「ミ…………ミコト様……。」


とても悲しそうな顔をするミケさんを背に、ワタシはこの家を出た…………。

























「……………………………………。」


「………クレア様……。」


「………………すまぬ、ミケ……………今は一人にして欲しい。」


「……………はい。かしこまりました。」


覚束無い足取りで、いつの間にかワシは自室のベッドの上で寝転んでいた。


どうして……………どうしてあんな突き放し方をしたのだろうか…………。


最初は、ミコトの気が狂ったのかと思った。それは今でも思い出す二年前、修行の最中の休憩中、やつは突然ワシを呼ぶ時にこう呼んだ………『ママ』と。


最初は耳を疑った。ついに耳が腐ってしまったかと思った。だが、やつは間違いなく綺麗に発音していた。


『ママ』と。


正直言葉が出なかった。


御歳約500と幾つ、細かい歳はすでに覚えていなかった。すでに老婆と呼ばれてもおかしくないワシに、『ママ』と。やつはそう言ったのだ。


おそらく言った本人も相当驚いていたのだろう、口を両手で抑え顔を真っ赤にしていたのを覚えている。


この時やっとワシも、ああ、間違いかと気付く。間違いだと、思っていた。だからそのあとはいつもに表情で、いつも通り「何じゃ?」と反応してやった。


その時の返答でワシは一番頭がおかしくなりそうだった。


「せ…………せっかくだから、これから『ママ』って呼んでいいですか?」


と言ってきた。ワシは二度目のフリーズを迎えた。思考が停止した。その時の考えは、焦っていたのか良く思い出せない。だが、回答はよく覚えている。


「……………別に…………良いけど。」


思わず変な喋り方になるほどじゃが許可してしまった。


まあ今も思う気持ちは一緒じゃからきっと、あの時もこう思ったのだろう。『案外悪くない』と。


そうなんじゃ、正直悪くはなかったのだ。実際、すでに子供をあやすような感じで暮らしていたのは事実だし?


……………最初は、ワシが巻き込んでしまっているから、ワシが守らなきゃ………そんな気持ちで彼女をこの家に置いていた。


預言書の予言とは言え、無理やり引き止めたようなものだから。だからこそワシはミコトに、ワシのような人間にはならないで欲しかった。


あやつには自由に生きて欲しいと思った。だからこそ、破壊神に関する件はワシと、ミケとで全て解決してやろうと思っていた。


だが、どうやらそれも裏目に出たようだ。


結果としては彼女を突き放す形になり、今まで築いた信頼を自ら壊すような形となった。


「ほんとに…………何やってるんだか………………。」



「ヴォウ!!ヴォウヴォウ!!!」


む………?この声は、フォレストウルフ………?


玄関の方から聞こえる……。


ワシは急いで玄関まで戻りその扉を開ける。ミケも気付いていたようで、すでにそこに居た。


扉を開けると、一頭のフォレストウルフがこちらに向かって吠えていた。


「ヴォウヴォウヴォウ!!!」


「ふむ………こんな夜中にどうしたんじゃ一体………。ミケ、通訳頼む。」


「はい、承知しました。」


獣人であるミケは、こういう時言葉を発することの出来ない獣の言葉も読み取ることができる。まあでも、それこそフォレストウルフくらい頭のいい獣の言葉じゃなければミケでも分からないらしいが………。


「どれどれ、なるほどなるほど。…………!?」


フォレストウルフの言葉を聞いたミケは、明らかに動揺していた。


「どうした?何かあったか?」


「…………クレア様……こんな夜ではありますが……いや、夜だからこそ狙っているのでしょう。です。黒装束の魔道士、およそ50人………。森の入口で半分に別れ森を探索しているようです。……………森の獣を無闇に殺しながら………。」


「……………!!!分かった、ワシが行こう。………ミコトにはミケからくれぐれも外に出ることは無いように伝えてくれ。」


「…………………………。」


「……………?何をしているミケ?急ぐぞ!!!」


いつもなら即承諾、即行動のミケの動きが鈍い。どうしたんだ?


「クレア様、ミコト様はつい先程、散歩がしたい…………と外に………。」


!?!?!?


「ミケ!!!家周りの防衛を頼む!!!!」


「…………え!?」


「頼む!!!お前しかいないんじゃ!!!頼んだぞ!!!」


「…………承知致しました。ミコト様のこと、くれぐれもよろしく頼みます。」


寝巻きのままだったけど、そんなの大したことじゃない!


ワタシは急いで家を飛び出し、森林の奥まで走り出すのだった。



























「帰ったら…………ミケさんに謝らないとなぁ…………けど、なんかもう帰りづらいなぁ。」


家を出る時、たまたまミケさんと遭遇してしまい、ついミケさんにも酷い事を言ってしまったような気がする。

だが、ワタシが言ったことは事実しかない。結局ワタシ達は他人だし、お互いにどう死のうとお互いの責任じゃない。だから、ワタシがこれで野垂れ死んだとしても、ミケさんの責任ではないのだ。


気付けば、ワタシは自分がこの異世界で生まれ落ちた女神の聖水域せいすいいきに来ていた。


最初にこの世界で生まれた(溺れてたけど………。)場所だからか、この場所はワタシにとってとても落ち着ける場所になっていた。クレアと喧嘩した時はいつもこの場所に来ている。


「ハァ…………これからどうしようかなぁ。」



「おい、何か居るぞ。」



!?!?!?!?



背後から見知らぬ男の声がする。


驚き急に後ろを振り向くと、そこには全身黒装束で、顔も見えないくらいに黒いフードを深く被った奴らの集団がいた。


ていうか…………え!?何者!?


「え、え~っと、あなたたち、どなたでしょうか?」


「ふむ、人間か……………どう致しますか?殿。」


先頭にいた黒装束は、後ろの方にいただいたいミケさんと同程度の160cmくらいの少々小柄な背丈をしていた、ちょっと豪華な宝石とかが付いてる派手目な黒装束に話しかけた。


「ん~?人間か……。ちょっと僕に話させてよ。」


そんな声が聞こえたあと、シュン!という音が似合うような早さで、5mは離れていた場所からすぐワタシの目の前に現れた。


…………この人、結構強い………。


「ねぇねぇ?君、『女神の聖水域せいすいいき』って知らないかな?僕たちそれを探してここに来たんだけど。」


女神の聖水域…………それ、ちょうどここだけど…………。


ぜっっっっっっったい怪しいよなぁ…………。


「え~~~っとぉ………………………もうちょっとあっちの奥の方!!だった気が…………するかも……しれません。ええきっとおそらくたぶん。」


「フゥゥゥゥゥン……………。」


派手目な黒装束はワタシに向けて指先を向ける。すると、その指先にはあっという間に鋭利な岩石が1つの集合体となり、ワタシに向かって飛んできた。


「あっぶな!?」


間一髪のところでワタシは岩石を避ける。岩石はいつの間にか聖水域を飛び越え、その先にある大木に衝突する。大木は大きく抉れていた………。


「……………へぇ、避けられるんだ。」


派手目な黒装束は感心するような声でこちらを見つめる。暗いせいで顔はよく見えなかったけど、おそらく驚いていた………と思う。


「君………嘘ついたね……?女神の聖水域って君の後ろにある池のことだよ?知ってて騙した?それとも本当に知らなかった?まあ前者だろうから攻撃してるわけだけど………。」


「一人でよく喋るね~、一体何者ですか?ワタシ絶賛ハートブレイク中だからさぁ、怖い人達と遊んでる余裕なんて無いんですけど。」


正直本気でガードできればそうでも無いけど、それでもあの魔法当たったら痛そうだな~………とか思いつつちょっと煽るワタシ。


さすがにこれ以上森を傷付けられたら堪らないからね、全弾ワタシや地面に向かって飛ぶようにヘイト溜めないと。


「強気だね?こんな数に囲まれて、君は何故そこまで強気なのかな?」


いつの間にかワタシは、黒装束の連中に四方八方囲まれていた。けど、小柄な黒装束の言うようにワタシはそこまで焦ってない。だって………ワタシはあの異常生態種ユニークモンスターだよ?


「あなた達程度なら負ける気しないから…………かなぁ?」


「そう?じゃあ、頑張って。」


小柄な黒装束は次の瞬間浮かび上がり、手頃な大木の枝に乗り見下ろすような場所に着地した。それと同時に、周りの黒装束達に合図を出した。


「お前たち、その小娘に現実を教えてあげな。」


「「「「「ハッ!!!!!」」」」」


すると、ワタシを囲む黒装束達が360°全方向から一斉に魔法を撃ち始める。


フム…………『火球ファイアボール』、『水流ウォーターフロウ』、『風弾エアブラスト』、『雷撃サンダー』etc…………基本的な魔法+威力もそこまで無し………うん、これは………。


「避けるまでもないね。」


ワタシは一瞬で防態ガードフォームを構え、全ての魔法を、なした。


「なっ!?ぐああああああ!!」


360°飛んでくる魔法を全てなしたのだ。その魔法の行先はもちろん、各方向の黒装束達に向かうってこと。


「自分達が撃った魔法で倒れてちゃ、世話ないよねぇ~。」


ワタシを囲む黒装束の内、今ので7割くらい減った。ダメだよ、やっぱり織田信長みたく鉄砲撃つ人を分けて連続で撃てるようにするように、魔法でもおんなじことしなくっちゃ。


「…………へぇ……。」


さっきからずっと、親玉っぽい雰囲気を匂わせる小柄の黒装束は、遠くから感心したような声を漏らす。


そして、他のモブ黒装束達では勝てないことが分かったのか撤退の命令を出した。


「お前たち、やっぱり下がってろ。甘く見てた、コイツちゃんと強いや。」


そう言われると、モブ黒装束達は何も言わず下がって行った。代わりに幹部っぽい派手目な黒装束が、木の枝から飛び降りてきた。


またさっきみたいな不意打ちされたら堪らない!!


警戒を強めてワタシは防態ガードフォームを崩さない。


「興味が湧いた、お前、壊信教かいしんきょうに入信する気は無いかな?」


「…………………ハァ?」


警戒していたせいで、聞いた事のない単語に頭が拒否反応を示してしまった。えっと、かいしん?誰それ?ポセイドンとかそのあたり?


「…………その顔は、壊信教かいしんきょうを知らないねぇ?まあ良いさ、まだ知ってる人の方が少ないからね。」


小柄派手黒装束は、ワタシの目の前に降りたかと思ったら、クルッと振り返りそのかいしんきょう?とやらを語り始めた。


「『壊信教かいしんきょう』、それは歴史にも深く記されている、かのグラナディアの大国を滅ぼしかけた世界最凶の絶対悪!!!『ルドラの破壊神』の復活を目的とした教団のことさ!!!」


「……………!!!それって……。」


『ルドラの破壊神』…………間違いない、この5年で異世界も言語を必死に勉強してようやく読めるようになった頃、クレアから初めて聞いたあの本のタイトル、それこそが『ルドラの破壊神』だった……!!

じゃあこいつらが復活させようとしてるルドラの破壊神って…………………うわ、コイツらの目的なんとなく分かっちゃった。


「復活にはまだまだ、を持つものが必要なんだよ!!!君はそんな魔力を持っている!!!わかる!?さあ、歓迎するよ………一緒に………世界を壊さないかい………?」


「………………………………『突風弾ジェットブラスト』。」


かつて、クレアがフォレストウルフ一体を十数m吹っ飛ばした魔法の完全上位互換の魔法を小柄派手黒装束に放つ。


小柄派手黒装束はさすがに魔纏でガードしていたのか、数m程後ろに下がった程度だった。魔纏を施しているとはいえ、これを真正面から受けて無傷はさすがに強いと言わざるを得ない。


「悪いけど、さっきから言ってるよね?今ハートブレイク中だって…………。傷付いてる女の子無視して自分の話するとか、あなた……モテないでしょ???」


せっかく一人で居たい程ショック受けてたのに、それに浸る余裕も作らず勝手に森林にズケズケ入ってくるわ、森林が傷つく程の魔法攻撃かますわ、ぶっちゃけワタシもキレてるんだよね?????


「……………そう?君レベルなら大司教になってもおかしくなかったんだけど…………まあ良いや。破壊神様に仇なす存在は、消しとくに越したことはないか。」


相手も乗り気らしいので、この喧嘩………買います。




こうしていきなり…………転生して初めて、ワタシのガチバトルが始まった。

























「さてと、今日の目的は君じゃないからね、サクッと殺しちゃうよ~。『岩石槍ロックランス』。」


そう言うと小柄黒装束は、初撃でかましたあの鋭利な岩石を複数飛ばしてきた。5………10………15…………もっと?まあ数はそこまで問題にはならないけど。


「フン!!!」


ワタシは防態ガードフォームで構えて待ち確実にワタシに届いたところで岩を叩き崩す。ヨシヨシ、これぐらいなら………。


どおおおぉぉぉん!!!


「サ プ ラ イ ズってねぇ~。」


崩した岩の中からは高濃度の魔力の塊が出てきて、触れた瞬間それは爆発した。


「本命はお手製魔力爆弾でした~気に入ってくれたかな?」


「30点ってところかな?もっとドッキリ番組見た方が良いよ?『風雷正拳ふうらいせいけん』!!!」


バキィッ!!!といい手応えの音が聞こえる。


そこにさらに二撃、三撃と当て、トドメにもう一度渾身の突風弾ジェットブラストをかます!!!


「サプライズ成功………だね。」


ア~気持ちいい…。ずっとワタシより強い人しかいなかったから初めて攻撃を気持ちよく当てられてすごく快感だ……。


「君…………すごくムカつくね。」


さすがにフードまで被る余裕がなくなったのか、ワタシに殴られて脱げたのか、ようやく奴の素顔が明らかになった。うん、あれは間違いなく、ショタだ!!!!!


青髪クソガキショタ!!!クッソ!悪役の癖に結構イケメンなのムカつく!!!


「もう小細工は面倒くさいから良いや。が来る前に終わらせたいんだからさぁ、君さっさと死んでよ。」


そこから、青髪ショタは思ったより大量の、岩石爆弾をワタシの周りに出現させた。


うん、ほんとに大量に……。


「怒ったからって、爆弾で四面楚歌状態は聞いてないいいいい!!!!!!!」


ドォン!!ドオォン!!!と、魔力により作られた爆弾の音が何度も森林に響いていた。


明らかに物量、威力共に増えた岩石爆弾をなんとか一つ一つ防態ガードフォームで往なしていく。ただ、明らかにジリ貧になり始めてる。


たしかに余裕振ってたけど、力量差を見極め間違えたとは思っていない。明らかに魔力量は自分の方が上だった。


それだけで勝てる………とは思ってなかったけど、初手出された魔法も、命中クリーンヒットしたとしても致命傷になるほどじゃなかった。それは今でも変わらない。


じゃあ何がしんどいのかと言われれば、ワタシも原因は分からないけど、明らかに突風弾ジェットブラストで吹っ飛ばした後から、魔纏したり魔法を撃つ時に使う魔力が放出しづらくなっていた。


「どうしたのかなぁ???随分辛そうだねぇ???ちょっと休憩したらどうだい???」


「じゃあその爆弾祭り止めてくれないかなぁ~?そうしたらもうちょっとお姉ちゃんゆっくりできるんだけどなぁ~???」


まあ十中八九あのクソガキがなにかしているに違いない。クッソ!!!ムカつくけどタネが分からないと対処できないよ…………。


まずいな………アレだけ煽っといて負けるの、めっちゃ嫌だ!!!


「ダァァァ!!!もう!!!だったら正面突破!!!」


先程までの自分のペースを無理やり崩して、岩石爆弾を強引に切り抜け、ワタシは高みの見物決め込んでるクソガキに殴りかかった。


「もっかい喰らえ!!風雷正拳ふうらいせいけん!!!」


風と雷の魔法を纏った拳を、もう一度あのクソガキに放った。良い当たり!!!


……………しかし、先程とは違い、クソガキは特にダメージを受けた様子も無く、近付いてきたワタシに向かい岩石槍ロックランスが放たれる。


「ウガッッッッ!!!!???」


鳩尾みぞおちに直撃するも、魔纏で魔力をガードに多く回していたお陰でなんとか、鋭利な岩石がお腹を貫くことは無かった。が、直撃した勢いで、岩石と一緒にワタシは聖水域を飛び越える程吹っ飛ばされ、そのまま大木にぶつかって岩石槍とサンドイッチになった。


「うぐぐ………な……なんで………。」


「残念だったねぇ?あれだけ煽っといて結末はこんな無様とは…………まあこんなもんか。さっ、とっとと殺してから次は四賢者、最後に異常生態種ユニークモンスターだ。」


そう言うとクソガキは、容赦もなく、ワタシを囲んでいたのと同じくらいの量の岩石爆弾をこちらに向けて解き放つ。


……………うわぁ…………さっきからずっと言い訳してたけど、これは完全に実力見誤ったってやつ………?

なんかこのスローな感じ知ってる…………5年前にもこんな………めちゃくちゃ痛いけどもう逃げることもできない状況…………ワタシ一人じゃどうしようもない詰みってやつ…………。


あの時と違うのは、結構まだ余裕があるってこと。


けど結局、このまま物量攻めでゆっくり負けていくのは変わらないし、結局詰みなんだよねぇ…………。


いつの間にかワタシは生きることを諦めていた。まだ逃げることに全力を振り絞っていれば、どこかのタイミングで逃げる気が起きていたかもしれない。いつもの精神状態ならば、生きるためにさっさと逃げてクレアに助けを求めていた。


けど、今は違う。誰かにぶつけたかったのだ。このむしゃくしゃを、このやるせない気持ちを、結局ワタシ一人の思い上がりだったこの5年を。


「なんかもう、いっか………。」


一番違うのは、諦めがついていること。喧嘩別れしてそのまま死ぬ………うん、案外タイミングは悪く無かったのかもね………。


「ワシは、諦めて死ぬような戦い方を教えた覚えは無いぞ。ミコト!!!」


すると、ワタシの目の前に広がっていた岩石群は、一瞬にして、赤い光線によって消え去った。この威力、この声………なんで………なんで………。


「なんで助けに来てくれたの………クレア!!??」

























「せっかく来てやったのになんでとは失礼な奴じゃ全く…………。さて、我が弟子が世話になったな小童………この弟子はもちろん、この森に来てこんなに暴れてくれて、覚悟は出来ているのじゃろうなぁ?」


指の骨をパキパキ鳴らしながら、今まで聞いたこともないようなドスの聞いた声を響かせクソガキを睨むクレア。


「チッ……もう来たのかよ……早いな。おい!!お前ら撤収だ!!」


クレアを見てクソガキは、早々に逃げようとしていた。アイツ………。


「生きて帰れるとでも思ってたのか?」


音もなく、いつの間にかクレアはクソガキの背面に回り込んで攻態アタックフォームを構えていた。


「『攻態アタックフォーム:暴風轟雷拳ぼうふうごうらいけん』!!!」


ワタシの使った魔力武術の上位互換技『暴風轟雷拳ぼうふうごうらいけん』………それはクソガキに見事クリーンヒットし、いつしかのフォレストウルフの何倍もの速度と距離を吹っ飛ばされていた。


その拳の威力が高すぎたためか、クソガキを殴った方向の木々は、地面ごと円形に数百mは抉れてしまっていた。


「………………やっば………。」


もはやそれしか言うことは無かった。助けられた身で言うことでは無いが、そこまでやるかというのを見事に体現していたのだ。


クソガキを殴ったクレアは、その後凄まじいスピードで周りに居た他の黒装束も次々とダウンさせていき、最終的に、一分も経たない時間でそこにはクレアしか立っていなかった。



圧倒的



まさにそんな言葉が相応しかった。


黒装束達を倒し終わったクレアは、ゆっくりとこちらに歩いて来た。それに伴いワタシはゆっくりと立ち上がる。


うぅ………あんな口喧嘩した後なんだよなぁ………なんて言おうか………一先ずお礼だけは言っておこうかな………。


「あ………えっと…………ありが…。」


パァァァン!!!!!!!!!


静かになった森林に、大きく頬を叩く音が響いた。


結構勢いがあったため、一瞬ワタシの左頬はピリピリと痺れてしまった。


あまりに突然のことで、これまた声が出なかった。


「……………え………?」


……………目の前を見ると、そこには赤いツインテールを靡かせながら、ポロポロと涙を零しながら経つ少女の姿があった。


「ど……どうして、え………えぇ?」


「どんだけ……………どれだけ心配したと思っとるんじゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


一気に崩壊…………気づいた時にはワタシは彼女の胸に抱き寄せられていた。


な………なんか、あの時とは泣いてる立場が逆になってる………。


「…………なんでワタシなんか助けに来たの?別に、じゃん。」


ここに来て自分でも思わずめんどくさいなと思うことを言ってしまう。でも実際、こんな体良く助けられたからって、さっきの発言を許しているワタシじゃない。そもそもここにいる理由がそんな他人発言からだもの。


「そう思ってたらぁぁぁぁ!!!たすげでないじゃろおおおおおおおおおお!!!!!」


「………………ひとまず泣き止んで!!!」


「う………うむ。グズッ」


一呼吸置いて、クレアを落ち着かせる。


まだ少し泣いてるけど、とりあえず話はできるくらいには落ち着いてくれたので、話をする。


「あの時の発言は…………すまなかったと思っておる。いくら転生者とは言え、他人は言い過ぎたと思っておる。」


「…………うん…。」


「お前を…………巻き込みたく無いんじゃ。」


「……………何から……?」


「…………予言書にはな、あの時お前に見せた物以外にも転生者について書かれているんじゃ。内容としては、お前を巻き込んで、破壊神の封印が解けたり、世界で混乱が起きたり、まるでお前が全ての悪事のトリガーのような書かれ方をしているんじゃ。」


「…………………。」


「お前がわざとそんな社会が混乱するような悪事をわざと働くことなんて万が一、いや億が一にも無いことはワシには分かる。だからこそ、お前はおそらくそんな悪事にしまうんじゃ!お前に話した物語からも分かるように、ワシは人間達はそこまで好きじゃない………だから、お前にはずっとここn。」


「なっがあああああああああああああい!!!!!!」


思わずババチョップが炸裂してしまった。あんまり力は込めたつもりは無かったけど、クレアは頭を抱えている。


「け………結構大事な話………しとるんじゃぞ…………?」


「それって結局言い訳でしょ!!!結論を教えてよ!!!ワタシは!!クレアにとって!!!なんですか!!!!」


ワタシが聞きたいのはそこなんです!!!妙に長くてちょいちょい気になる内容だったけど、ワタシが今一番知りたいのはそこじゃなぁい!!!


さっきまでのお腹の痛みはどこへやら、お腹から声を出しクレアを問い詰めるワタシ。


「ワ………ワシは……………その…………………。」


「…………………………。」


数秒程沈黙が続き、クレアは言葉を続けた。







「お前を大事な我が子と思っとる!!!!!だから、あんなこと言ってすまんかった!!!!!!!」


「…………………………。」


何も言わないワタシを心配そうに見つめるクレア。ワタシもちょっと、何を言おうか迷ってしまっている。


「ワタシも…………クレアの言うこと聞かずに、また勝手に外出てごめんなさい。その…………もう一度、ちゃんと聞いていい?」


「…………なんじゃ?」


ずっとなぁなぁになって勝手に呼んでいたけど、傍から見たらくだらないやり取りかもしれないけど、ワタシはちゃんと聞いておきたかった。聞いておくべきだった。


「クレアのこと、『ママ』って呼んでいいですか?」


「…………………。」


初めてママと呼んだ時の顔とは違い、クレアの…………の顔は穏やかな笑顔でこちらを見つめてこう言った。






「もちろんじゃ。」





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