四葉のクローバー

四葉のクローバー

『四葉（よつば）のクローバーって、踏（ふ）まれて出来（でき）るんだって』

彼氏（かれし）に背中（せなか）を踏（ふ）まれながら、そんな会話（かいわ）を思（おも）い出（だ）していた。

『このね、成長（せいちょう）する途中（とちゅう）の１枚（まい）が、踏（ふ）まれて傷（きず）ついて、

　２枚（まい）に割（わ）れたら、四葉（よつば）になるんだって』

公園（こうえん）でそう語（かた）る少年（しょうねん）の目（め）は、太陽（たいよう）のように眩（まぶ）しい。

『それなのに、花言葉（はなことば）は『幸（しあわ）せ』って言（い）うんだよ、変（へん）なの』

少年（しょうねん）の頭（あたま）が下（した）にうつむき、黄色（きいろ）の帽子（ぼうし）がタンポポのよう

『幸（しあわ）せって、綺麗（きれい）なものではないのかもね。幸（しあわ）せの中（なか）にいるとさ、

傷（きず）ついたり、苦（くる）しかったりもするの。それを、幸（しあわ）せの膜（まく）が包（つつ）み隠（かく）してしまう。

それで、誰（だれ）にも気付（きづ）かれずに腐（くさ）ってしまう。

案外（あんがい）、幸（しあわ）せにならないほうが、幸（しあわ）せなのかもね』

そう言（い）って私（わたし）は、少年（しょうねん）の頭（あたま）をぐしゃぐしゃに撫（な）でる。

少年（しょうねん）は綿毛（わたげ）が弾（はじ）けたように笑（わら）って

『またね、おねえちゃん』

って小（ちい）さな手（て）を大（おお）きく振（ふ）った。

それから１ヶ月（かげつ）。少年（しょうねん）は隣町（となりまち）のマンションで遺体（いたい）となって発見（はっけん）された。

少年（しょうねん）は育児放棄（いくじほうき）されていた。「幸（しあわ）せ？」って彼氏（かれし）が聞（き）くから「うん、幸（しあわ）せ」って私（わたし）はうなずく。彼氏（かれし）が傷（きず）だらけの私（わたし）を抱（だ）き寄（よ）せて、

背中（せなか）のアザに「ごめんね」って涙（なみだ）を流（なが）す。

あの日（ひ）、少年（しょうねん）は言（い）った

『それでも僕（ぼく）は四葉（よつば）になるよ。

　四葉（よつば）になってお父（とう）さんとお母（かあ）さんに摘（つ）まれるの。

　それでふたりは幸（しあわ）せ、それがいい』