殲滅のディストピア
昔、世界中にゾンビが現れた。
人々は抵抗空しく、文明は崩壊...まではいかなかったが衰退はした。
その理由は人類の勝利でも、科学の勝利でもない。
ゾンビは日に当たると燃えて灰になる。
唸り声をあげて歩いてくるだけ。
この二つだ。
だがゾンビは全て燃え尽きたわけではない。
未だに発生初期のゾンビが地下や崩れた建物の中に存在しているらしい。
それにゾンビに噛まれなくても死ぬとゾンビ化する。
人類はそれにより二つに分けられた。
一つは高い壁の中に引きこもる上流階級と、その壁の中に入れないその他だ。
俺はその他の中でも更に下。
ゴミを漁ってギリギリの命を繋ぐ程度の底辺の中の底辺だ。
「よぉ爺さん、死ぬのか?」
「ワルガキか、後は任せる。」
「あいよ、じゃあな。」
道端の蓙の上で死にかけていた知り合いの爺さんにトドメを刺す。
そして爺さんの持ってた使えそうな物を回収してその場を去る。
これがここの日常だ。
死にかけが居たら救わずに殺すという暗黙のルールがある。
救おうとした結果救えずゾンビに...なんてよく聞く話だ。
治安の悪い場所だが、その暗黙のルールで殺しあいはそうそう起きない。
そのルールを無視した結果、スラム全体がゾンビ化して上流階級共が介入。
近場にそんな場所があると危険だからと焼却処分とされた例もあるらしい。
「ほんとクソみたいな世界だな...。」
壁の中には抗ゾンビ薬なる物があるらしいく、稀に壁の外側の人間を招いて受ける事が出きるらしいが俺のような完全にスラムの人間が受ける事は出来ない。
所詮スラムに住むドブネズミ。
さっきの爺さんの持ち物もあるがそれでも今日を暮らすのには足りない。
いつものゴミ場に行こうと道を歩いていると聞きなれない音が聴こえてきた。
確かあれは車と言う乗り物の音だ。
廃棄されたのを知り合いが住み家にしているのを見たことがあるが、こんなスラムに動く物があるとは思えない。
何か事件が起こっているのかもしれない。
さっさと逃げるのは簡単だ。
だが逃げたとして巻き込まれる可能性は無いのか。
一応だが確認しなければならない。
未来に夢も希望もなくクソみたいな生活しかないとしても死にたくはない。
動く車を使うなど上流階級しかあり得ない。
なら事件の範囲はこのスラム全体になる可能性がある。
「居たか?」
「居ない。全く、困った坊っちゃんだ。」
どうやら人探し、それも上流階級のクソガキっぽいな。
ならスラムに火を放つなどは無いだろう。
気付かれたら何をされるかわからないので、気付かれて無い今の内にさっさと去ろう。
今日も今日でまぁ貯める事は出来ないが今日を食い繋ぐ程度の稼ぎは出来た。
さっさと寝座に戻って無駄な消費をしない内に...。
最悪だ、寝座に侵入者だ。
今日はちょっと途中で分厚い雲が出て、その時ゾンビが這い出てきたと軽い騒ぎがあった。
俺の寝座は捨てられたコンテナとかいう物で入るには梯子を使うか自力で登って穴の空いた屋根から入らないとだが、コンテナ内部に入る梯子が外に出ている。
「おい、ここは俺の寝座だぞ。勝手に入るんじゃねぇ。」
ガンっと音を立てると中から物音がする。
唸り声でなく物音と言うことはゾンビではない。
ならばわからせてやろうとコンテナの中に降りたら居たのは少年だった。
それも随分身なりの良い。
「なんだ壁の中の人か。こんな所で薄汚れる前に...」
「助けてください!」
は?今こいつなんつった?
助けてだと?
壁の外を見捨ててる連中がよりにもよって壁の外の底辺も底辺な俺に向かって助けてだと?
「ふざけるな!ゾンビが現れてからお前らが...」
「そのゾンビの元凶に追われてます!」
「あん?」
元凶?こんなクソッタレな世界を産み出した元凶?
だがまて、こんな世界になったのはさっき死なせた爺さんのまた爺さんの世代って言われるほど昔だ。
そんなに生きれる人間が居るか?
「ざけろ。人間がそんな長生き出きるわけねぇだろがよぉ?」
「奴は...奴等は人間じゃない!吸血鬼なんだ!」
吸血鬼だぁ?つまり何か?
ゾンビではなくグールだってのか?
馬鹿馬鹿しい...!
そんなのが今の時代...。
「坊っちゃん見つけましたよ?」
「ひっ!?」
いつの間にか音も立てず俺の寝座に入ってきた男。
さっき見た自動車のとこに居た奴だな。
「おい、こいつも吸血鬼なのか。」
「ほぉ?我々の正体を知ってしまったか小僧。坊っちゃん、これは後でお仕置きですねぇ。」
そう言うと男の見た目が変わる。
なるほど何かを被る事で太陽の下でも活動できる様になったって訳だ。
「デイウォーカーでも無いだろうにそれ捨てて良いのかよ。」
「ほう、知識があるとは珍しいドブネズミだ。だが貴様が気にする事ではない!」
そう言って襲いかかってくる下位吸血鬼。
ドブネズミはドブネズミなのだが他者に、それも上流階級の元凶一味に言われると腹が立つ。
だから俺は、爺さんに教わった通りに銀光を右手に宿して襲い来る吸血鬼の心臓を一突きにして破壊してやった。
「ば...かな、貴様ヴァンパイアハンター...だと...。」
「あぁ、そうだよ。こんなスラムでも脈々と技を受け継いできてんだよ。全く、こんな技が本当に役に立つと半信半疑だったんだがなぁ。」
心臓を一突きされた吸血鬼はそのまま氷となって砕け散った。
あの爺さんはこの技をいつか使う日を夢見てたがまさか死んだその日の内にチャンスがあるとか報われねぇなぁ...。
「あ、あんたいったい...。」
「ん?俺か?俺は世界最後のヴァンパイアハンターの技を受け継いだただの...スラムの名前の無いドブネズミだよ。」
短編集 @C2H6O
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