第12話 ~何がしたい~

僕は両親と一緒に、親友のお通夜に参列した。

お通夜には、同級生、その親、そして先生たち、大勢の人が弔問に訪れた。


葬儀がひと段落し、彼の最後の姿に逢いに行こうと、2階の通夜振る舞いの席を離れ、外階段を下りかけた時だった。


「あの日さぁ、きっつくお仕置きしてあげたからさぁ、つい自殺しちゃったのかと思ったよ」

「でも、事故だって」

「そんなことで、自殺なんかするかよ」

「だよな」


彼ら3人は階段の下で顔を突き合わせ、小声で親友の死についてしゃべっていた。


「だって、ヤツがいきなり倒れたときさぁ、放っておけばよかったのに、先生呼びにいきやがってさ」

「あの後、職員室に呼び出されちゃってさぁ」

「なんか、俺らがイジメしてたみたいになっちゃったじゃんか」

「なまいきなヤツはハブってやろうぜって、せっかく仲間にしてやったのにさぁ」

「裏切るやつにはちゃんとお仕置きしてやらないとさ、また裏切るじゃん」

「頭わりーやつはこれだから困るよな」


僕が倒れたとき、先生を呼んでくれたのは親友だった。

そして、僕を助けた親友は裏切り者として彼らの理不尽な制裁を受けていた。


「そういえばさ、最後の想い出作りに好きな子の体操着とってこようぜって言ったじゃん」

「そしたら、あいつ、ほんとに取ってきちゃってさ」

「あんまりビビるから、じゃ、ヤツのせいにしちゃえばいいじゃんって、教えてやったのに逃げちゃうし、ひどいよな」

「でもさ、盗んだのバラすぞって言えば何でもゆうこと聞くイイやつになったじゃん」

「だよな、残念残念」


ぼくのこころの中の、ものすごい深いところから、自分が自分であり続けられないような、制御不能な感情が沸き上がっていた。

気が付くと彼ら3人の前に立ってこう叫んでいた。


「いったい、なにがしたい!」


次の瞬間、暗闇と静寂の中に3つの合わせ鏡が現われた。

黒雲は轟音を響かせ、稲光を発し鏡を照らす。


1つの鏡には、若くして文壇で輝き、いくつもの有名な賞をもらって、華やかな芸能界で活躍する青年の姿が映っていた。

もう一つの鏡には、何人も連れ立って歩く権威ある医者の姿が見えた。

さらに別の鏡には、胸にひまわりと天秤のバッジを付けて熱弁をふるう弁護士の姿があった。


僕はその3つの鏡に意識を集中し、右に視線を向けて固く目を閉じた。


「なんだ、おまえ、馬鹿みたいに、大声出すんじゃないよ」


そういって、彼らは斎場から出て行った。


「僕は、何がしたかったんだ」


夜の闇の中、僕は自責の念に押しつぶされそうになっていた。

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