第8話 ~負の感情の果て~

彼が交差点に現われなくなってから、僕は孤独な時間を過ごしていた。

親友が僕から離れてしまった寂しさと悲しさは、消えることはない。


でも、孤独耐性が強い僕にとって、人生すべてを悲観するほどの苦しみではなかった。

他人はすべて過去の存在、だから人は誰しも孤独の中で生きざるを得ないことを理解していたからだ。


そんな無機質な僕の感情や態度は彼らにとって、無性に癪に障ったのかもしれない。


どうして、という妬み。どうせ、という腐り。なんで、という卑しみ。

負の感情の、連鎖の果ての卑しみは、身勝手な理屈で理不尽な所業を肯定する。

そして、理性を失った人間は、人に対して残酷になれるのだと思う。


僕は、給食を食べ終わると、教室にいるのが嫌だったので、体育館の隠れたところで独り小さなアリやダンゴムシと戯れていた。


ある日の昼休み、女子の体操着が紛失するという事件が起きた。

教室に戻ると、犯人は僕、ということになっていた。

なぜなら僕のロッカーの奥から見つかったからだった。

当然、身に覚えはない。でも、犯人ではないという証拠もない。


「僕は知らない」とだけ一言つぶやいて、席についた。


騒ぎを聞きつけた担任の先生が、生徒達から事情を聴いていた。

5時限目の後、僕は職員室に呼ばれた。


「君じゃないことはわかっている」

「彼女も、すぐに見つかったからいいと言っているしね」

「ひどいいたずらだけど、これ以上犯人捜しをしても、だれもうれしくないだろ」

「先生からみんなに注意しておくから、だから、この件はこれでおしまいな」


僕も、それでよかった。

先生は僕のことをよく理解していた。

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